ギルド戦争 帰郷 7
俺たちは、リラさんの家に行き、村長を交えてこれまでの事、世界で起きている事、今回の事件について等、色々話した。
何せ、隔絶されたかのような田舎の国の小さな村だ。世界の情勢など、全く分かっていないのだから、話し終える頃には、すっかり深夜となっていた。
もちろん、俺の怪我はすぐにリラさんが治してくれた。今回はそれ程ボロボロにはなっていない。
エレナもミルも、話しが終わる前に、護衛部隊が使用していた家に寝に行っていた。すぐ隣に立ててある家だ。
護衛部隊の人たちの死を、村人たちは大変悲しんでいた。
グラーダ国からの援助もあったのだろう。それでもよそ者にも、愛情を感じて接してくれていたようだ。墓もエッシャ式の物を作ってくれたようだ。
どんな物か知らないので、明日にでも墓参りをさせて貰おう。
そして、リラさんの帰郷の目的を伝える。
魔法を教える資格があるのが、村長だった。だから、リラさんは「村長」では無く「クイ先生」と呼んでいた訳だ。
魔法を教える資格を得るのは、魔法契約の儀式で重要になる、契約の為の導入、つまり魔力操作の援助が出来るようになる事である。
その為には、契約時よりも更に難しい魔力コントロールをする必要がある。
ちなみに、リラさんが伝授法を覚えようとしている「ヒル除けの魔法」は、生活魔法に分類される、レベル1魔法だ。だから魔法を買っても、100ペルナーで済む。
そして、魔法導入の資格を得るのには、特に金額が指定されていないから、無料でも教われる。神も、開発した魔法がはやって欲しいから、有資格者は沢山欲しいので、規定は設けていない。
リラさんは無料で修行を付けてもらっているが、完成するのに、2日はかかりそうだという。
導入を覚えるのが初めてだから、それくらいの時間が掛かるが、ベテランの魔法屋だと、レベル1の魔法の導入なら、数時間で覚えられるそうだ。
いずれにせよ、魔力が底辺の俺には関係の無い話しだ。
俺は、アール、エレナを相手に、修行に励んで待つ。
ここは、本当に見るべき物がないので、ミルも退屈して参加したそうにしていたが、ミル相手だと、俺が力を入れられない。
ファーンは手帳の整理に忙しそうだ。色々まとまったそうで、新しい手帳(何冊目か知らないが)に色々書く為に、ずっと部屋に閉じこもっている。
そして、2日目の夕方、リラさんの魔法修行が完成した。
「お待たせしました。無事、『
「おめでとう!」
「がんばったね」
俺たちは、口々に祝福する。エレナは感激して、リラさんに抱きついていた。
しかし、俺から見ると、その行為がいかがわしく見えて、何だかホワホワする。
エレナ本人も「思わずやっちった~!」みたいに、真っ赤になって慌てて手を離していた。そして、思い返して涎が出ている辺りでアウトだよな~。
翌日の朝、俺たちは紫竜との会合を目指して、再び紫七輪山を目指して出発する。
今度は、その後にトリスタン連邦に行く事を考えて、北バルタ側から紫七輪山の北側に迂回して出る。そして、近くの村に馬を預けて紫外輪山攻略に臨むコース取りだ。
北バルタを通るのには、もちろん他にも目的がある。
俺たちが北バルタに付く頃には、「聖バルタ事件」(ギルド戦争と言うらしいが)から
北バルタの現状をこの目で見ておきたかったからである。
「リラさん。せっかくの帰郷なので、もう少しゆっくりしていっても良かったんですよ?」
俺は、馬上のリラさんに言う。俺の予定では一週間ほどはここで過ごすつもりだった。
「いいえ。大丈夫です。両親の顔が見られただけで、満足です」
リラさんが微笑む。
「それに、ここは何も無いから、世界を旅した今となっては、2、3日いれば、すっかり飽きてしまいますもの」
「ははは。ちげぇねえ!」
村人たちが見送ってくれているのに、言葉を選ぼうよ~。
だが、村人たちは朗らかに笑う。
「この国にある物は、こんな汚い森だけです。ですが、それは我らの平和を願う心で有り、誇りでもあるのです」
村長が言う。なるほど。それは深い言葉だ。
歴史上侵略された事のない唯一の国バッシャに住む人々にとっては、この険しい道も、実り少ない土地も、虫や蛭がうようよいる森も、最高の宝なのだ。
俺はバッシャの人々の生き様に尊敬の念を覚えた。
そして、俺たちは村人たちに挨拶して旅立つ。
「今日は珍しい組み合わせだな・・・・・・」
凄い違和感を覚える。
黒馬のチェリーに乗るのが俺とエレナ。メチャクチャ嫌そうにしている。
ファーンとリラさんが大型のピーチに乗る。
ミルとアールがそれぞれプラムとアップルに騎乗している。
「何事も訓練だそうです」
リラさんが複雑そうな表情を浮かべている。
「不公平はいけないよな、やっぱ。次はオレとカシムで、エレナはそろそろ1人でも馬に乗れる訓練だ」
ファーンが「ヒヒヒ」と笑う。
アールは、ミルとおしゃべりしながら馬に乗っているようだ。この頃はアールも明るくなってきた気がする。
良い傾向だ。
「じゃあ、俺たちの本分に戻りますか」
俺が言うと、ファーンとリラさんだけが答えた。
「応よ!」
「はい!」
「ちょっと、身動きしないでくれます。あたしのおっぱいが当たって不愉快なんですけど」
・・・・・・お前のチッパイは当たっても気にならないし、俺はバッチリ胸当てしている。何ならマントも固定化してやろうか?ああん?
「え?なんて言ったの?ごめん、聞いてなかった!」
「兄様?ごめんなさい。私も聞こえなかったです」
2人はおしゃべりしてて良いよ。
「フフフ。あんまり締まらないですね」
そう言って、リラさんはポーチからハイエルフの横笛「
風に乗り、音が空に舞い上がって行き、鬱蒼としたこの森にも、輝きを呼ぶように響き渡る。
そして、俺たちも馬を歩ませて行く。
第十一巻 ギルド戦争
- 完 -
第十二巻 それぞれの戦いに続く
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