それぞれの戦い 不死海の放浪者 1
ランダが、カシムたちと別れて、グラーダ国の王都に海路でたどり着いたのは9月5日の事である。
それから、グラーダ国西に広がる「不死海」沿岸にたどり着き、すでに3ヶ月沿岸を彷徨っている。
不死海沿岸は、南北に約1000キロ伸びている。
沿岸には、カシムが王女アクシスを救出した「王家の墓遺跡」もある。
その遺跡も地獄教徒によって改造された後、今現在はグラーダ軍によって完全に破壊されてしまっている。
かつては、南北に細長い国があったが、今はその「王家の墓遺跡」
「不死海」と言う名前の由来は諸説有りわかっていない。
神が「再生の地」とした説。不死の怪物がいたという説。逆に不死の英雄が誕生した説。死を逃れるために陽が沈む海に祈った昔の民が名付けたと言う説。
カシムであれば、そうした由来に対して、情熱的に調べたり、自分の考えを述べたりしたのだろうが、ランダには特に興味引かれる事では無い。
だが、これまでの調査と、ハイエルフから貰った書物である「地獄目録」によると、グラーダ国領内の(かつては違う国だったが)不死海沿岸のどこかに、地獄に通じる重大な預言書が残されていると言う事だった。
南のオルスン国まで範囲に含まれているので、ざっと直線距離でも2000キロを越えている。
あまりにも長大な距離なので、1人で探索する限界を超えている。
だが、それがどんな手がかりであろうと、ランダには重要だった。
ランダの生きる目的は、妻であるシンシアを探す事だった。
今はカシムたちとの竜騎士探索行もランダにとっては重要だったが、だからと言って、シンシアを探す事をあきらめる訳には決していかない。
ランダの父親は、多額の借金をして逃げた。ギャンブルでもしたのだろうか。
父が消えると、すぐに借金取りが家に押しかけてきた。
母は仕事を増やさざるを得ず、朝も晩も働く事となった。
その頃ランダは4歳で、幼いながらに母の身を心配していた。
そんな時、母に良い働き口を斡旋してくれたのが、ペンダートン家のクレセアだった。カシムの祖母に当たる。
クレセアは、王都の敷地内と、南東のルーセア地方にあるペンダートン所領内に孤児等の保護施設を建てており、世界を巡り紛争地帯で、貧困で親を亡くした子どもを引き取り育てていた。
ランダも、母が仕事に専念できるように保護施設に預けられる事となった。
母の身を案じていたランダは、素直に了承して施設に入所して生活する事となった。
施設にいる子どもは、0歳から14歳までの未成年の子どもである。
管理する職員のほとんどは、この施設から出た成人で、ペンダートン家に雇われていた。住み込みで働く職員も少なくない。
施設の環境は、驚くほど良かった。
生活設備は、とても整っていて、かなり高級な家具、ベッドを使用する事が出来たし、食事も栄養をしっかり考えられた物が過不足無く用意されていた。
運動施設、遊戯施設もあり、安心して遊んで過ごす事が出来た。
図書室では、幼い子の絵本から、大きい子の本、専門書など用意されていた。
風呂は温泉で、年齢ごと、性別ごとの風呂が各3種類有った。
プール、庭園、音楽室など、様々な施設が整っていたので、普通に生活するより、よほど恵まれた環境となっていた。
0歳~2歳までは6人部屋で、必ず職員が3人常時配置されている。
3歳から6歳は、10人部屋で、ここは1人の職員は常時配置。
7歳から14歳は、4人部屋で、常時配置の職員はいなくなる。ここから「上級生」と呼ばれるようになり、それ以下の「下級生」の世話をする義務が生じてくる。そして、部屋割りも男女も別室となる。
施設から学校に通う事も出来た。5歳以上の子どもはペンダートン家から近くにある、メルスィン初等学校に通える。
そして、10歳以上になれば、中等部や、才能によっては高等学校、魔法学校にも通えるようになる。
このクレセアの作った保護施設は「ひまわり学園」という名称がある。
なので、成人した職員は「卒業生」と呼ばれている。もっとも、入所している子どもたちにとっては「先生」である。
ひまわり学園に来る子どもは、皆心に深い傷を負っている。なので、非情に扱いが難しい子どもが多いし、発達が遅れてしまう子どもも少なくなかった。
ただ、この「先生」たちも、同じ境遇だったので、子どもたちに優しく暖かく、愛情を持って接していた。
そして、クレセア自身もこの施設をよく訪れて、子どもたちと関わっていた。
深い愛情と、忍耐深い子どもの成長を見守る姿勢、そして、多くの学びのチャンスを与えられる事で、この施設の卒業生は、優秀な人材に育つ事が多かった。
成人して職業選択権が得られると、就職の斡旋もひまわり学園がしていた。
圧倒的にペンダートン家で働く事を希望する者が多かったが、さすがに全てを雇う事は出来ないので、厳選される。
役人になったり、王城で働く者や、手に職を付ける者もいた。
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