外伝 短編11  竜の団の誕生会 3

「・・・・・・。じゃあ、ミルの番だな」

 俺がミルに目を向ける。

「はい、は~~い!ミルが指名してもいい?!」

 ミルが手を挙げるので、俺は頷く。

「じゃあ、まずはお兄ちゃん!!」

 ええ?俺はてっきり最後に指名されるものと思っていたよ。

 仲間たちも驚いた様子だった。

「お、おう」

 言ったはいいが、ちょっと頭の中が白くなってしまった。

「え~とだな・・・・・・」

 ミルがワクワクして俺を見ている。まあいい。思い浮かんだ事を言えば良いだけだ。


「ミルは、そうだな。明るく、素直で、無邪気で、だから可愛いな。うん。そうだな、可愛い。甘えてくるのも、正直嫌いじゃない。いつもは邪険にしているが、無いと少し淋しくなる」

 おお!?俺は何を口走ってしまったんだ?!

「うわ~~~!じゃあ、ミルもっと甘えるね!!」

「あ、いや。そうじゃなくって・・・・・・」

 しかし、一度口から滑り出てしまった事は、無かった事にはならない。ある程度は観念しよう。

「後だな。仲間としては凄く助かっている。ミルにしか出来ない事が多いし、無理もさせていて悪いと思っている。ついハイエルフの能力に甘えてしまっているよな、俺たち」

 仲間たちも、苦笑しながら頷く。

「でも、やっぱり俺、個人としては、ミルがいつも俺を真っ直ぐに信じてくれるのは有り難い。その期待に応えないと行けないと思う。これからもよろしく頼むな」

 拍手が起こる。ちょっとやり直したいが、まあいいか。

 ミルも嬉しそうに、早速俺の膝に飛び乗って来る。誕生日だし、可愛がってやるか。


「じゃあ、次は~~~。ダカダカダカダカ~~!」

 太鼓のリズムを口で言うミル。

「じゃん!アール!!」

「は、はい!」

 指名されて、アールが背筋を伸ばす。

「ミ、ミルさんは、兄様の事を、『お兄ちゃん』って呼ぶから、私も何だか妹が出来たようで可愛く思っています。・・・・・・あ。でも兄様と結婚したら、私が義妹いもうとになるんですね」

「うん!!」

「ならんわ!!」

 ミルと俺が同時に反対の事を言う。

 すると、可愛そうなアールがあたふたしてしまう。

「ご、ごめんなさい。変な事言ってしまって」

 気にするな。いつも変な事を言っているのは、アール以外の連中だ。

「で、でも、ミルさんが一緒だと、何だか心が少し和らぐんです。だから、いつもつけ回すような事しててごめんなさい」

 うん?気付かなかったけど、言われて見れば、俺といない時は、ミルの側にいる事が多い気がする。

 ハイエルフの何かの能力が、アールを癒やしているとでも言うのだろうか?

 仲間たちも首を傾げている。普通に聞いたら、ちょっと怖いけど、アールの現状を知っているだけに、考える顔は真剣だ。

「いいよ!ミルもアールの事大好きだし、義妹になったら嬉しいもん!アールも一緒にお兄ちゃんに甘えようね」

 ミルがアールを手招きするので、アールは怖ず怖ず俺の隣に来て、俺の腕にしがみつく。

 だから、ミルは良いけど、アールはマズいって。腕がさ、完全に挟まって、実に気持ちいいんだよ!!


「じゃあ、ファーン!!」

 ミルが素知らぬ顔で、次の指名をする。ファーンの顔が引きつっている。

「てめぇ。誕生日だからって好き放題だな・・・・・・」

 リラさんとファーンが怒っているし、エレナが再び軽蔑の眼差しで俺を見ている。

 でもアールが純粋なだけに、誰もアールには文句は言えない。

「まあ良い。じゃ、ミルな。はっきり言ってハイエルフ様ってだけで充分凄いし羨ましいね。可愛いし、可愛いままだ。誰からも愛されるけど、それも仕方がねぇ。お前の性格はとびきり良いからな。悪口は言うけど、陰口は叩かない。怒るけど憎まない。難しい事でもがんばる。精神は幼いくせに、俺たちに合わせようと無理しているしな。そんな所は、正直尊敬するぜ、マジで。オレには真似出来ねぇもんな。だからよ。このまま変わらないでいて欲しいな」

 ああ。同感だ。と言うか、最初は俺もこう言う事を言いたかったんだよな。ミルの性格の良さ。それが一番可愛いポイントだ。料理はゲボマズだけどな。

「うふふ。ありがと、ファーン!」

「どういたしまして、だ」


「じゃあ、次は~~~。ダカダカダカ~~!!じゃん!エレナ!!」

「は~~い!」

 指名されて、鼻血を拭きながら、エレナが手を挙げる。

「ミルちゃんは、ものっっっすごく可愛いです!天使です!妖精です!全ての人がひれ伏すほどの可愛さがあります!目に入れても痛くありません!むしろ入って下さい!!」

 うわあ。気持ち悪いぞエレナ!完全に変態むき出しじゃないか!!

「でも、そんなに可愛いのに、健気で、真面目。見えない所で努力してますよね!そんなところが、益々素敵です!!料理も、宿とかでレシピ聞いてますもんね。まだ成果は出てないけど、練習中ですもんね」

 エレナ。意外と見ているな。料理練習なんて、俺、知らなかった。ゲボマズとか思って悪かった。

「あとはサービス精神旺盛で、可愛い服を着てくれたり、ポーズ取ってくれたりするの、最高です!!」

 最後に、また気持ち悪くなった。

 でも、女性陣からは拍手だ。結構女性陣からの信頼を得ているようだ。俺的には、風呂でいつも鼻血出しているから、気持ち悪がられていないか心配だったが・・・・・・。


「じゃあ、ついに・・・・・・」

「・・・・・・私の番ね」

 あれ?誉める企画だよな?2人の雰囲気が何だかけんのんだ。

「ミル。あなたは元気で明るくって、小さくて可愛らしいわ。ファーンの言う通り性格も良いし、どこに悪い所があるのか、探す事が難しいの。私はそんなミルが大好き。そんなミルだから大好きなの。だからね。いつまでも変わらないでいてね」

 剣呑な雰囲気から一転して、とても良い言葉じゃないか。ちょっと安心した。

「むきーーーー!!」

 ミルが怒り出す。

「ミルは変わらないんじゃない!変われないの!!リラは自分がおっぱい大きいからって、ミルの事いじめてる!!意地悪だ!!」

「あらあら?言いがかりはよしてちょうだい?!胸の事は話してないわ。あなたのその性格とか可愛らしさが大好きだって話しをしたのよ?」

 リラさん。「お~~~ほほほほ」とか、悪役令嬢みたいな笑い方してる。

「今に見ていろ!!お兄ちゃんを小さい子好きにしてみせる!!そうしたらお兄ちゃんは一生ミルの虜なんだから!!」

「あら。カシム君にも選ぶ権利はあるのよ?」

「あ~~。はいはい。2人して遊んでないで・・・・・・。これで『おめでとう』にして良いのか?」

 ファーンがあきれ顔で言うと、リラさんとミルが顔を見合わせて笑い合う。

 何だか楽しそうだな。

「待って。最後にもう一回お兄ちゃんです!!」

 ミルがいきなりそう言った。

「え?俺もう1回なの?」

「甘やかしても良いんだよ、お兄ちゃん!」

 ミルは得意そうに俺の膝の上でニコニコしている。

 途中から司会者をしているファーンと目が合い、苦笑されたからには、まあ、俺が締めるか。


「じゃあ、ミルな。俺をローニーみたいに改造すると、センス・シアに夢中になるかも知れないから、そこんところ、ちゃんと考えような」

 その一言には、ミルも血の気が引き、反省する。

「そんな事しなくても、ミルはとても可愛いと思っている。もう大体ファーンに言われたけど、俺はお前を頼りにしてるし、尊敬もしている。大切で、欠かす事が出来ない仲間だ。純真で頑張り屋のミルが大好きだ。だからさ、いつまでも変わらないでいてくれよな」

「・・・・・・お兄ちゃんにそう言われると、変われないのも悪くない気がしてくるね。フフフ」

「あら。私と扱いに差があるじゃない?」

 またややこしくなりそうだから、俺はすかさず言ってやった。

「ミル。誕生日おめでとう!」

「「「「「おめでとう!!」」」」」

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