それぞれの戦い  不死海の放浪者 4

 悲しみに暮れて絶望していたランダの足が向かったのは、幼い頃にシンシアと過ごしたひまわり学園だった。

 クレセアは事情を聞いて、ランダに激しく同情すると共に、シンシアの事に心痛めた。

 そして、ランダは落ち着くまでの間、ひまわり学園の職員となった。

 その時に、カシムが5歳でペンダートン家に帰ってくる。


 クレセアが情報を集めてくれたため、シンシアは、たまたま一瞬出現した地獄の穴に落ちたのではという事がわかった。

 

 それが分かると、ランダはひまわり学園を辞して、地獄の手がかりを見つける為に、再び冒険者として活動していく事になった。

 特に、情報を提供してくれる者からの依頼を直接受ける、裏冒険者になっていったのである。





 そして、カシムと冒険をして、地獄に関する新しい情報をどんどん得ていき、ついに「地獄目録」という本を手に入れた。

 エレス公用語では無いため、翻訳に時間が掛かったが、どうも、重要な手がかりが有る場所がいくつか書かれていた。

 その中でも、ランダが知りたい情報は、不死海沿岸地方にある事まで分かってきた。


 ランダは人に者を頼む事が苦手で、ここで語学に堪能な考古学者であるカシムに翻訳を依頼していれば、もっと早く適切な情報を得られていたはずである。

 それに、この不死海の情報もカシムからかなり詳しく得られていただろう。

 だが、そうした事が苦手なのがランダである。シンシアがいないと、いつまでたってもボンヤリしたままの男だと、ランダ自身は自覚している。

 シンシアは自分の半身なのだ。





 ランダはすでに沿岸を1往復半していた。

 光の鎧の移動速度も、連続移動時間も、馬よりも遥かに早く長い。それでも、2000キロを探索、捜索、聞き込みをしながらの旅である。

 未だに1つの情報も得られないまま、小さな漁村のロブリー村に来ていた。

 波の荒れる不死海は、いつも灰色にどんより濁っていて、漁に出るにも危険が伴う。その為、不死海沿岸の漁村は栄える事が難しい。

 このロブリーも、何十年もほとんど姿を変えていないそうだ。

 潮と魚の生臭い風が村の中を吹き抜けていく。


「宿を頼む」

 夜半になってロブリー村に着いたランダが、村に2軒しか無い宿に入る。

 グラーダ国内にも、ここまで活気の無い村が、未だに存在するものかと思ってしまう。

 宿の主人も疲れたような顔で無言で頷き、宿代を受け取ると、鍵を手渡す。

 食事を手配すると、一先ずランダは部屋に行く。

「何も得られない。このままで良いのだろうか・・・・・・」

 思わずため息がこぼれる。

 ヒントも得られず、カシムと離れている事も不安だった。

 黒魔導師として、戦闘力は高くとも、結局何も出来ない自分に苛立つ。

 自分の無力さを思い知る。


 最近は開く回数が少なくなった地獄目録の書を、もう一度開いてみる。

 見落としがあるのだろう。ヒントが隠されているのだろう。

 そう思って、何度も確認したが、何も見つけられなくなっていた。

 今回もやはり何も見つけられなかった。


「1度、カシムと合流するべきだな」

 そう思って、ランダは食堂に降りていく。

 



 テーブルには煮魚とサラダとパンが並ぶ。飲み物は葡萄酒だ。飲んだところでランダは酔えない。

 ボンヤリと壁を眺めながら食事を食べていたら、驚くべき物が目にとまった。

 黄金の髪をした、黒いドレス姿の少女の絵が壁に掛けられていたのだ。

「ご主人。これは?!」

 

 カシムは言っていた。

 魔人形ルシオールの髪の毛は、元々誰か実在の人物の髪を一部使っていて、それが「悪魔の鎧」に力を与えていたし、魔人形を動かしてもいた。そして、魔人形は、その誰かをモデルにして作られたと言う事を。


 食堂の壁に飾られている少女の絵は、魔人形ルシオールにそっくりである。

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