ギルド戦争  クブン関 1

 さすがは冒険者だ。

 ヨールドとミーンを抱えて、俺たちは館を出た。

 館を包囲していた兵士は、すっかり姿を消していた。

 壁際に縛られて座っているのは冒険者にやられた兵士たち。

 あれだけ派手に攻撃していたのに、ほとんど兵士に死者はいなかった。

 兵士たちは、混乱の中、ほぼ反撃も出来ずに撃ち倒されていった為、冒険者たちにも軽傷者がいるくらいだ。

 

 俺と正義の翼が、敵の総大将を捕らえて出て来たのを見て、冒険者たちが歓声を上げて向かえてくれた。


 賞金はここにいる冒険者たちで山分けしてくれと、2人の賞金首を渡すと、みんな喜んでいた。


 聞いた話では、ウルトは、散りじりに逃げていく兵士に紛れて逃亡していったらしい。

 行き先はクブン関だろう。

 俺もすぐに追いたいが、流石に疲れている。ちょっと休みたい。


「ピレア。終わったようだな」

 俺の隣にいるピレアに声を掛けてきたのは、門前に立ち、1人で1万の兵士をなぎ倒していた男だった。いや、どうやったのか、さっぱり分からないが。

 そもそも、武器も防具も無い恰好で、手には長い針金を巻いた物だけである。

「この人は?」

 俺がピレアに尋ねると、ピレアは俺にウインクをして、無言で一軒の宿に入る。

「ここにボクたちは泊まっているんだ。まだ部屋は空いているから、君も今日はこの宿に部屋を借りると良いよ」

 そう言って、自分たちの部屋に案内してくれる。

「ちょっと、待っててくれ。メアリが」

 メアリは宿の外で困った様に立って俺を見ている。

「君の恋人かい?」

 ピレアがニヤニヤして言う。

 さっき説明しただろ?!

 ピレアを無視して、メアリに駈け寄る。

「君を後でギルドに送り届けるよ。それまでここで待っていてくれ。何か飲んだり食べたりしていて構わないよ」

 そう言って、宿の主人と話しをする。ついでに部屋も一室確保する。

 メアリはガウンの前を合わせて、少し不安そうにしながら、小さく頷いた。

 俺はホッとして、ピレアが待つ部屋に向かう。



「さぁて、何から説明しようか」

 ピレアはいたずらそうな表情で、椅子に腰掛けて腕を組む。

「ちょっと信じられない話になるわよ」

 リメルさんが俺を気遣うが、リンクさんが首を振る。

「大丈夫よ。彼は創世竜と話しをしているんでしょ?多少の不思議は受け入れるわよ」

 何か、前振りが凄くて、信じられる話しかどうか、すでに不安になっているんだが・・・・・・。

 アリシアとリイはベッドに仲良く腰掛けて、話しに参加するつもりは無いようだ。それは男の方も同じで、関心なさそうに椅子に座って目を閉じている。

 ピレアと俺は向かい合い、双子の姉妹は左右に分かれて座っている。


「う~~ん。そうだな・・・・・・。まずは謝っておく事がある。ボクは本当は『勇者』じゃないんだ」

 うん。それは謝られても意味が分からない。

「本当の『勇者』はムンクだよ。あ、この人の事ね」

 ん?勇者云々はどうでも良いとして、この人があの世界五指に入る新星の魔具師ムンク?

「ああ、ごめんごめん!ムンクは本名じゃ無いんだよ。あだ名だよ。いっつもム~~~ってしてるから、ボクが子どもの頃に『ム~君』って呼んでて、ムンクになったんだ!」

 黙っているが、ムンクさんが赤くなる。この話はやめた方が良いんじゃないかな・・・・・・。

「ピレア。話しが逸れてる」

 リメルさんが話した方が良いんじゃないか?

「え~と。じゃあ、君は、前の聖魔戦争がどうやって終わったか知ってるかい?」

 唐突にピレアの話が飛ぶ。

「それは、竜騎士アレンが・・・・・・」

 答えかけた所で、ピレアがブンブン手を振る。

「違う違う!その前の!!」

 俺の心臓がドクンと跳ねる。


 現在の文明の前には、遥かに優れた文明があった。

 だが、聖魔戦争によって、地獄の魔物が出現し、文明が崩壊するまで、地上世界に被害を与えたという。

 その戦争で3つの大陸が沈んだそうだ。

 だが、考えてみれば、どうしてその聖魔戦争は終わったか、実は誰も知らない?

 何となく、創世竜が終わらせたのだろうと思っている。 


「あの戦いは、ボクたちが終わらせたんだよ」

 え?何だって?

「ああ。違ったよ。ボクたちが力を合わせて、『勇者』のムンクが終わらせたんだ」

 ピレアは平然と言う。

「ちょっと、待ってくれ。・・・・・・それってずっと昔の事だよな?」

 この人たちも不死の種族なのか?いや、でも、ピレアはハーフエルフだって言ってたよな。

「そうだよ。ボクとムンクは2人だけ生き残って・・・・・・分かるかな。冷凍睡眠で現在まで眠っていたんだよ。クマの冬眠みたいにね。で、3年前に目覚めたんだ」

 いいね。理解が追いつかないほどの真実。これはワクワクするが、少し頭を整理したい。

「あれ?でもそうすると、リンクさんたちは?」

「あら、あたしの名前?」

 おう。思わず出たが、俺はリンクさんのファンにもなっている。この前の『ただ中』には、正義の翼の念写が載っていたので、リンクさんの念写だけこっそり切り抜いて、秘密の切り抜きブックに挟んでいるのだ。

 ちなみに俺たち竜の団は、念写は拒否したから、顔は知れ渡ってはいない。

「ああ。彼女たちは死んじゃったんだけど、時を巡って生まれ変わったんだよ。だから、前世の記憶をもっているんだ」

 ぬああああ。生まれ変わりね。あるある。そうした説は聞いた事はあるさ。しかし、次から次へと、ちっとも俺を休ませてくれない。

 多分壮大なストーリーがあってこうなっているんだとは思うけど、どう対処して良いのか分からないよ。

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