外伝 短編11 竜の団の誕生会 2
そして、現在は10月13日。
野外キャンプ中だが、ここで俺たちはミルと、エレナの誕生会を行う事となった。
豪華に作った野外メシを食べた後、クッキーを食べながら恒例となった「誉めるプレゼント」を行う。
「じゃあ、誕生日順で、エレナからだな。当日にやってやれなくて悪かったな」
俺が言うと、エレナが「いえいえ~」とワクワクしながら言う。手にハンカチを用意しているのが気になる。
「じゃあ、誰から行くか?」
俺が尋ねると、ファーンが手を挙げる。
「新規メンバーからだとアールがかわいそうじゃん。だから、まずはオレからいくわ」
アールが戸惑った様子だったので、ファーンからやってくれると助かる。
「エレナは、明るくって、即断即決!素直で裏表がない所がさっぱりしていて、オレも話しやすい。何というか、無理せずに付き合う事が出来るのはエレナの魅力だよな。あとは、空飛べるのは正直羨ましいぜ。ピーちゃん姿も結構可愛くって好きだぜ」
拍手が起こる。
「きゃ~~~!嬉しい!!もういつでも『ピーちゃん』になりますから、いっぱい撫でて下さい!!」
俺が「ピーちゃん」って言ったら怒ってたよな・・・・・・。
エレナは手にしたハンカチで鼻を押さえているから、何だか鼻声だ。
「では、次は私が」
リラさんが熱い視線をエレナに送る。いかんな。ちょっとドキドキホワホワしてきた。
「エレナはとっても可愛らしくて、私も大好きです。髪もきれいなカールで色も素敵。私ももっと明るい髪の色が良かったから、羨ましいわ。あと、戦士だから、戦う心構えが出来ている所も見習わないといけないわね。私も、もっと仲間の役に立ちたいし」
リラさんの貢献度の高さは、きっと俺以上ですが。
「あと、エレナ!!私もがんばるから、エレナも一緒にがんばりましょうね!!」
最後に熱い言葉と共に、リラさんがエレナと手を取り合う。
エレナは片手を鼻に当てているので、リラさんが左手を握りしめる形になっている。
エレナの顔が真っ赤で、声にならない声で叫んでいる。幸せなのだろうな、きっと。
「じゃあ、次、ミル!」
おい。そろそろ俺もこっそり行こうと思ってたのに・・・・・・。
「エレナはね!元気で明るくって、いつもミルと遊んでくれるから好き!最初は嫌いだったんだよ、お兄ちゃんの悪口言うから!でも、男の人怖いんじゃしょうが無いよね。そんながんばっているエレナは、やっぱり好き!戦いの事も、みんな教えてくれないし、練習も一緒にしてくれないけど、エレナだけはちゃんと相手してくれるから、ミルも強くなれそう。ありがとうね、エレナ!・・・・・・でも、やっぱりお兄ちゃんの悪口はあんまり言って欲しくないかな~」
「うう~。ミルちゃんありがとうございます!がんばってみます!!」
エレナが鼻声で言う。あいつのハンカチ、血が滲んでいる。女性陣から誉められて、鼻血出してやがる。ってか、最初から出す予定だったな・・・・・・。良い感じの変態め。俺はお前のその姿勢を応援するぜ。
などと思っていたら、アールに先を越されてしまった。
「じゃあ、私も・・・・・・」
確かに、アールが最後というのも可愛そうだしな。
「その・・・・・・。こういうの初めてだから、変な事言ったらごめんなさい」
「いえいえ~。もう何言われても全然オッケーですから!」
アールに話しかけられるだけで嬉しそうだもんな。
「では、エレナさんは、自由で羨ましいです。行動も発言も自由だし、空を飛んで、どこへでも行ける。自分の意見もはっきり言えるし、何でそんなにしていられるのか、それが知りたいです」
アールの発言は重い。アールからしたら、常に、今現在も決して自由はない。「闇の蝙蝠」に捕らわれたまま、洗脳も解けていない。しかも、その洗脳を利用して、最愛の兄と思っている俺が、洗脳を上書きして縛っているのだ。
「・・・・・・だから、これからも、エレナさんを側で見て、その秘密を知っていきたいと思っています。一緒にいてくれますか?」
「ぼ、ぼっぢろんでず!!!」
エレナは涙と鼻血を吹き出しながら感激していた。
アール。がんばったな。
「じゃあ、最後は俺だな」
「あ、いいです」
エレナは急に「すん」として断る。厳しい!
「まあまあ、良いからエレナ!」
「そうだよ!ちょっと悔しいけど、ミルもお兄ちゃんがなんて言って誉めるのか聞きたいもん」
ファーンとミルに説得されて、実に嫌そうにしながら、渋々頷く。
そこまで嫌がられているのに、俺はこいつを誉めなくちゃいけないのか・・・・・・。
まあいい。
「エレナは、まあ、ちょっと男には厳しいし、男性恐怖症だから、俺から誉められてもいい気はしないだろう。でも、まあ我慢して聞いてくれ。別におだてたりするつもりはないから、率直な感想を言わせて貰うよ」
一応そう前置きしておく。
「最初は、問題ある奴をマイネーに押しつけられたと思ってたよ。だけど、実際はエレナはメチャクチャ役に立つ。
それはトリ獣人で空を飛べるからと言うだけじゃない。もちろん、それはでかいけどな。
でも、仲間として、その素直さ、明るさには、精神的に救われている。特に女性陣の中でも役割はでかいと思っている。
俺が言えないような事を言ってくれて、女性陣をもり立ててくれたり、みんなの気分を良くしてくれる。
ミルが言っていたように、誰とも積極的に関わって、めんどくさがらないその姿勢は、俺も見習わなきゃいけないと思っている。
俺に対しては厳しいけど、でも、それって、女性から見れば、俺みたいな奴がどう映るのかを教えてくれているのだと思えば、自分の気を付ける所も見えてくるしな。
だから、エレナが竜の団に入ってくれて、今は本当に良かったと思っている。ありがとう」
レックとトレードする案があったが、それは黙っておく。
それに、今となっては大切な仲間だ。今更交代はしたくない。どうせなら、ダブルで欲しい人材だよな。
「ああ。・・・・・・それは、どうも」
エレナが、珍しく毒を吐かずに礼を言う。
「ヒヒヒ。相変わらず天然で口説き文句を言うよな」
ファーンが茶化す。
「俺は思った事を素直に言っただけだ!」
口説いてなんかいない!
「自覚ないから困るのよね」
「うんうん」
リラさんとミルまで・・・・・・。
「とにかくだ、エレナ。誕生日おめでとう!!」
「「「「「おめでとう!!!」」」」」
ファーンが締める。
「皆さん!ありがとうございます!!」
エレナが感激して言う。
「獣人の誕生日は荒っぽいから、こんな誕生日は初めてです!それに、本当に竜の団に入って良かったです」
エレナが普段見せない真面目な顔になる。
「獣人は、基本的に『強いか』、『弱いか』が判断基準です。でも、この竜の団は違って、みんなの良い所を認め合って、尊重し合っているのが素晴らしいと思います。それに、互いが互いを信頼しているのがよく分かります。・・・・・・だから、ちょっと淋しい時もあったんですが、もう大丈夫です!あたしも竜の団です!」
確かに、エレナにしてみれば、新鮮な事ばかりなのだろう。
「だから・・・・・・その。カシムさん。あたしを受け入れてくれて、ありがとうございました」
俺は耳を疑った。エレナに礼を言われたのなんか初めてだ。言ったエレナも、恥ずかしかったのか、真っ赤になっている。
「よ。口説き落とした甲斐があったな。ヒヒヒ」
ファーンが俺に耳打ちする。俺はファーンを睨んでやった。
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