ギルド戦争  モンスター指定 5

 にわかに外が騒がしくなった。

 館の中もドタバタと兵士たちが慌ただしく動き回っている。

 メアリさんもその様子に不安げにして、寝室から出てくる。

「何か始まったようだ・・・・・・」

 ヨールドを諦めて俺を拘束しようと動き出したのなら厄介だ。嫌でも抵抗しなければならなくなる。無駄な人死にが増えるだけだ。

 

 俺は窓に近付き、そっとカーテンを開けて外を見てみる。

「何だ?あれは?」

 館の正門前に、1人の男が立っている。

 その男の周囲が、広範囲にキラキラ輝いていて、次々と兵士が空を舞って吹き飛ばされている。

 炎魔法や土魔法、氷魔法すらも、輝きに触れると霧散する。

 兵士たちは地面に倒れる兵士を乗り越えて、次々攻撃を仕掛けようとするが、近付く事さえ出来ない。

「あんなのは、俺も初めて見る」

 この館を襲撃すると言う事は、味方かどうかはともかく、ヨールドたちにとっては敵な訳だ。

 この状況を利用できないだろうか?

 とは言え、ヨールドを抱えて、メアリさんを守りながら逃げ出すのは、ちょっと厳しいな。

 それに、どうも館の中でも戦闘が始まった様だ。これはこのまま様子を見た方が良いかもな。


 そう思っていたら、この部屋に向かって来る複数の気配を感じる。

 俺はヨールドを引きずって、ドアの外に出る。

「おい!入ってくるな!!」

 廊下の先で、ウルトとミーン。それに十数人の兵士たちが止まって手を挙げる。

「待て!いや、待ってくれ!!話しを聞いて欲しい!」

 ウルトが血相を変えている。

「どうか閣下を返して欲しい!君の安全は保障する!!金ならいくらでも用意する!だから直ちに閣下を返してくれ!」

「おいおい。外での騒ぎが原因だろうけど、それで、『はいどうぞ』って返す訳無いだろ?」

 俺は呆れて言う。

「ならば、大統領補佐官が人質になる!」

「え?!そんな!」

 言われたミーンが青くなって首を振る。実に素直で良いね。ミーン氏はヨールドの為に命を賭ける覚悟は微塵も無いようだ。

「前にも言ったが、人質の価値が下がってどうする?ヨールドは多分、解放されたとたん、人質もろとも俺を殺すように命令するはずだ」

 信用するのもバカバカしい口約束だ。

「何故だ?!何故分からん!!大義はこちらにある!!閣下が人類を整理する事で、ようやく我らは聖魔戦争にも勝って、神と共に永遠の楽園を築く事が出来るんだ!!」

 どこからそう言った発想が出来るんだ?500万人の虐殺も、正義だと言うのか?それのどこに大義がある?!

「勝手な事を言うな!!民衆を切り捨てて、無計画に権力だけを拡大させようとしているのだろう?!」

「そんな事は無い!閣下には遠大な計画がある!正義がある!!権力は手段でしか無い!!」

 俺は激怒する。

「正義と大義が、なぜ女性に暴行を働く行為に繋がる!!」

 それは言い訳出来ないだろう。

「・・・・・・は?女性に暴行?」

 ウルトが驚く。

「それの何がいけない?閣下の重圧を取り除く事が出来るのだから、その身を捧げるのが当たり前では無いか?」

 どうやら本気でそう思っているようだ。

 

 初めて俺は、「人を殺したい」と思った。これが明確な「殺意」と言う奴か。剣を握る手に力がこもる。

 ここにいる奴ら、全て殺し尽くしてやるつもりでいた。


 その時、外から大音声が響いた。拡声魔法で広範囲にメッセージを伝える放送だ。



『我々は冒険者ギルドである。

 現在バルト共和国で起こっているテロ行為について、全世界に情報を伝える。

 一部軍事勢力により、バルタ共和国は政権を乗っ取り、北バルタの民衆500万人を虐殺する暴挙に出ている。

 我々、冒険者ギルドは民衆の味方である故、この暴挙を看過する事は出来ない。

 よって、緊急クエストを発令する。


 バルタ共和国を占拠する軍事勢力の責任者をモンスター指定する。

 ヨールド、自称大統領、並びに、2~7軍団の自称将軍、並びに、自称大統領補佐官のミーンが、モンスターとして認定された。

 全ての冒険者は、生死を問わずに討伐せよ!


 尚抵抗するテロ兵士への攻撃も許可し、これによりテロ兵士が死亡しても、その罪は問われない。


 聞こえているか、テロ集団よ!貴様らは醜悪で卑劣な地上世界の敵、モンスターだ!!この世界に貴様らに生きる場所はもうない!!』



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