それぞれの戦い 白銀の騎士伝説(前編) 5
それはすごい戦闘だった。
激しさよりも、美しい舞踊を見ているかのような感動を、周囲の人々に与えた。
獣化して、力が大きく跳ね上がったマイネーの、大きな斧の攻撃を、ジーンの細い剣で受けるが、シュンという、涼やかな音と共に、華麗に力の方向を変えられ、マイネーは己の力を発揮する事が出来ずに流される。
しかし、流された勢いがそのまま次の攻撃に生かせるため、マイネーは何度も攻撃を加える。
斧だけではない。己の四肢や頭、強力な爪や牙も使うが、どの攻撃も、ぎりぎりで受け流される。
特大の火炎魔法を放っても、ジーンの剣に吸い込まれるように集まり、誰もいない上方に打ち上げられてしまう。
一転して、ジーンが攻勢に回ると、マイネーはそれを防ぐために斧を振るう。
攻撃を受けるのにも、斧がまるでジーンの剣に吸い寄せられるかのように動いて、美しくも優雅な軌跡を描く。
周囲30メートルほどには人垣が出来ているため、極狭い空間だというにもかかわらず、マイネーは存分動いて、まるで広大な平野で戦っているかのような錯覚を覚える。
そして、いくら連撃を放っても、どれだけ激しく動いても、さほどに疲れない。
もちろん、魔法を放った時には、さすがにマナ消費の疲労はある。それだけに、魔法を使うのが惜しくなる。
ジーンの動きは凄まじく速かった。単純に速度が速いのではない。一つの動きが、攻撃も守りも完璧に行うため、動作が速く感じるのである。更にその一つの動きの中に、どれほどの技が籠められているのか、それは想像も出来ない程だった。
例えば、確実に停止したところに斧を振り下ろすと、目の前のジーンの姿を見失う。動体視力はトラ獣人のマイネーだけにとんでもないものを持っている。マイネーにとって、コイントスの遊びは賭けでもゲームでもない。回転するコインのガラなど止まっているように見えるので、裏表などわかってしまうのだ。
にもかかわらず、ジーンの全身を見失う。
これは、「視覚誘導」「認識誘導」「動きの緩急」、更に脱力による加速によってである。ジーンは得意の「圧蹴」や「無我」などを使う事も無く、そうした事をやってのける。
端から見ていると、マイネーがジーンを見失っている事には気づけない。
マイネーは興奮する。
こんな濃密な訓練、そして時間は経験した事がなかった。この訓練を毎日受けていたカシムを、心底羨ましく思った。
とは言え、マイネーは実際にカシムが訓練を受けているところは見た事がないからそう言えるだけである。
今マイネーが受けている指導は、ジーンの他人に対する優しい指導だからである。
「あと5分」
ジーンが残酷な宣告する。
濃密な時間はあっという間に過ぎていった。
「フッフッフッフッ」
マイネーは笑う。こうなったらやるしかない。
後先考えずに、どうしても試したい。
目の前の伝説は、この技に対して、どう対応するのかを。
「嘘だろ!?」
「馬鹿、族長!!」
周囲の戦士たちから悲鳴が上がる。
訓練を見守っていた人たちが一斉に逃げ出す。
マイネーは、斧を咥えると、白熱の炎を身に纏い始める。
体が変化し、半獣半人の姿から、四つ這いの完全獣化に移行する。
周囲の空間が灼熱と化していく。事実、マイネーの足下の地面は真っ赤に焼けている。
完全獣化は、トラと、ライオンの獣人にしか出来ない変化である。その中でも、マイネーは、己の得意とする超級魔法と合わせて、自らを太陽に変じる技を体得した。
かつて、闘神王に手傷を負わせた必殺技である。
その名を、「レニオス・ティガ」。
この技を見た誰かがそう叫んだから、この名前になった。
多分古代エレス語で、「偉大なる太陽」とか、「激しく凶暴な太陽」とか言う意味らしい。また、可愛く表現すると「明るい太陽」とも言えるらしい。いずれにせよ、「太陽」を表す言語の一つだった。
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