第十二巻  それぞれの戦い

それぞれの戦い  最強の戦い(前編) 1

 神の力は、地上人に比べて絶大だ。

 とは言え、第五級神だと、魔法は使えるが、一般人と大差ない。寿命も100年程度だ。

 第四級神になると、寿命が一気に伸びて、魔法も詠唱無く使えるし、自ら魔法開発やダンジョン創造も出来るようになる。

 第三級神は、エリートであり、第二級神ともなると、天界のほぼ頂点だ。実務的な事は、全てこの第二級神24人が行う。

 人間では、太刀打ち出来ない程の力を持つようになる。


 そして、第一級神は、10万人ほどいる神々の中でも、12人しかおらず、人々にも広く知られ、信仰を得るようになる。

 象徴的な存在で有り、地上人では戦うなど考えも寄らない存在となる。


 第一級神と同等の力を持つと言われている魔界の魔神王が3人だというのだから、頂点の戦いとなれば、天界が有利と思われる。

 ただし、魔界には第二級神と同等の実力を持つ、魔戦将軍、72魔神、朱刃八會しゅじんはっかい、魔界の諸侯など、そうそうたるメンバーが次席に控えている。

 その為、総力戦となれば、どちらが勝つとも言えないバランスとなっている。


 もっとも、対立しているように見せているのは、真実の姿ではなく、今は互いに一定の距離を取りつつも不干渉を貫いている。

 その「今」と言うのは、数千年前の聖魔戦争で、地上が壊滅し、天界、魔界、精霊界も絶大な被害を出して以来の事である。


 




 そして、現在。

 バルタ騒乱。「ギルド戦争」終結の知らせを受けたグラーダ三世は、玉座から立ち上がる。

 

 ヨールド自称大統領にして、元バルタ軍総帥は、捕らえられたとたんに自供を始めた。

 それによって、様々な事が、終戦を迎える前にわかっていた。

 

 ヨールドらは、過激な人間至上主義者にして、天界信仰者だった。

 そのヨールドらをそそのかしたのは、第二級神数名で、理想国家を作り、そこで自身らを信仰の中心に据えようと図っていたそうだ。

 元々、ヨールドは議会派で、国王の存在を疎ましく思っていた。

 そして、少しも国政が進まず、他国との発展に差が開いていく現状を憂えていた将軍たちを味方に付け、また、人事操作をして、自らの息の掛かった者たちを重用し始める。


 そして、急進的に軍部内の改革を進めていったヨールドらが決起したのが、グラーダ三世が発した、世界会議の開催に合わせての事である。

 世界会議開催期間は、バルタ国から「国王」と「首相」という、2つの立場の最高責任者が不在になる。

 そこで行動を起こす。

 元々、ヨールドと親しかったミーン議員が臨時政府を起こし、大統領補佐官となり、国政をまとめるはずだった。


 だが、ヨールドも、ミーンも、新政府樹立宣言をした10月15日のその日の内に、竜の団のカシムによって捕らえられてしまった。


 更に、冒険者ギルドがヨールドら新政府軍をモンスター指定し、緊急クエストを発令した事や、エルフの大森林からハイエルフが参戦した事により、計画は完全に破綻した。

 そうして、事態が収束したのが10月25日。



 バルタ国軍による反乱と、住民の大虐殺の背景にいた神は5人の第二級神。

 2人は戦死し、3人は捕らえられている。

 いずれ担ぎ上げられたのだろうが、その中には伝言を司る神、「バロイ」が、指導者である事がわかっている。

 

 バロイの息子、バルバロは、約半年前の5月に、禁止区域に迷宮を作り、魔物の大量出現を招いてしまった事により、天界12神によって、何らかの処分をされていた。

 バロイには多くの妻もいれば、それ相応の数の子どもがいる。また、人間との間にも子を儲けている。

 それ故に、たった1人のバルバロの為だけに、第一級神にも手が届いている現状、これ程の問題を起こす理由は考えにくい。

 だが、バルバロの処分が、バロイの決断に、ある一定の方向を与えたのは確かだろう。


 バルバロに処分を求めたのはグラーダ三世だったが、処分を決めたのは12神であり、処分内容はグラーダ三世も知らない。

 それ故に、グラーダ三世の怒りは、凄まじい。

 今回バロイが地上に対して行った事は、完全な逆恨みである。

 

 グラーダ三世は、元々、天界も魔界も、出来る事ならば粉砕してしまいたかった。

 神の有り様も、魔神の有り様も、人間が人間らしくある為には不要だった。


 それが出来ない理由は、己1人の武力では、12神を半数は道連れに出来るだろうが、結局は負けてしまう事がわかっていた。

 魔神にしても、魔神王3人は倒せても、その次席の戦力が大きすぎて、やはり最終的には敗北する。

 そうなると、聖魔大戦で、この宇宙が滅んでしまうのだ。

 今、自分は死んではいけないし、神も魔神も貴重な戦力だ。

 だから、上手く御していかなければならない。

 

 それに、今のエレスは魔法文化が華開いている。

 魔法の大前提が、現在のところ、神や魔神が魔法開発して、魔法使いが契約する事で成されている以上、神も、魔神も、やはり死なれては困るのだ。


 今回も、今「伝言の神」バロイに死なれては、メッセンジャー魔法が失われてしまう。

 

 かといって、今回の蛮行を許す訳にはいかない。


 だから、グラーダ三世は、滞在して貰っている客人たちを、一室に呼び、これからの事を話さねばならなかった。

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