ギルド戦争 モンスター指定 1
10月17日の夕方に、グラーダ城へ届いた報告に、グラーダ三世、ギルバート、一位のガルナッシュ、そして、ハイエルフのタイアス、イスファーンが参加して緊急会議が開かれる。
「・・・・・・と言う報告を、竜の団団員から受けました」
ギルバートが、まだ報告の内容を知らない、ガルナッシュとハイエルフの2人に伝える。
「それで、タイアス殿、イスファーン殿。北バルタの状況は、どの程度分かりますか?」
グラーダ三世がハイエルフ2人に尋ねる。
「明日の朝にでも、最初の報告を受ける事になっております」
タイアスが答えるが、イスファーンは無言で立ち上がる。
「イスファーン殿?」
グラーダ三世が訝る。イスファーンからは穏やかな笑みが消えている。
「我ら精霊族の方針は決まった。今すぐ準備を始める」
「準備・・・・・・とは?」
「知れた事。聖バルタ共和国とやらを攻め滅ぼす。我らはカシム殿に多大な恩義がある。我らの友である。カシム殿の為ならば、全ての精霊族は命を惜しんだりはせん!」
イスファーンの迷いの無い目に、グラーダは驚く。
「お待ち下さい」
「邪魔をするならば、グラーダ国も敵国と見なすが?」
イスファーンも本気だし、タイアスも、恐らく同じ考えのようだ。
「もちろん止めません。しかし・・・・・・」
「ふん。『グラーダ条約』か?他国に攻め入ってはならんとか。だが、我ら精霊族はその条約に調印しておらん。我らには関係ない事。自由にさせて貰う!」
一刻も早く、この場から立ち去りたい様子のイスファーンを、更にグラーダ三世は引き留める。
「もちろん承知しております。ただ、私が聞きたいのは、イスファーン様の準備が出来る時間と、規模についてです。我々とて、このまま黙っているつもりはありません。教えていただければ、呼応した対応が取れるという物です」
グラーダ三世の言葉に、ようやく表情を少し和らげてイスファーンが告げる。
「規模は1000人。時間は・・・・・・早くても21日頃だろう。タイアスからバルタを偵察に行った者の報告を受けて、我々の配置は決めるだろう」
それだけ告げると、イスファーンは足早に退室して行った。
「短気と思われますな。私も今すぐにでもバルタに馳せ参じたい思いです」
グラーダ三世は、改めて驚く。あのハイエルフにここまで思われているカシムとは、実際はどんな男なのだろうかと。
今までは憎しみのフィルターが掛かって、ちゃんとカシムという人物を見る事が出来ていなかった。
背後に控えるカシムの父であるガルナッシュを振り返る。
ガルナッシュは、息子の危機だというのに、僅かな動揺すら見せていない。むしろ嬉しそうにしている。
「ガルナッシュ。思う所あれば話せ」
突然話しを振られたガルナッシュだが、答えは短い。
「思う所はありません。軍を動かされますか?」
「息子の事だ」
グラーダ三世の言葉にはタイアスが反応する。
「ほほう。カシム殿の父親でしたか。これはお会いできて嬉しい」
グラーダ三世に対するよりも、明らかに親しげだ。
「こちらこそ、光栄の至り」
ガルナッシュは真面目な返答を返し、グラーダ三世の問に答える。
「カシムの事は心配しておりません。この程度の事を切り抜けられないとは思っておりませんから」
「・・・・・・なるほど。それは確かに。我らの方が熱くなり過ぎましたかな。ハッハッハッ」
タイアスが笑う。グラーダ三世は、やや憮然とする。
「軍は3軍、グレンネック国境に至急集合させよ。明日中にだ」
「は」
簡単にガルナッシュは答えるが、軍を動かすのは時間が掛かる。兵士だけで動くのでは無く、兵站の準備など、沢山やる事がある。だが、グラーダ軍に関しては、即座に動く事が出来る。
兵站は、街道の各所にあり、町にある。グレンネック、アインザーク、獣人国にも兵站庫を抱えている。
また、街道整備が成されているので、追加で兵站を送るのも容易だ。
「では、タイアス殿。北バルタの状況が分かったら、至急お知らせ下さい」
「承知した」
この会談が終わった後、ギルバートはすぐに動いた。
まずは聖バルタ共和国に対して、メッセンジャー魔道師を通して抗議文を送る。
カシムの安全の保障と、身柄の返還。北バルタの情報の開示を求めるものだ。
次にグレンネック国王に、グラーダ軍の通過の許可を求める。これはまだ確定では無く、聖バルタ共和国の状況によっての注釈付きである。無論無料でとはいかないので、それなりの見返りを提示しておく。
更にバルタに隣接する国々に注意喚起の文章。
最後に、冒険者ギルドのギルド長ゼンネルを、明日の朝、登城する命令を正式に下知する。今度は旧友としてでは無く、公にグラーダ三世の名で呼び出す。
「ハイエルフ1000人の戦士・・・・・・か」
ギルバートは興奮していた。
それ程の規模の戦士が地上に出てくるなど、聖魔戦争でしか有り得ない、正に物語の中の出来事である。
出来れば自分も現場で見てみたい気持ちがあった。
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