それぞれの戦い  最強の戦い(前編) 2

 グラーダ三世が、一同を集めたのは、王城リル・グラーディアの4階に新設された「円卓の間」である。

 これは、王城にハイエルフの長老たちが訪れた際に、上座、下座を配する為に考案された部屋である。それ故に設備は真新しい。

 入り口が4カ所有り、窓はない。

 室内の中央に円形のテーブルが有り、同じ調度の椅子が10脚置かれている。

 円卓には余裕があるので、最大で18脚は椅子が置ける。

 

 入室した者は、好きな席に座れば良い。ここには上座も、下座もない。テーブルに着いた者は、身分に拘わらず、円卓に付く限りは対等に発言できる。



 グラーダ三世が円卓の間に入ると、すでに2人の人物が座っており、座ったまま、グラーダ三世を軽い会釈だけで迎える。

 グラーダ三世も、軽く会釈して、適当な椅子に腰を降ろす。

 最初から椅子に着いていたのは、冒険者「歌う旅団」の光の皇子ポアド・クララーと、闇の皇子シャナだった。

 最強の冒険者として名高い2人で有り、かつてグラーダ三世と戦い、1時間足止めした実績がある。


 そして、次にハイエルフのタイアスと、2人のハイエルフの男女が入室してきた。

 男性は、背が高く、覇気があり若々しい。髪はハイエルフにしては緑と言うよりは、うす水色に近い色をしている。

 名を、エクセル・オードラッド・リンダ・グリーバー。

 ハイエルフの最古の長老の1人であり、精霊界最強の戦士である。

 南バルタ制圧を果たして、すぐに転送魔法でリル・グラーディアにやって来た。

 女性は、鮮やかな黄緑色の長い髪を編んで、美しい白い衣に身を纏った、成人の女性に見える。

 精霊魔法では精霊界で最も強力な使い手である、スーリア・アラド・クリアルド・ビオッサと言う、「弧緑こりよくの里」の里長である。


 それから、賢政ギルバート宰相、「一位」の堅雄ガルナッシュが入室して来た。

 

 これで今日の会合のメンバーが揃った事となる。

 全部で8名の会合である。



「お集まりいただいて感謝する」

 グラーダ三世が着席したまま、軽く頭を下げる。

「それで、いよいよ事を起こそうと思うが、参加していただけると言う事でよろしいか?」

 グラーダ三世の問に、ハイエルフのエクセルとスーリアが頷く。

 ガルナッシュも頷く。

「いやいや。僕たちには拒否権は無いのでしょう?」

 クララーが緊張を見せずに言う。

「いや。拒否して貰っても構わん。死なれては俺も困るから、自信が無いようなら、最初から参加しないで欲しい」

 グラーダ三世は、至って真面目な様子で答える。

「いやいや。冗談ですって!参加しますよ!」

 クララーが慌てて言いつつも「まったくぅ、コミュニケーションをもっと楽しもうよ~」とブツブツ言う。

「いやね。元々僕の目的も、父親アポロンをぶん殴る事ですから。この機会を逃す手は無いです」

 クララーは笑って言う。

 クララーの母親は人間だが、父親は第一級神の筆頭、太陽神アポロンである。

 己の実力的には、未だに一級神に届いているとは思えない。だが、一級神に挑めるチャンスなど、ほぼ無い。

 同様に、闇の皇子シャナの目的も、自分の父親である魔神王ルシファーを殺す事だった。

 シャナは、無言で話しを聞くのみだった。


「それならば良いが、12神相手の戦いだ。こっちはケンカのつもりで、殺さないようにするが、相手はこっちを殺す事に躊躇はしないだろう。それでも良いかな?」

 グラーダ三世は改めて、全員に尋ねる。

「こっちは殺しちゃ駄目って縛りはキツいけど、闘神王陛下。僕は参加します」

 クララーは表情を改めて頼む。それをグラーダ三世は頷いて受ける。

「我ら、ハイエルフは無論参加しよう。たまには子どもたちにお灸を据えてやるのも悪くない」

 エクセルがニヤリと笑う。スーリアも静かに頷く。

「未だ届かぬ武と知りながら」

 ガルナッシュも頷く。

 シャナは無言のまま、頷く。


 当然、ギルバートとタイアスは、このケンカには参加しない。

 落としどころについて協議する為に出席していた。




 

 神々との戦いに向けての役割分担、戦力確認等々を、手短に済ませた後、グラーダ三世たちは、王城の地下3階に向かう。

 地下3階には、天界や魔界に直通の扉が、厳重に鍵を掛けられた部屋に置かれていた。

「すでに12神には招集を掛けている。恐らく向こうも戦いになる覚悟は出来ているだろう」

 グラーダ三世が振り返り、天界に向かうエクセル、スーリア、ガルナッシュ、クララー、シャナを見る。

 一堂の表情に不安の色は無く、適度な緊張感はある。

 グラーダ三世は剣を帯びているが、鎧は無い。

 ハイエルフたちはミスリルの細剣。

 

 ガルナッシュは、軍部用では無く、ペンダートンの白銀の鎧と専用の魔剣を身につけている。マントもペンダートンの銀十字の物をまとっている。黒に内側が灰色のマントである。


 クララーは軽鎧に青いマント。

 武器は細身のサーベルで、鎧も武器も魔法装備だ。

 シャナは、悪鬼のような見た目の鎧と、黒々とした大剣である。マントも毒々しいほどに黒い。

 シャナの装備も魔法装備だが、鎧は魔界のルシファーから盗んだ「コキュートス」だ。更に、同じようにルシファーから盗んで契約をした、シャナ専用の武器、「魔神斬ルシファーソード」は魔界のルシファーの城に封印されている。シャナが呼び出せば、周囲の生き物の生命力を奪ってしまう、大量殺戮破壊兵器である。

 ルシファーも、シャナに契約された時点で破壊したかったが、それも叶わず、かといって、放置しておけば、周囲の生命だけでは無く、ルシファー自身の生命力が直接奪われるので、封印するほか無い。

 シャナが寿命で死ねば、再契約できるので、それまで待つつもりで保管している。

 「魔神斬ルシファーソード」はシャナの寿命をも削るので、シャナも乱発は出来ないし、無差別兵器なので、使用する状況が限定されてしまう。

 なので、普段は黒い大剣を使用して戦う。



 闘神王グラーダ三世に、その闘神王を足止めした、最強の冒険者2人。

 生ける伝説、白銀の騎士に鍛えられた、現在グラーダ軍最高責任者「一位」のガルナッシュ。

 伝説のハイエルフの中でも、最強と認められている(ハイエルフの内情は地上人は知らないのだが)2人が揃っている。

 そうそうたるメンバーが、今、この場に集っている。

 顔を合わせてわかるが、この中でも、やはりグラーダ三世は別格の強さを持っている。

 真っ正面から戦えば、エクセルも勝てないだろう。


 ここに白銀の騎士、剣聖ジーン・ペンダートンがいれば、ほぼ最強戦力なのだろうが、グラーダ三世は敢えて、ジーンがいないのを良い事に行動を起こしていた。

 ジーンがいれば絶対に同行しただろう。

 今回の一件に、グラーダ三世は個人的な我が儘から、ジーンを参加させたくなかったのだ。

 グラーダ三世にとって、ジーンとリザリエは、アクシスの次にだが、個人的に大切な人間だった。

 後はただ使命感だけがグラーダ三世を動かしていた。そんな人生だった。

 だから、天界へのケンカなどというつまらない事で、ジーンをわずかでも危険に付き合わせたくは無かったのだ。

 無論、ジーンの戦闘力には不安は無いのだが。


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