ギルド戦争  人質 6

 盗賊職は、魔法探知を妨害するのは、当然専門能力のひとつだ。それが無ければ、魔法アラームにことごとく引っかかる間抜けにってしまうからだ。

 勿論、魔法を掛けた側の力量や、魔法のレベルによっては無効化は難易度が上がってくる。

 ちなみに、「忍者」は盗賊の上位職という認識があるので、例えミルが忍者だったとしても、魔法探知妨害のスキルは持っているのが普通だ。


「う~~ん。ミルさんかわいい!!」

「うるせぇ!とっとと食って寝ろ!!」

 ファーンが書き終えた手紙をエレナに突きつける。

「ミル。出来るのよね?」

 リラの問に、ミルは頼りなげに首を傾げる。

「多分。覚えていれば出来るはずだよ~?」

「・・・・・・じゃあ、私がアラーム仕掛けるから、どこかで1回練習しましょう」

「う~ん。心配になってきたぜ・・・・・・」

 ファーンは呻った後、ずっと黙り込んでいるアールに目を向ける。平静を装おうとしてはいても、顔色は悪いままだ。

「アール。オレたちは頼りなくても、アイツは頼りになるから、アイツを信じろ。オレたちも信じている。絶対大丈夫だから、お前も食って、少しだけしっかり休め」

「は、はい。そうします」

 アールは、夜中だというのに宿が出してくれた簡単な食事を食べる。食事の手配は、ミルが最初に馬を取りに戻った時に頼んでおいたのだ。

 にもかかわらず、アールの食は細かった。


「すみません。では、あたしは休ませて貰います~」

 申し訳なさそうにエレナが席を立つ。

「気にするな。と言うよりも、本当はパーティーを分けたくなかったんだ。エレナははっきり言って貴重な人材だしな」

「ファーンさん!!」

 エレナが瞳を潤ませてファーンを見つめる。

「だけど、この際時間が大切だ。エレナには悪いと思っている。絶対に無理するなよ。カシムならそう言っているはずだ」

 ファーンのセリフは、カシムの言いそうな事である。それを聞いたエレナがガッカリした様子になる。

「いや。オレもそう思っているよ。だけど、オレはちょっと厳しいぜ」

 ファーンがニヤリと笑う。

「エレナは、手紙を届けた後、オレたちを追ってクブン関に来て欲しい。来かたは任せる」

「うひ~~~。あたし盗賊スキルないんですよ~~~」

 エレナが叫ぶ。

「そうだよ。だから、無茶せず、でも無理してでも、何とか助けに来てくれ!」

「うう~~。確かに厳しいですが、そう言われて燃えないのは獣人の戦士じゃ無いです!任せて下さい!!」


 エレナは寝に行ったが、ファーンたちは今から出発である。

 出来るだけ急いでクブン関にたどり着きたいので、馬を休ませる時の休憩だけで、後はひたすら走るつもりでいる。

「良し!行くか!」

 ファーンが立ち上がると、リラ、ミル、アールも立ち上がった。

「ええ」

「行こう!」

「はい」




◇     ◇




 エレナは翌日、疲れが回復するとすぐに獣化して、ウィネスの町を目指す。

 途中で獣化の限界が来たが、そこからはひたすらに走ってウィネスにたどり着く。

 そして、冒険者ギルドのメッセンジャー魔道師に手紙を託す。

 その報が、10月17日の夕方になって、グラーダ国王にまで届いたのである。


 すでに疲労困憊だったエレナは、メッセンジャー魔道師が手紙の内容を伝えた事を報告すると、安心したように気絶した。

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