ギルド戦争  モンスター指定 2

 ハイエルフの1つの里に、戦士は1000人もいない。これはエルフの大森林の中心である「八光やこうの里」でも同様だ。

 だから、他の里から招集しなければいけない。

 幸いな事に、参加希望者は、どの里からも過剰に名乗り出ている。皆、カシムの為ならばと、命を惜しまない。

 報告を受けるや、次々八光の里を目指してウルーピーに乗って急ぐ。


 転送の術は、今はイスファーンだけが使える。他の最長老も使えるように調整したとしても、術を使える「星」は一つしか無いので意味は無い。

 更に、一度に20人程度しか運べず、一度術を発動すれば、次に使えるようになるのに1時間の休息が必要になる。

 また、1回の術の度に、手順がある為、1000人規模の戦士を現場に送り込む為には、それだけの時間がかかってしまうのだ。

 

 だから、まずはイスファーンは八光の里の戦士を次々国境近くに送り届ける事を繰り返していた。

 まずはバルタ共和国の領土を、南北問わずに完全に包囲する準備だった。

 そして、他里からの戦士を戦場となる場所に配置していく予定だ。

 



◇     ◇




 翌10月18日、早朝。

 タイアスの元に、次々風精霊による偵察隊からの情報が入る。

 北バルタの惨状。バルタ軍の行動。敵の数。配置。

 南バルタの情報も入ってくる。

 タイアスは少し眉をひそめて呟く。

「相も変わらず、人間は愚かだ」


 だが、報告を受けると、すぐさまグラーダ三世の元に行く。

 


 軍議には、グラーダ三世、ギルバート、ガルナッシュ、タイアスの他、今日はギルド長のゼンネルが出席していた。

 集まると早速タイアスが報告する。

「今、聖バルタ共和国では、軍による政権奪取がされているが、その方法は残虐そのものだ。北バルタは国王派として、全国民を虐殺するつもりでいるようだ」

 その言葉に、全員が驚く。

「国軍トップにして初代大統領を名乗るヨールド。奴が首謀者だ。そして、従うのは6人の将軍。南バルタにいるのは3将軍。ヒルメル。そして、イーラとドワイトはヨールドの息子と甥という血縁者だ。

 北バルタの責任者リドーラ大将軍はクブン関にいる。他の将軍としてはウタト。これはヨールドの孫を嫁に貰っている。他にロイド。主にこの2将軍が虐殺の実行部隊となっている。

 なお、第一軍団のバイド大将軍と、第一軍団は、この反乱に参加せず、北バルタに身を隠しているそうだ。すでに我らの1人が接触に成功している」

 敵の陣容が明らかになってきた。

「カシム殿を捕らえた不届き者はウタトで、現在は軍団を連れて、クブン関を南下しているので、恐らくはクルセイユにいるヨールドの元に向かうものと見られる」

「北バルタの状況は?」

 ゼンネルが尋ねる。

「酷い状況だ。すでに10万人は殺されたと言う。更に、ギルドも襲撃されて、ほとんどの者は殺されたとみて良いだろう」

 その報告を受けて、ゼンネルは唇を血が出るほど噛みしめる。

「無論、疫病は嘘だ。ヨールドは南バルタの国民のみを支配する為に、全ての食料や金品を略奪し、南バルタに送っている。それで、民心を得ようとしているらしい。実に先を考えぬ愚かな行為だ」

「なぜ、そんな残虐な行為を平然と行うのか?」

 ゼンネルが正に血を吐きながら問う。

「奴らのトップは、すべて過激な差別主義者だからだ」

「人間至上主義者か・・・・・・」

 ゼンネルもエルフである。人間至上主義者には思う所がある。彼らは、種族の差異だけでは無く、思想や文化の違いすら認めない。

 程度の差はあれ、自分たちは絶対善の立場にいる優れた民だと信じている。

 今回はそれが極端すぎる形で発露したものだ。

 無論、人為的にである。


「先導者はヨールド。奴に感化されて、多くの者が奴の思想に染まっていった。意に染まぬ将軍は更迭され、粛正された。唯一、第一軍団のバイド大将軍だけは、他の兵士への影響力が大きかったので、排除出来ずにいた様だ。

 そして、北バルタ出身の兵士も、多くが粛正されている

 どうやら、政治が機能をしていないのを良い事に、着々と準備を進めていたらしい」

 報告が終わったようで、タイアスが目を閉じる。



「・・・・・・軍を動かそう。だが、いかなグラーダ軍だとて、今回は間に合わんだろう」

 グラーダ三世がタイアスを見る。

「ハイエルフの配備はどのように?」

「今朝、イスファーン様と連絡を取り合いました。500で、国境を完全包囲します。我らの包囲は、精霊を使いますので、1人も外には出しません。200を北バルタ、200を南バルタへ。100はクルセイユに向かわせます。無論、精霊族の最精鋭です」

 数は少ないように感じるが、ハイエルフが言うのだから、それで一国を制圧する戦力としては充分なのだろう。

「承知しました。ですが、どうか、民衆には犠牲者を出さないように配慮して下さい」

 グラーダ三世が懇願すると、タイアスが意外そうな顔をする。

「グラーダ国王。彼らは貴国の国民では無いのですよ?」

 グラーダ三世はその質問を真っ正面から受けて答える。

「戦士や兵士、将であるならば、それは全て覚悟の上。無論私とて同じ事。ですが、民衆は違う。彼らの平和を守りたいが為に、私は世界会議戦争を起こし、狂王となりました」

「なぜに?」

「母が愛したこの世界を守りたい。妻と過ごしたこの世界を守りたい。娘が幸せに過ごせる世界を残したい。それが私個人の強い願いで、全ての原動力です」

 グラーダ三世は偽らざる本心を語った。それにタイアスは頷く。

「それは素晴らしい考えだ。それならば我らも理解しやすい。承知した。元よりそのつもりだったが、より細心の注意を払おう。我らもカシム殿に軽蔑されたくはないですからな」

 そう言うと、タイアスは退室していった。

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