ギルド戦争  帰郷 5

 再び俺から間合いを詰める。

 顔を目がけて突き込む。それをルドラは黒剣でいなし、白刀で俺の手を切りに来る。以前は、これで左手を切断されている。だが、ここからだ。

 俺は一気に体を沈めて、超低空剣技「地蜘蛛」に切り替える。元々突きの攻撃はフェイントだったから、素早く動きを切り替える事が可能だった。

 そこから、ルドラの足や胴を狙って、回転するように連撃を見舞う。

「っと!これは?!」

 流石のルドラも慌てて後退するが、俺の追撃は止まらない。スムーズに普通の歩法に戻り、一気に距離を詰めると、上段から剣を振り降ろす。

 これは2本の剣で防がれて押し戻される。

「面白い剣技だ。さすがは兄弟子。技の引き出しが多い」

 ルドラが愉快そうに言う。そして、「こうか?」と言うと、いきなり身を沈める。

「クソッ!」

 俺もとっさに身を沈めて、再び「地蜘蛛」の攻撃態勢に入る。

 やられると分かるが、地蜘蛛は地味に嫌な技である。だから、距離を取るか、同じ地蜘蛛で対応するのが良い。

 ルドラは3撃繰り出すと、体を起こして距離を取る。

「これは簡単には真似出来ないな」

 そう言って肩をすくめる。

 冗談じゃ無い。

 地蜘蛛の技は、1撃なら誰でも出来る。2撃でもがんばればある程度出来る。

 しかし、初見で真似して3撃繰り出せるとなると、本当に地力がある証拠だ。

 この技は、一番大切なのは柔軟性。次に足腰の力だ。地道な鍛錬無くして使う事は出来ないのに、俺と同じ威力と速度で、いきなり3撃の応酬が出来るとは・・・・・・。

 あまりこいつに技を見せたくは無いが、出し惜しみして勝てる相手ではない。


「ルドラ。バルタの騒動にも地獄教が関わっているのか?」

 俺はルドラに問いかける。すると、ルドラが構えを解いて笑う。

 俺は一瞬でも構えを解くほどの余裕は無い。

「答える義理は無いな。・・・・・・だが、せっかくここまで来てくれたんだから答えよう。一切関わってないさ」

 意外なほどあっさり答えたな。

「本当か?」

「本当だとも。俺は嘘も言うし、だましもする。何せ異常者集団の地獄教の教主様だからな。だが、俺が『本当』だと言ったからには、そこに嘘偽りは無い」

 なるほど。それは信じられる気がする。

「ただし、魔物が勝手に何かした事までは知らんから、責任は取れないぞ」

「分かった。信じる」

 俺が答えると、ルドラが愉快そうに笑う。

「お前は相変わらず甘いな。その甘さ、嫌いじゃ無い。ついでに笑える事を教えてやろう。地獄教は名前が単純すぎていけない。だから、新しく地獄教『ヴァジュラ』と改名してやった」

「余計な事するなよ。新しい名前が増えて覚えきれなくなったらどうする気だ?!」

 俺が言い返してみたが、それがまた愉快だったようで、ルドラが笑う。

「だから『笑える事』だって言っただろ?単なる嫌がらせだよ。お前らにも、地獄教徒にも、後世の学生にもね。今後、度々名前を変えてやろうかとも思ってる」

 遠大な嫌がらせを思いつくな。まあ、確かにそれなら笑える冗談で済むレベルだ。



 激しい剣撃の応酬が繰り広げられた。

 俺は体中に傷を負っている。

 どの傷も、薄皮一枚切り裂くような傷で、ルドラにもてあそばれている事がわかる。

「ちょっとは強くなったようで感心だ。だが、この程度で俺をどうにか出来るとは、まさか思ってないだろうな」

 ルドラの目が危険な色をはらむ。

 左右の剣をクロスさせて振り降ろしてくる。

 俺は全力でその攻撃を受け止める。以前の魔剣トビトカゲは、この攻撃で押し切られてしまった。だが、今はドラゴンドロップ製に生まれ変わっている。

 力の限り押し返す。

 ルドラの表情が変わる。

「まさか、俺の剣に刃こぼれが出来るとはな・・・・・・」

 そう言うが、これまでの応酬で刃こぼれしなかったとは、一体どれほどの剣だったのか、逆に聞きたくなる。

「この剣を破壊する事は無理だぞ」

 俺が言うと、ルドラが不敵に笑う。

「この海王剣はな、2本で一対。武器破壊に特化した剣だ」

 ルドラが、2本の剣を重ねる。すると、つばの部分が結合して、巨大なはさみの様な形になった。

「これが武器破壊の形、海王剣の本来の姿だ」

 そう言うと、ルドラが猛然と巨大な海王の顎門あぎとを開いて突進してくる。

 竜牙剣で受けるしか無い。右手に力を込めて海王の顎門を受け止める。

 ギャギャギャギャ!!

 耳障りな音が響く。

 顔色が変わったのはルドラだった。

 白刀の剣を切り裂いたのは、俺の竜牙剣だった。

 白刀の半ば以上から切断されたルドラは、慌てて距離を取る。

 黒剣にも、半ばまで切り込みが入っていた。

 驚くルドラに、初めて隙が出来た。


 投擲一閃。

 俺はルドラの顔面目がけて、竜牙剣を投げつける。

 ルドラは体勢を崩しながら大きく避ける。

 竜牙剣はルドラの後方に飛んで行き、背後の岩に根元まで突き立った。

 俺は投擲と同時に駆け出しており、体勢を崩したルドラの持つ黒剣をたたき落とす為に、小さなポーチに収納していたロングソード「楓」を抜き放つ。

 ルドラはこれにもギョッとする。ロングソードなど、どだい収納できるサイズのポーチでは無い。

「チィッ!」

 ルドラは黒剣をひるがえす事も出来ず、楓によって叩き落される。


 ここで、俺にも油断があった。

 ルドラは反撃が間に合わないと悟って、敢えて黒剣を叩き落とされたのだ。

 そして、伸びきった俺の楓を握る手に、肘と膝を同時に叩き込む。

「ぐああっ!!」

 ルドラの肘と膝に挟まれた俺の指の骨が、残らず砕け、俺も楓を落としてしまう。

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