ギルド戦争  帰郷 6

 お互いに武器を無くした状態で、ルドラが体術の構えを見せる。

 俺も衝撃から立ち直り、急いで構えを取る。

 体術勝負になったら、勝てる見込みは前以上になさそうだ。

 俺とルドラの差は、思ったほど縮まっていない。未だにルドラの方が遥かな高みにいる。

 だから、俺が勝てる要素は、ただ一つだけだ。


 構えを取りつつ、俺に突進してくるルドラ。組み討ちを仕掛けるつもりのようだ。

 だが、その途中で大きく横に跳び、地面を転がる。

 岩に突き刺さったはずの俺の剣が、勝手に飛んで来るのを察知したようだ。

 初見で良く対応できたな。本当に天才としか思えない。

 だが、剣が戻った所で、怯む事無くすぐに俺に蹴りを放つ。

 凄まじい速さの蹴りが、俺の側頭部を捕らえる。

 が、その蹴りは俺の頭を素通りしてしまう。

「ぬっ!!?」

 ルドラは驚愕の声を上げる。

 その直後、ルドラは待たしても小さく叫ぶ。

「くわっ!!」

 思いも掛けずに、背後から攻撃を食らったのだ。

 それは俺の攻撃だった。

 しかし、さすがはルドラだ。

 背後から攻撃を仕掛けたのに、ギリギリの所で躱されて、多分、薄皮一枚切り裂いた程度だろう。


 俺は、戻って来た竜牙剣に反応したルドラが、横っ飛びに躱した瞬間に、俺が唯一使える魔法「虚像ファントム」を使用して、俺の虚像を出し、入れ替わっていたのである。

 ルドラが蹴りで虚像を攻撃した時には、背後に回り込んでいて、竜牙剣で攻撃した訳だ。



 攻撃を受けたルドラだったが、表情には余裕がある。

「やれやれ。武器がなくなってしまった。これで戦うのは流石にしんどいな」

 ルドラがスルスルと距離を開ける。

「約束通り、我ら地獄教ヴァジユラはリラ・バーグの両親と村には手は出さない。だが、貴様は、必ず俺が殺す。だからそれまでは生きていろよ」

 そう言うと、忽然と姿がかき消えてしまった。

「今回は負けにしておいてやるが、それにしてももう少し強くなってくれないとつまらない。励めよ」

 ルドラに激励されても嬉しくない。むしろ悔しさばかりが残る。

 実質俺はルドラに負けている。やはり手も足も出ないで、遊ばれただけという感じがぬぐえない。

 今回何とか命があったのは、ただ単に、武器の性能の差だ。

 この一点だけがルドラに俺が勝っていた。


 悔しい。やはり悔しい。

 我知らずで涙が頬を伝った。

「強くなってみせるさ!ルドラに吠え面かかせてやる!」

 




 黒馬に乗り、村に戻ると、オバドド村の人たちが出迎えてくれた。

 馬を下りると、リラさんが一番に抱きついてきた。

 目に涙を溜めている。

「カシム君、ありがとう!ありがとう!!」

 ルドラとの戦闘でクタクタだが、リラさんの良い香りに包まれて、すり減った神経が癒やされる気がした。

 そして、俺の前に、リラさんの両親が立っていて、深々と俺にお辞儀をする。

 近くで見ても、普通のおじさんとおばさんで、ちっともリラさんに似ていない。

 父親は頭髪が薄く、小太りで、ぽっちゃりした鼻に赤ら顔。

 母親は、髪は濃い茶色で、量も長さもある。顔のパーツはどれも小さく、背が高くほっそりしている。

 2人とも穏やかそうな人物である。

 リラさんは、奇跡的に両親の良いパーツを全部集めて出来上がったんだなぁと思ってしまう。

 マジマジ見ると、目はやや父親似。鼻はやや母親似。口は両方の良い所をバランス良く引き継いだ感じか・・・・・・。耳が丸いのは??祖父母とかかな?

「似てね~~~!」

 ファーンが失礼な事を平気で言う。

 すると、両親は逆に嬉しそうに笑う。

「ウチの娘は外の世界でも通用するほど美人でしょう?」

「世界でも屈指の美人だぜ!ヒヒヒ」

 ファーンがちゃんと自分で上手く話しをまとめた。

「で、彼は将来のウチの婿になるのですか?」

 父親がニコニコ言う。

「違うよ!!今は熾烈なレース中なの!!勝つのはミルだけど!!」

 やれやれだ。ミルはこの所やたらとムキになっているな。何かストレスでも溜まってるのかな?

 とにかくだ・・・・・・。

「リラさん。もう大丈夫ですよ。奴らは二度とこの村も、ご両親も襲わないと約束しました」

 そう言うと、リラさんも村人たちも、ホッとした様子だった。

「とにかく一度話しましょう」

 そう言って、名残惜しいが、リラさんの肩を掴んで、俺から離す。すかさずその隙間に挟まるようにして、ミルが俺にしがみついてきた。同時にアールも俺の腕にしがみつく。

 アールはマズいって。完全に胸に腕が挟まっちゃうんだもん。

「・・・・・・なるほど。これは競争率の高そうな婿殿ですね」

 リラさんの父親が、残念そうに首を振る。

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