外伝 短編11  竜の団の誕生会 1

 俺たちは、八光の里から、暁明の里へ向けて、浮遊馬車に乗り込んでいた。

 全員が精霊界に順応し終えて、聖竜の領域に向かっての旅に出る。


 八光の里を出ると、ミルが切り出した。

「さてさて!今日は何の日でしょうか?」

 大きな浮遊馬車には、俺たち竜の団しかいない。御者はハイエルフがしてくれているが、馬車の外だ。

「今日か?」

 さっぱり分からん。マイネーもランダも無言である。

 リラさんは何か知っているようだ。

「何でしたっけ?」

 リラさんに助け船を求める。

 すると、リラさんが「フフフ」と笑ってから教えてくれた。

「今日は7月3日ですよ」

 ん?聞き覚えがある日にちだ。・・・・・・って、それって。

「お兄ちゃんのお誕生日なのです!」

 ミルが嬉しそうに俺にしがみつく。

「おお。そうだったな。オレもすっかりぼけてて忘れてたぜ」

 この精霊界の空気は、地上人の精神を蝕んでいく。長くは滞在できない場所だ。

「おめでとう!」

 皆が口々に祝ってくれる。流石に照れる。

 実家では「生誕祭」なんてのが行われて、敷地中をパレードする大騒ぎになるから、正直あまり誕生日に良い思い出はない。プレゼントに埋もれて処分に困るのも大変だ。

 有り難いけど、やり過ぎは何事も良くないと言う事だ。

「それでね!竜の団には誕生日にはみんなから誉めてもらえるって決まりがあるんだよ?!」

 ミルが張り切って宣言する。

 あれ?そんな決まりあったっけ?オレが首をひねるが、ファーンもリラさんも頷くから、そうだったのかも知れない。

 ファーンの誕生会の時にそう決まったのかな?


「え?ってことは、今から?」

 ちょっと待って。心の準備が出来ていない。俺、凄く恥ずかしいんだけど。

「ウフフフ。覚悟しておいて下さいね」

 リラさんが笑う。ちょっと怖い・・・・・・。

「誰からにすんだ?」

 ファーンが言うと、マイネーが手を挙げる。

「やっぱ、新参者からして、最後に最古参が締めるのが一番感動的になるんじゃねーか?」

「おお。さすが大族長だ。もっともらしい感じで一番気楽な一番手を選びやがったな?!ヒヒヒ」

 ファーンが笑う。だが、誰からも異論がなさそうだから、そう言う事になったようだ。


「では。オレ様からカシムへ」

 マイネーが話し出す。

「お前のすげぇ所は、まず家名だな。白銀の騎士の孫とか、凄すぎだ。金持ちでもある。ほぼ無制限に金使える身分は大族長としては羨ましい」

 それ、俺は直接誉められていないよな。

「あとは、まあ、気安い感じがいいね。以上だ!」

 結局誉められた気がしない。が、周囲からは拍手が鳴るので、まあ良いとしよう。


「次は俺か」

 ランダが少し身を乗り出して、真顔で俺を見つめる。

 ランダが人を誉めるとかって、あんまり想像付かない。

「うん。カシムは、そうだな。可愛い弟みたいな奴だ。そこが良い。がんばっている所を見てきたからな。応援したくもなる。ただ、少し周囲が見えていない所が過大だ。あまりペンダートンの名に縛られずに、感じるままに感じて良いと、俺は思う」

 それだけ言うと、奥に引っ込む。

 激励されたのと、課題を突きつけられた感じだ。これも誉められた気がしない。まるで先生に指導された気分だ。

 だが、リラさんは何であんなに顔を真っ赤にしてニヤニヤしているんだろう?拍手の手が凄く早い。


「じゃあ、ミルだ~~!」

 ミルが張り切る。一人称で、がんばって「あたし」と言うのを完全に放棄したらしい。

「お兄ちゃんは優しいの!優しすぎるくらい優しいの!だからミルがしっかりしてあげなきゃと思うんだよね!あとね、かっこいいの!王子様みたいにかっこいいの!で、約束は絶対に守ってくれるんだよ!だから、ミルとも結婚してくれるんだよ!!」

 おい!俺はお前と結婚する約束してないぞ!

 だが、取り敢えず拍手は鳴る。

「実際の王子って、ろくな奴いないけどな」

 マイネーがボソリと呟く。こら、子どもの夢を壊すな。

「下手な王子より、ペンダートンのカシムの方が格が上だな」

 ランダもミルを煽るな。


「は、わ、私ですね・・・・・・」

 リラさんが真っ赤になって汗をかいている。緊張しやすいって本当なんだな。こんな場でも、実はリラさんは緊張するらしい。可愛らしいな。だが、俺もリラさんに何を言われるか、凄く緊張している。

「カ、カシム君は、凄く大切な人です。尊敬しています。一緒に旅が出来て嬉しいです。だから、竜の団に入れて良かったと思います。終わりです!」

 言い終わって顔を覆い隠す。

 凄くたどたどしい、子どもの感想文のようだった。これって何かの罰ゲームだったっけ?ただひたすらに恥ずかしいんだけど。


「おお!ようやくオレの出番だな。みんなカシムをわかってねぇから、オレが締めるしかねぇよな!な、相棒!」

 ファーンが親指を立ててウインクしてくる。

 もうお前しか頼れる奴はいない。

「カシムは、本当にすげぇ奴だ。オレみたいな奴を仲間にしてくれた。それに、人の為に戦える男だ。まあ、冒険者だから、それは当たり前かもだけどな。あと、気前が良いよな。宿代とか、報酬とかも大盤振る舞いだし。なんと言っても白銀の騎士のリアルな話しが聞けるのがいい」


 ・・・・・・。あれ?おかしいな。

「ただ、あれだよな。カシムって本当に時々バカだし、結構ダメダメだよな。特に女の扱いがなってねぇ。女を男に間違えるのなんて、最低だし、胸の大きさで女の扱いが変わるとか、マジで鬼畜だぜ!」

「おい、カシム。それはいかんぞ!男はみんな女が産んでくれたからいるんだ。男は子どもを産めない。だから、女はみんな、等しく尊敬するべきだ」

 マイネー。ご高説ありがとう。でも、俺は胸の大きさで差別なんかしていない。

「お兄ちゃん!大きい胸はいつか垂れちゃうんだって!でも胸が小さいと形は変わらないよ!!」

 おい、ミルの場合は、大きかろうと小さかろうと変わらないんだろ?!

「た、垂れたりしません!!」

リラさんが真っ赤になって抗議してくる。

「カシム。だから、周りに目を向ける必要があるんだ」

 ランダにまで説教される。

「まあ、あれだ。とにかくカシム。誕生日おめでとう!」

 ファーンが何事もなかったかの様に言う。

「「「「「おめでとう!!」」」」」


 釈然としない。ちっとも誉められていない。

 だけど、まあ、俺の誕生日を仲間たちが祝ってくれようとしている事は伝わった。

 こんな誕生日も、悪くはないか。

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