ギルド戦争  帰郷 4

 しばらく進むと、前方に尖ってそびえ立つ岩が見えた。

 程なくその岩の立つ場所にたどり着く。

 そこだけ広く木々が無い場所が広がっていた。

 と言うのも、岩の根元には、大きな岩がゴロゴロと転がっていて、小さな草ぐらいしか生えられない地面となっていたからだ。

 

 そして、岩の根元には、ルドラが座って俺を見つめていた。

 少し離れた岩の上には、多分リラさんの両親なのだろう、エッシャの人たちが着る服を着た中年の男女が立っていて、その首元には、背後に立つ地獄教徒によってナイフが突き立てられている。

 地獄教徒の人数は、ルドラを含めて5人いる。リラさんの両親を押さえている2人以外は、ルドラの背後に立っている。


 ルドラがゆっくり立ち上がる。

「カシム、遅かったな。随分待たされてしまったよ。こんなつまらない土地で何日も待つなんて、正に地獄だったよ」

 ルドラが笑う。

「まあいい。兄弟子を待つのは、弟弟子の宿命だ」

 勝手な事を言う。

「俺は待っていてくれと頼んだ覚えは無いぞ!」

「ああ。そうだったな。それで、約束通り、ちゃんと1人で来たとは、感心だ」

 ルドラはやはり気配を察する能力が優れている。これは隠密では欺けそうも無い。

「俺はこの2人を、実に丁重にもてなしたよ。傷1つ付けてもいないし、魔物に囁かせてもいない。食事だって俺たちより豪華に与え、寝床も作ってやった。せめてそこだけは感謝しろよ?」

 遠目ながら、確かに、ご両親は血色良い。と言うか、2人とも意外なほどリラさんに似ていなくて、むしろ普通のおじさん、おばさんだ。

「そもそも掠っておいて何故感謝しなければいけない?護衛も殺したんだろ?」

 俺が言うと、ルドラが手を叩いて笑う。

「確かにそうだ。だけど、俺だって抵抗しなければ殺したりはしなかったさ」

 抵抗するに決まっているだろうに、何を言ってやがる。

「とにかく約束を守ったんだから、2人は解放しろ!!」

 俺が怒鳴ると、ルドラが頷く。

「もちろん解放する。俺は約束は必ず守る!ゼス家の名にかけてな!」

 そう言うと、ルドラは2本のナイフを投げつけた。

「!!??」

 驚き身構えたが、ナイフはリラさんの両親にナイフを突き立てていた地獄教徒の首に刺さり、即死させる。

 そして、倒れる地獄教徒から解放された2人は、必死で走って逃げる。その際に、俺に心配そうに目を向けていた。

「ほら、解放した。後は一切手を出さないよ。今後、二度とな」

 ルドラは平然と言うと、ゆっくりと2本の剣を抜く。

 「聖剣レヴィアタン」と「魔剣メルビレイ」の2本一組の魔剣だ。

「ほら。その証拠の代わりだ」

 そう言うと、ルドラは背後に控える地獄教徒の首を跳ね落とす。

 2人とも、一切の抵抗も見せずに首を落とされた。最初からここで殺される事を承知していた様子だった。相変わらず地獄教徒は異常者の集団だ。


「さあ、兄弟子よ。これで2人きりだな」

 言いながらルドラが接近して来る。俺も竜牙剣を構える。互いに30メートル離れてはいるが、すでに間合いに入っている。

 ジリジリと互いの出方を探るように間合いを詰めていく。


 足先で、剣先で、目線で、呼吸で、さらには殺気でフェイントを入れながら、せんせんせんを取ろうと、見えない攻防が繰り返されている。

 

 一瞬でも気を逸らせば、俺の首は胴と離れる事になるだろう。

 あの時の差は、どれほど埋まっているのか?

 或いは変わっていないかも知れない。俺が強くなった分、ルドラが強くならない保障など無いのだ。そうなら、俺の負けは確定だ。

 だが、弱気になるものか!俺は冒険者だ!

 冒険者とは、危険な1歩を踏み出せる者の事だ!!


 俺は大きく足を踏み出す。

 その瞬間、ルドラも距離を詰めてくる。右手の白刀レヴィアタンを横薙ぎに振るってくる。

 それを竜牙剣の切っ先で軌道を逸らして跳ね上げるが、同時に真下方向、股から切り上げるように黒剣メルビレイが迫る。

 それを俺は、前方向に飛び上がり、ルドラに膝蹴りを入れる形で避けつつも攻撃を仕掛ける。

 ルドラは切り上げを断念して、膝蹴りを回避する為に半身になりつつ上体を反らした。そのひねりを利用して、俺の背中を、後ろ回し蹴りで蹴りつけようとする。

 俺はマントを展開して、棘の形に固定化して、ルドラの蹴りを迎え撃つ。

 流石のルドラも、突然現れたマントと、それが棘の形をして固まった事に驚いて足を止める。

 実際には、当たっても貫通力は多分無いので、ルドラにはダメージは入らないだろうが、今はそれを悟らせる訳にはいかない。

 威嚇の為に、敢えて形を変えて見せつつ、再び向き合って剣を構える。


「・・・・・・なかなか良い装備を持っているじゃないか。剣も新しくなったようだな」

 ルドラが油断無く俺を上から下まで眺める。

 他に仕掛けが無いかと探っているようだ。

 あるぜ。ルドラが知らない隠し球を、俺は他にも持っている。

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