ギルド戦争  帰郷 2

 俺とリラさんとエレナがクルセイユに戻ったのは、10月29日。

 結局、最終局面まで見届ける事無く、ハイエルフたちに任せて南バルタへの帰路に着いた。

 クルセイユに行く一団に混じって、敵から接収した馬に乗って帰ってきた。

 帰路の途中で、戦争終結とウタトの最後についての報告を聞いた。


 北バルタの惨状は、目を覆いたくなるばかりだった。人間の愚かさをマジマジと見させられた思いだ。

 だから、体よりも心が疲れた。

 早くファーンやミル、アールと会いたい。特に、今は無垢なミルに会って癒やされたい思いだ。

 いつもは邪険にしているのに、勝手な物だと、我ながら思う。



 そして、仲間たちとクルセイユで再会して、俺はようやく安堵した。

 リラさんもエレナも同じ光景を見てきたはずなのに、俺よりしっかりしているから、女性は強いと思う。

 アールは今度はやつれておらず、ちゃんと眠れてもいたそうだったが、その日の夜は、ミルも、アールも俺と同じベッドで、手を握って眠った。

 当然俺はアールが気になって熟睡は出来なかったが、かなり満足した。



 更に驚いたのが、ファーンたちがバルタに侵入するに当たり放った馬たちだが、グレンネックのウィネスの町の宿屋に、4頭揃って帰ってきたと言う事で、俺たちを待っている間に、ファーンたちが受け取りに言ってくれていた。

 馬は賢い生き物なので、主人が戻ると信じて、直近で行った町の宿屋まで、自分たちで戻った様だ。

 リーダー格の黒馬「チェリー」が、他の馬を引き連れて行ったようで、一頭だけ、鞍を背に乗せていたと言う。

 マイネーの大型馬もメスなので、(名前はピーチで、ミルが名付けている)唯一の牡馬チェリーの指示に従っている。


 だから、俺たちが北バルタから乗ってきた馬は、バルタの人たちが今後の役に立ててもらえるように、ここクルセイユに預けていく事にした。

 やはり乗り慣れた愛馬たちの方がいいし、ちゃんと帰ってきた話を聞くと、尚可愛く思える。




「それで、これからどうするの?」 

 仲間たちと再会した翌日、朝食をのんびり食べながらリラさんが尋ねてきた。

 そうだな・・・・・・。

 俺たちは紫竜との会合に向かう途中で、今回の騒動に巻き込まれる形で参戦した。

 思わぬ寄り道である。

 だから、本来ならまた紫竜との会合に向かうべきなのだろうが、もうここまで来たらせっかくだという気になる。

「うん。一度、リラさんの故郷に行こうかと思ってる」

 リラさんの故郷は「エッシャ」。

 南バルタの隣国「オルバス」と言う、結構規模の大きな国の北側に、極小さい国が細長い湖を囲む形で3つ並んでいる。俗にキンナ湖三連国等と言われている「イータ」「クラント」「エッシャ」の内の一つだ。

 現在いるクルセイユからだと、オルバス国まで街道1本で繋がっているから、エッシャに寄るのに都合が良い。


「ええ?!まさか『ご両親への挨拶』ですか?」

 エレナが素っ頓狂な声を上げると、ミルが色めき立つ。

「リラ!抜け駆けとかずるい!!」

「はあ?!ちょっと、何言ってるの?!それを言ったら、あなたの方が先にご両親への挨拶も済ませているじゃないの!!」

 リラさんが真っ赤になって反論する。

 ミルへの両親への挨拶って、俺、父親ぶん殴っちゃってますが・・・・・・。

「カシム。オレは両親いねーから気楽だぜ。ヒヒヒ」

 ややこしい事に口を挟むな。

「兄様が結婚しても、私も兄様と一緒について行きますけど・・・・・・」

 アールまでもがとんでもない発言を、極当たり前の様に言う。

「獣人だと、結婚の挨拶と言えば、父親との殴り合いと決まってますよ」

 うげ。俺、ミルの父相手に済ませた奴じゃん。

 ミルが勝ち誇った顔をしている。

 ・・・・・・って言うか、俺が捕まっている間に、何か女性陣の仲がさらに良くなった気がする。

 こうなると唯一の男の俺の居場所がない気がして、自分自身いたたまれなくなる。

「だからカシムはダメダメなんだよ。ヒヒヒ」

 ファーンが俺の心を読んだ様に笑う。

「そうですね。カシム君はダメダメですね」

「お兄ちゃんはダメダメだね~」

「カシムさんは最初から最後までダメダメですけどね」

 みんな酷い。

「兄様はダメダメじゃ無いですよ」

 俺の味方は、どうやらアールだけらしい。それが例え洗脳の上書きの成果だとしても、俺はアールを味方にがんばろう。



「でさ。なんでリラの故郷なんだ?」

 ファーンが話しを戻してくれた。

「前から考えていたんだけど、リラさんにヒル除けの魔法を伝授する資格を取って貰おうと思うんだ」

 その言葉だけで、リラさんは元より、ファーン、ミルもその意味を理解した。

 とたんに3人共が涙を流す。

「カ、カシム君・・・・・・。あ、ありがとう」

 リラさんは口元を押さえて泣き崩れる。

「何か、茶化しちまってすまなかった・・・・・・」

「お兄ちゃん、ちゃんとセルッカの事覚えてくれていたんだね」

 涙する3人に、俺は自分の判断が正しかったと確信した。

 一方で、急に泣き出した3人にアールとエレナが驚き、あたふたする。

「ま、道々説明するよ。少なくともエレナには無関係じゃ無いからな」

 そう言って、涙する3人の背中を、順番に撫でてやる。

「しかし、可愛い子を3人も同時に泣かせるなんて、カシムさんは心底鬼畜野郎ですね・・・・・・。ゴチになります」

 エレナが小声で呟いていたが、俺は無視する事にした。




 そして、朝食後に支度や買い出しを済ませると、午前の内に賢い愛馬たちにまたがって、俺たちは進路を西に、街道を進み始めた。

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