ギルド戦争  人質 5

 ファーンたちは山を駆け下りて、馬を預けてあるオド村へ急ぐ。

 ミルは一足先に、全力でオド村に向かっていた。

 本当ならば、エレナを獣化して、最寄りの冒険者ギルドがあるウィネスの町に飛んで、メッセンジャー魔道師に手紙を届けて欲しかった。

 しかし、今日は獣化の限界が来ていて、今から飛ばすとなると、エレナにも危険があったので、その案は取りやめざるを得なかった。

 一日に何度も人を抱えて飛んだのだから、消耗も激しい。

 あのエレッサのバレル隊長でさえ、数時間ファーンを抱えて飛ぶのが精一杯だった。

 籠でグラーダに送り届けて貰った時は2人がかりで、1日、休憩を挟みつつ6時間の飛行だったのだから、エレナが飛べないのもうなずける。

 ファーンは日の暮れかかった空を、恨めしそうに見上げる。

 空には夕刻にだけ、決まった位置で輝いて、夜になると消える「黄昏星」が明るく輝いている。


「うう~~。不甲斐なくてすみません・・・・・・」

 エレナがしょげかえるが、ファーンは自分の体力の限界を感じているので、それに対して何の反応も示せない。

「気にする事は無いわ。出来る事を一生懸命やればいいの」

 リラがフォローを入れる。


 山からなだらかな斜面に出た辺りで、前からミルが、馬に乗ってやって来た。もう一頭引き連れている。

「お待たせ!!」

 ミルが言って、馬から飛び降りる。馬は全部で4頭いるが、ミルが引き連れて来られる数が、後一頭だけだったからだ。

 一頭にリラとエレナが乗る。エレナは、まだ乗馬が得意では無い。

 もう一頭にアールとファーンが乗る。ファーンはやっと一息付ける。

「まずは、オド村だよね!」

 ミルは、ずっと全力で走って、馬も走らせてきたというのに、軽く息を弾ませているだけで、すぐに馬より前を走り出す。

「ハイエルフって、すごいですね・・・・・・」

 底なしの体力に、エレナが感心する。

 

 ステイタス鑑定でも、ミルの体力値はとても高いが、多分実際の数値ではないだろう。

 そもそも、鑑定士が見る事が出来るのは地上人の常識範囲なのだ。

 だから、ハイエルフのような上位種族の数値など、出せる訳が無い。つまり、レベルもステイタスもミルの場合は全く正確では無い事になる。

 それはリラについても同じで、魔力値は合っているのだろうが、精霊感応力エーテルは分からないし、精霊魔法による強さ判定も出来ない。だから、リラの場合、レベルは間違いなく32よりもずっと高い事になる。

 その事は、まだ本人たちは気付いていないが・・・・・・。



 そこから馬を走らせて、夜中になってオド村に着いた。

「馬を休ませないといけないから、ちょっと休憩だ」

 宿に着くと、ファーンが言う。

「エレナはすぐにでもメシ食って寝ろ。手紙を書くから、しっかり頼んだぞ」

「分かりました!」

 エレナはここで、一時別行動になる。

 しっかり休んで飛べるようになったら、ウィネスの町に飛んで、手紙を届ける任務がある。


 ウィネスの冒険者ギルドのメッセンジャー魔道師が、グラーダ国の冒険者ギルド本部のメッセンジャー魔道師に手紙の内容を伝える。

 そこから、グラーダ王城のメッセンジャー魔道師に伝えて貰う事で、今回の事態をグラーダ国王に伝える事が出来る。

 それで事態が解決する訳では無いが、重要な一手だ。


 一方で、ファーンたちは、休憩の後に、直ちにバルタ共和国に向かう。

「カシムがどこに連れて行かれたのかは分からない。だが、間違いなくクブンかんには向かっている。正直、クブン関に収容されているとなると、最悪だ。なにせ要塞だから、手が出せない」

 ファーンは手紙を書きながら自分の考えを語る。

 手紙には、ミルが聞いた、カシムとウルトとの会話も書かれている。

 ミルは耳が良いので、離れていてもあの時の会話は聞いていた。それ故に、ウルトたちの異常さを感じている。

「だから、最悪を考えて、クブン関に向かう」


 ファーンがこう考えた時には、確かにカシムはクブン関にいた。その後、クルセイユの都に移送される所までは想像できたとしても、新国家の最高責任者を人質に立て籠もる事など、流石に想像できなかっただろう。

 そもそも、ファーンたちは「聖バルタ共和国」樹立の話しを知らない。


「オレたち竜の団は、間違いなくマークされているから、正規のルートではバルタに入れない。だから、南バルタのどこかから入るしか無いな」

 北バルタに近い国境は、当然警備が厚いと考えられる。南バルタに行くしかない。それでも密入国しなければいけない。


 オドから南に行けばウィネスの町で、そこから街道を西に進めばバルタとの国境の関所になる。関所を通り西に向かえばクルセイユの都。

 クルセイユから北に進めばクブン関となる。

 だが、正規ルートを使わずに、クブン関に接近するのは、平常時ならともかく、今は警戒されているだろう。南北のバルタを分断する大切な関門だからである。

「オレたちには、『竜の団マント』があるから、がっつり隠れて侵入だな」


「魔法対策も当然必要ね」

 リラが言うように、人員を配置するだけでは、国境警備など出来ないから、必ず魔法による監視がされているだろう。

 空からの侵入も地下からの侵入も察知されてしまうはずだ。

「それはリラ先生にお願いするぜ」

 ファーンが言うと、リラは眉根を寄せる。

「そう簡単にいかないわよ。専門でも無いし・・・・・・」

 言いかけて、リラはミルを見る。

「あれ?ミルって、確か盗賊職だったわよね」

「ああ。そういや、『ハイエルフ職』強くって忘れてたけど、確かに盗賊職だ・・・・・・」

 2人が呟くと、ミルまでもが思い出したように頷く。

「ああ~。忘れてたけど、ミル、まだ忍者じゃなかったっけ・・・・・・」

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