ギルド戦争 モンスター指定 4
10月19日。
カシムはヨールドを捕らえて、
食事が運ばれてきたので、ヨールドの猿ぐつわを外すと、ヨールドはとたんに喚き出す。
「貴様!!こんな事が許されると思っているのか!?今すぐ私を解放しろ!!」
「許す、許さないの問題じゃ無い。やらなきゃ、俺が殺されるんだから仕方が無い」
カシムは肩をすくめてみせた。
「私こそが世界の偉大なるリーダーだ!選ばれた民を率いて、神の意志の元、世界を統一するのだ!その私に対してこの無礼、万死に値する!今に神の裁定が下されるぞ!!」
カシムはうんざりしたように聞いている。
「わかった、わかった。あんたが偉大だとして、俺を裁いてくれるのはどの神なんだ?」
「無論12神の方々だ」
12神とは、第一級神の事で、12人いる。
「俺は神に祝福された事も、罰せられた事も無い。替わりに、創世竜に認めて貰ったり、ハイエルフの友となったがな」
カシムも、あまり神を信用していない。「神は気まぐれ」。この言葉は一般的な神の有り様を表現した言葉である。
だが、人間至上主義者は、神が自分の都合で作った「創世記」の通り、人間は神が作った物であり、「最終的に選ばれた信心深い民を除いた世界全てが滅びる」、「信じた者は、永遠の楽園にその魂が導かれる」と信じている。
カシムはそもそも、「永遠」に興味が無い。カシムが興味を持った創世記は、第一節の不可解な部分だけである。その不可解さが、大きな疑問になり、考古学者を目指そうと思ったきっかけなのだ。
「神罰ならいつか受けてやるから、メシは食うのか?食わないのか?」
カシムはヨールドと対話をするつもりは無い。
「何を言っておる!私の食事だ!食べるに決まっているだろう!女!早く食べさせろ!」
自分が痛めつけていたにもかかわらず、ヨールドはさも当然そうにメアリに命令する。
「あんたさ。この女は、自分からあんたのお世話をして差し上げたいって申し出たんだぜ?少しは有り難いとは思わないのか?」
カシムは、怒りが込み上げてくるのを我慢しながら尋ねる。
「なぜ私が感謝しなければならない?私の世話をしたいと思うのは当然だ!神に選ばれた私の世話が出来るなど、分に過ぎた栄誉である!」
正気を疑うより外ない。
カシムはメアリに目を向ける。これは尽くした態度を見せても報われる気がしない。世話をさせるだけ気の毒に思えたのである。
メアリにとって、ヨールドは憎い相手だ。殺したいほどだろうに、演技でも世話をさせるのは酷に思えた。
しかし、メアリは小さく首を振る。
「そうなのでしょうね」
苦笑すると、食事の世話を始めた。
カシムの好意を無にしない為にも、自分の心を殺して見せたメアリに、カシムは感心する。
食事が終わると、ヨールドには再び猿ぐつわがはめられる。食事中もずっとうるさかったので、カシムはうんざりしていた。
その後、メアリも食事を取って貰い、一息ついた所で、風呂を勧める。
メアリの体は、血の跡が乾いていたし、かなり汚れてもいた。
入浴後、メアリには寝室で眠ってもらう。
その次は、カシムも、監視をしながら軽く濡れタオルで体を拭くと、汚れた服を着替える。
ようやく人心地付いたが、今度はカシムも眠くなってしまう。
昨夜から一睡もしていないのはそうだとしても、ここ数日、ほとんど眠れていない。
「むむむ。これは辛いな・・・・・・」
眠いのを我慢するのはかなり辛い。しかも先が見えない上に、一瞬も油断できず、無明も全開にし続けなければいけないので、疲労がどんどん溜まっていく。
「思ったよりも保ちそうも無いぞ・・・・・・」
◇ ◇
10月19日、11時。
正義の翼の宿に、不意にピレアが出現する。隣には背の高い男が一緒だった。
男は一般的にムンクと呼ばれている、グラーダ国の工業都市ザメルで、世界五指に入る鍛冶師にして魔具師である。
作業していたままの服で、ピレアの側に立つ。
「ムンク!久しぶり」
「何万年ぶり?」
正義の翼のメンバーが笑い合う。
「みんな。ムンクを困らせないでよね!」
ピレアが頬を膨らませて怒る。
「俺のせいでは無い。顔を出さないお前らが悪い」
ムンクは表情一つ変えずに言う。
「相変わらずの無愛想さだね。こんな奴のどこが良いんだい?ピレア」
リンクがニヤニヤしながらピレアを指さす。
「からかわれたって構わないさ!ボクはムンクが大好きなんだ!!」
ピレアは堂々と胸を張る。
「やれやれ。熱々ぶりも変わらないんだね。安心したよ」
リンクも仲間たちも笑う。リイだけはムンク同様に無表情だ。
「それより、さっそく館に行くよ!」
ピレアを先頭に、正義の翼とムンクは、すぐ近くの館に向かう。
館は、相も変わらず多くの兵士に取り囲まれていて、蟻1匹通さない構えだ。しかも内側からの蟻を、である。
「状況は変わらずかな?」
そう呟くと、ピレアは元気に兵士に挨拶する。
「やあやあ、ご苦労様!手伝いに来たよ!ミーン様はいるかな?」
ピレアの声かけに、兵士は驚き、動揺を見せる。
「ちょ、ちょっと待っていて下さい。連絡をして来ます!」
兵士が1人、館に走って行く。
「ありゃ?どうかしました?」
「いや。しばらくお待ち下さい」
ピレアが聞いても、兵士たちは動揺するばかりで、何も答えない。
やがて、館から兵士が戻って来て、ピレアに告げる。
「お待たせしました。ミーン様が言うには、賊は捕らえました。しかし、賊は伝染病に感染した恐れがあるので、北バルタに移送させるとの事です。なので、手助けの必要がいらなくなったので、礼金はギルドで受け取って欲しいとの事です」
兵士の言葉を聞くと、ピレアは首をひねりつつも、取り敢えず頷く。
「はーい。了解しました!でも取り敢えず、賊君は、まだ館にはいるんだね?」
すると、兵士はうっかり答えてしまう。
「はい、そうです」
ピレアがニンマリ笑う。
「だってさ。じゃあ、やる事は変わらないね」
そのとたん、兵士たちが大量に宙に舞う。その数百以上。
無音で吹き飛び、地面に、壁に、他の兵士に激しくぶつかる。
何が起きたのか、誰も理解できない。
兵士たちが吹き飛んで出来た空間の真ん中には、1人の男が、細い針金の束を、輪にして手にしているだけだった。
「じゃあ、ムンク!外の兵士たちは任せるね!!」
「造作も無い」
外で取り巻いている兵士たちは1万以上で、装備も整っており、訓練も受けている。
しかし、防具も無く、武器も無い男は、1人で悠然と立ったまま答える。
「正義の翼!突入!!」
ピレアと正義の翼メンバーは、館の門を突破して、敷地内に侵入していった。
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