ギルド戦争  帰郷 1

 後に「ギルド戦争」と呼ばれるようになった、国家間以外の、この特殊な戦争では、冒険者ギルドがその力を世界中に示したのと同時に、エルフの大森林に密かに暮らしていたハイエルフたちが、地上世界でその力を存分に振るったという2点で、世界にも歴史にも、その名を重要なものとして留める事になった。


 その発端となった、聖バルタ共和国を自称した首謀者たちの中で、生きたまま捕獲された者は12名。

 彼らは、(1人女性もいた)まずはギルドに身柄が預けられ、その後グラーダに移送される。

 グラーダでは、軍の管理に移り、そこで、激しい拷問がなされ、様々な証言を引き出す事に成功している。

 その後に、ケルベロスに身柄が渡され裁判にかけられ、全員が死刑に処された。

 ただ、皮肉な事に、最高責任者で有り、「聖バルタ共和国」の発案者であった、ヨールド・グハーグ自称初代大統領は、ギルドに身柄があった内に、洗いざらいを、それこそ訊かれてもいない事までもベラベラと告白していた為、1人だけグラーダ軍に身柄が移された後の拷問を逃れていた。


 グラーダ軍がこうまでも執拗に拷問をしたのは、地獄教の関わりが有るのでは無いかと思ったからだったが、今回は完全にその疑いは晴らされた。

 むしろそそのかしたのは天界の神々であった。

 

 その神々も、関わった第二級神の2人は殺され、3人は捕獲に成功していた。その中には伝言を司る神「バロイ」も含まれていた。

 近く、グラーダ三世自らが天界に身柄を移送する事となっている。

 グラーダ三世は、むしろ神々に地獄の魔物が囁いたのではと疑っているが、流石に神々に対しての拷問は出来ない。



 続いて、バルタ共和国の事後についてだが、グラーダ国で保護されている国王も首相も、統治能力無しとして、近くその権利をグラーダ条約特別事例として剥奪される事となっていて、両者の了承も得ている。

 差し当たって、グラーダ国からの代官を派遣し、南バルタの大使と協力して、国内の安定を図る事となっている。

 北バルタにもグラーダ国からの大使を派遣していたが、これは北バルタの軍によって、王族と一緒に殺されていた。


 世界会議戦争後も、グラーダ国からの代官派遣によって治まる国が多かったが、今度は軍が壊滅状態である。

 唯一残っている第一軍団だけでは、乱れて不安定となっている今のバルタ国内の治安は守り切れないので、大量の援助物資を運んできたグラーダ軍の一部が、しばらくの間の治安維持に努める事になる。

 同時に、バルタ国軍は「治安維持部隊」と名称を改めて、新規に隊員を募集する事となった。

 これには北バルタで親を亡くした、子を亡くした者が多く参加する事となる。


 結局、この聖バルタ共和国の暴挙で殺された者は、兵士を除いて、18万5千人を超えている。

 ハイエルフの参戦が無ければ、被害はもっと増えていた事は容易に想像できる。


 いずれ近いうちに、「バルタ共和国」と言う名称は消滅する。

 新しい統治体制を代官と国民が考えて決めていき、その中で、新体制に合った名称も考えられるだろう。



◇     ◇



 グラーダ王城では、10月25日の時点で、終戦の報を聞き、グラーダ三世、ギルバート、タイアス、ゼンネルの4者に加えて、リザリエとキエルアも参加して6者の会談が開かれていた。

 今回は一位のガルナッシュは軍を動かしているので参加していない。


「タイアス殿。あなた方ハイエルフのおかげで、この度の騒乱は無事に集結致しました。感謝申し上げます」

 グラーダ三世が礼を言うと、タイアスは手でそれを押しとどめて笑う。

「何度も言いましたが、我ら精霊族が今回の件に乗り出したのは、単純にカシム殿の身を案じたからです。後はついでです。礼には及びません」

 徹頭徹尾、彼らにはカシムたち竜の団の存在こそが大切なのだ。

「それはそうと、リザリエ様にキエルア様。カシム殿たちとの話しで、何度もあなた方のお名前をお聞きしております。お会いできて光栄です」

 タイアスが立ち上がってお辞儀をする。

「あら、いやですわ。私など、精霊族の皆様から見ればさぞや滑稽に見えるでしょうに」

 リザリエがキエルアと目を合わせて笑いながら言う。

「とんでもない。この世界を変革する為に考え、実行して、実現してきたお2人は、真に尊敬に値する人物であると思っております」

「これは冥土の土産になりますわい」

 キエルアが破顔して笑う。

 すでに90歳を越えていて、人間族としてはかなりの高齢だが、未だにその目には溌剌とした輝きがある。

「オホホホ。キエルア先生は、私より長生きして貰うつもりなんですからね」

「無茶言わんで下され。リザリエ様はワシよりも30歳も若かろうに・・・・・・」

 そんな会話を交わす2人を、タイアスが目を細めて見る。

「たまには人間の世界に来るのも良いですな。こうして初芽たちの生き生きとした姿が見られる。なんと言いますか、良い刺激を得る事が出来る」

 ハイエルフにとっては、人間族は皆「初芽」のようなものである。


 そこに、ギルバートが話しを進行する為に発言する。

「では、皆さんは、これまでの事はご存じと言う事でよろしいですね?」

 全員が頷く。

「では、今後の事についてですが・・・・・・」

 言いかけたギルバートを止めたのはキエルアだった。

「お前さんは、昔のワシのように融通が効かない真面目な所がある。もうちょっと茶目っ気を出した方が良い事もある」

 いたずらそうにウインクすると、リザリエも楽しそうに笑う。

「その通りですよ、ギルバート。私たちは、報告を受ける為でも無く、事後の相談をする為に来た訳でも無いのです」

 リザリエの言葉には、ギルバートだけでは無く、グラーダ三世も面を喰らったような顔をする。

 てっきり、事後処理についての妙案をもらえるかと思っていたのだ。

「では、何の為に・・・・・・?」

 ギルバートが尋ねると、リザリエはタイアスの方を見ながら微笑む。

「事後の事はギルバートとアルバスの2人で考えなさい。私たちもタイアス様も、ただ単に雑談に興じに来ただけなのですから」

「な?!」

 驚くギルバートとグラーダ三世を余所に、タイアスも愉快そうに笑った。

「なるほど。これはカシム殿たちが尊敬して止まぬ訳だ。全く以てその通りですな。私も事後の事まで口を出すつもりは無い。ただ単に、カシム殿たちの話しで盛り上がりたかっただけなのだ」

 タイアスの言葉に、グラーダ三世は、またしても複雑な思いに囚われてしまう。

『やはりあの小僧は嫌いだ・・・・・・』

 


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