ギルド戦争  モンスター指定 3

「では、これからは我らの話ですな」

 ゼンネルがいつになく険しい表情でグラーダ三世と、ギルバートを見つめる。

 グラーダ三世は小さく頷く。

「では、私はかつて無い命令を冒険者にする予定です。その特例措置に対する了承と出資をお願いしたい」

「話すが良い」

 グラーダ三世が先を促す。

「我々地上人に対する、ヨールドたちの新政府軍の行いは、もはや非道を通り越した悪行です。故に、私は奴ら首脳部、軍司令部の主立った人間を、『モンスター指定』します。

 モンスターとしての討伐を、全冒険者に対して『緊急クエスト』として発令します」

「人間を、モンスター指定とは、かなり乱暴だな」

「乱暴なのは奴らです!全住民の虐殺など、考えられません!!」

 ゼンネルが叫ぶ。

「更に、ギルドにも面子があります。北バルタのギルドを壊滅させられて、黙って等いられません。これはギルド戦争です!!」

「ゼンネル。気持ちは分かるが、少し落ち着け」

 ギルバートが諭すが、ゼンネルの興奮は収まらない。

「興奮したままの方が行動が早くなる!多額の懸賞金をかけますので、資金援助をお願いする!!」

 グラーダ三世はニヤリと笑う。

「良かろう。軍の論功行賞並の報酬を約束しよう。ギルド長よ。俺が許す。やってしまえ」

「陛下!!」

 ギルバートはグラーダ三世を諫めようとしたが、グラーダ三世はそれを止めた。

「俺たちが育てた冒険者たちの力を、ここで見せてもらおう」

 グラーダ三世の言葉は深い。元より、軍とは別の武力としてグラーダ三世は冒険者制度を作り上げたのだ。それが、軍と戦う事で、戦い方も、成果もどれほど違ってくるのかをグラーダ三世自身も知りたかったのだ。


 その成果は、これまたグラーダ三世の予想を完全に覆す形で翌日に報告される事となる。



 

 ゼンネルは、至急冒険者ギルドに戻ると、すぐにメッセンジャー魔道師を集める。そして、バルタ近郊の国に緊急クエスト発令を告げる。


「聖バルタ共和国を自称するテロ集団は、北バルタ国民500万人を虐殺すると宣言した。我ら冒険者ギルドは、その非道な行いを見過ごす事は出来ない。すでに10万人以上の民が虐殺されている。

 それは最早人間の所行ではない。

 その為、以下首謀者を、冒険者ギルドはモンスターに指定する。

 1・ヨールド・グハーグ 自称大統領

 2・ヒルメス・アンメル 自称第二軍団将軍

 3・リドーラ・アンメル 自称第三軍団大将軍

 4・ウタト・エイミール 自称第四軍団将軍

 5・ロイド・バランス 自称第五軍団将軍

 6・イーラ・グハーグ 自称第六軍団将軍

 7・ドワイト・グハーグ 自称第七軍団将軍

 8・ミーン・ドルヘン 自称大統領補佐官


 上位8名は生死を問わず、討伐成功すれば100万ペルナー。

 下位24名は、生け捕りに限り、20万ペルナー。


 尚、今回のクエストでは、一般兵との戦闘も有り得るので、殺人となっても罪には問わぬが、極力戦闘を控える事。

 また、一般市民への暴行、略奪行為は、厳に取り締まり、違反者には死罪を適用する。

 逆に、市民を救助、救出したものにも報奨金、貢献度を与える。


 緊急クエストの対象者は全冒険者である。速やかにバルタ共和国へ向かわれたし」


 そこには作戦も戦略も何も無い。

 冒険者が、それぞれ持つ技能で何とかしろ。

 そう言う事が書かれていた。

 人間同士の戦闘を忌避する冒険者は多い。そう言う者は救助に当たる。義憤に駆られた者は戦うだろう。

 どこに駆けつけるか、どうやって行くか、全ては冒険者任せである。

 無視しても、ペナルティーもない。


 この緊急クエストの報を受けた、冒険者たちの驚愕と動揺は凄まじかった。

 初めて知ったバルタ国の現状に憤り、すぐに行動を起こす者もいれば、慎重に続報を待つ者、仲間や、他の冒険者グループと連絡を取り合う者など。

 だがやはり、ほとんどの冒険者たちは、バルタ国に向かって足を進めていったのである。




 そして、同じ内容の緊急クエストは、翌日10月19日の午後になって、全世界、また南バルタ共和国にも伝えられる事となる。

 全世界一斉放送によって、今現在、北バルタで行われている残虐行為と、それに対する冒険者ギルドの対応の意志が発せられた。

 方法は、メッセンジャー魔道師が、拡声魔法で全ての冒険者ギルドから、ゼンネルの言葉を伝えるものだ。半径5キロ程度だが、声は届く。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る