それぞれの戦い  不死海の放浪者 3

 ランダの母親は、ランダが給料を借金返済に充ててくれるようになったので、仕事を減らして、ゆとりのある生活が送れるようになった。一緒に暮らす事も出来ている。

 そして、ランダが16歳の時に、父親の借金を、ようやく全て返済する事が出来た。

 これで、母親もようやく新しい人生に進む事が出来るはずだったが、借金を返済した事と、ランダが成人した事で、すっかり安心しきったのか、まるでロウソクの火が吹き消えてしまったかのように突然倒れて、間もなく息を引き取った。



 ランダは、生きる目的を失ってしまった。

 これから母に孝行したかった。

 自分が長命な第3世代エルフで、母がただのエルフなのだから、自分が母親を看取る事になるとは思っていたが、あまりにも早すぎた。


 そんなランダに、再び生きる目的を与えてくれたのは、母の葬儀に駆けつけてくれたシンシアだった。

 

 わずか1年ぶりの再会だったが、シンシアはすっかり大人の女性になっていた。

 黒髪は長く伸びて、勝ち気な黒い瞳を輝かせていた。口にはほんのり紅を差して、ランダよりも白い肌は美しい。

 身長は人間の女性としては高く170センチだが、ランダが2メートルを超えているので、その差はかなりある。


「ランダ!旅に出よう!世界を見て回ろうよ!!」

 幼い時同様、強引にランダの手を引いて冒険者ギルドに連れて行き、そのまま冒険者登録を済ませると、すぐに2人とも職を辞して旅に出た。



 2人とも魔法使いのパーティーだが、2人共が近接戦闘も得意だった。

 どちらも、ランダの方が種族的な能力もあって強かったが、作戦指揮や、旅を牽引するにはシンシアがいなければ、ランダでは何も出来なかった。

「ランダは相変わらずボンヤリしている」

 シンシアはよくそう言っていた。


 

 そして、17歳になった時、シンシアが切り出す。

「じゃあ、結婚しましょう!!」

「え?」

 唐突だった。ランダは全く嫌では無かったが、あまりにも何気なく突然切り出されたから驚いた。

「だって、あんた放っておいたら、いつまでたってもプロポーズしてくれないでしょ?あたしは人間だから、すぐに死んじゃうんだからさ!良い事だったら急がなきゃ!」

 もっともだと思いつつもまごついていたら、シンシアは手を引いて近くの役場に行って、さっさと婚姻申請を済ませてしまった。

「シンシア。・・・・・・その」

 ランダは考える事が多すぎて、言葉が選び出せない。

「なに?あたしは出会った時からあんたと結婚する事に決めてたの!ランダのくせに、嫌だって言うの?!」

 違う。嬉しい。

 だけど、もうちょっと手順を踏みたかった。それに、プロポーズは自分からしたかったし、場所も選びたかった。

「あたしは人間だから、ランダが色々考えている間におばあちゃんになるの!だから、さっさと結婚したかったのよ!本当は15歳の時に結婚したかったのに!」

 ランダは苦笑する。

 確かにそうしていれば、母親に嫁を見せる事も、もしかしたら孫を見せる事も出来たかも知れない。そうしたら、母も死なずに頑張ってくれたかも知れない。


 そんな事を考えていたら、シンシアが遥かに背が高いランダの頭を掴んで胸に抱きしめる。

「あんたは、無口なくせに、考えてる事が丸わかり・・・・・・」

「すまない、シンシア」

 ランダは、シンシアと向き合う。

「俺もシンシアを愛している。ずっと幼い頃から、君だけを愛していた」

 シンシアの顔が真っ赤になる。見た事も無いほどにうろたえる。

「ば、馬鹿!!今までそんな事、一度も言わなかったじゃない!?」

「・・・・・・だから、今言った」

「ラ、ランダのくせにぃ!!」

 バタバタもがくシンシアをランダは引き寄せて口づけを交わす。シンシアは、もがくのをやめて体の力を抜く。

 長い口づけの後で、ランダはもう一度「愛している」と告げた。

「あ、あたしも愛してるわ。絶対幸せにするから」

 言われてランダは憮然とする。それも自分が言いたかった言葉だったからだ。


 


 それからわずかに3日後の事である。

 レグラーダからザメルを結ぶ街道を歩いていた時の事である。

 いつも通りシンシアが前を歩き、ランダは斜め後ろを歩く。

 前触れも無く、シンシアの体が地面に吸い込まれて行った。

 シンシアも驚く間もなく、悲鳴すら上げられず、音も無く地面に吸い込まれた。

 地面には穴も無く、ランダは慌てて地面を探ったが、魔法の痕跡すら無い。

 その後、手を尽くして探したが、シンシアの行方はようとして知れなかった。


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