ギルド戦争 人質 1
俺の狙いはヨールドだ。
奴を捕らえて人質にする。そして、籠城。
その間に、きっと仲間たちが何か打開策を見つけてくれる。
ヤバいのは、その前にコッコが来て、街ごと焼き尽くしてしまうことだ。
だからそうならないように、主体的に行動を起こさなきゃいけない。
ヨールドの居そうな場所は見当が付く。
この館の構造も知らないが、アイツは多分3階辺りにいるはずだ。
低い階だと身分が低い奴のような気がする。しかし、あの太った体型だから、4階以上まで階段の上り下りは面倒くさいはずだ。
そして、階段から3つぐらい離れた部屋だろう。
階段から近すぎても、遠すぎても何かあった時に不安になるだろうからな。
あとは、その辺りに、良さそうな部屋さえあればそこを自分の部屋と決めるだろう。
無明とマントの背景と同化する能力で、俺は兵士の警護をすり抜けて、3階に上がる。
そして、思った通りの3つ目の部屋にヨールドがいた。
扉の前に4人の兵士が立っているから分かる。
俺は一気に距離を詰めつつ、竜牙剣を投擲する。
兵士2人は、反応する間も無く、首を切断されて絶命する。
他2人が驚いているいる内に、至近に到達していた俺は1人を殴って気絶させ、驚いている間に、最後の1人の背後に回り、首を絞めて落とす。
2人の兵士を、またしても殺めてしまった・・・・・・。
それからすぐに、外から気配を探ってみると、奥の部屋に2人の人間がいて、身長と体型から、1人はヨールド、もう1人は女だと分かる。
・・・・・・が、何だ?それだけじゃないような気がする。
ともあれ、俺は扉のノブに手を掛けるが、鍵が掛かっている。急いで鍵を開けて、室内に滑り込む。
すると案の定、奥の部屋から女性の悲鳴が聞こえる。
奥の部屋を覗くと、ヨールドが全裸で、ベッドにうつぶせに寝かせられた女性の上に乗っかり、その背中を鉤爪のような器具で幾筋もの傷を刻んでいるところだった。
女性の背からは血が滴り、悲鳴を上げている。
ベッドの脇には、背中を滅多突きにされた女性の遺体が、無造作に置かれていた。
こいつらは本当に狂ってやがる!心底クズだ!
醜悪な行為に夢中になっていて、俺に気付かないヨールドに近寄り、まずは一発殴りつける。
「ぎゃっっ!!」
仮にも軍のトップである総帥にまで行った奴なら、これくらいでは死なないだろうと、思いっきり殴りつけてやったが、その一発で呆気なく気を失う。
「チクショウ。いくつか文句言ってから気絶させようと思ってたのに」
ヨールドに向かって俺は吐き捨てるように言う。
ベッドの女性は、突然現れた俺に、小さく悲鳴を上げるが、ヨールドよりも最悪な者などいないと、すぐに静かになって、胸元を隠しながら俺を見つめる。
いくら俺でも、こうした女性を見て興奮なんかしない。これはマジだ。
「背中を見せて下さい」
俺が言うと、女性は素直に背中の傷を見せる。酷いな。一部骨まで見えている。
取り敢えず、回復ポーションを飲ませる。これで多少はマシになるだろう。
「しかし、どうしようか・・・・・・」
これから、ヨールドを人質に、立て籠もるのに良い部屋まで行って、籠城するつもりだったが、このままこの人を置いていったら、多分この人は殺されてしまう。少なくとも、誰かに怪我を治療して貰わないと、この怪我だといずれ死んでしまう。
出来れば、最上階の一番奥の部屋まで行く予定だった。
せめて、この階の奥の部屋に向かいたい。
「これから俺は、この男を人質に立て籠もります。仲間が間に合えば助かりますが、失敗したら殺されます。それを知った上で、ご自分で判断して下さい。俺と一緒に行動しますか?」
俺は女性に語りかける。俺はこの人の命に責任が持てない。助けてあげたくても、力及ばなければ、結局この人を助ける事は出来ない。
だから、状況を説明した上で、判断を本人に委ねる。
女性は、すぐに小さく頷いた。
素性も知れない男の賭けに、無条件で飛びつくほど、この女性は現状に絶望していたのだ。
「分かりました。服を持って一緒に来て下さい。歩けますか?」
女性は、苦痛に呻きながらも、必死に立ち上がると、乱暴に破られた服を胸にかき抱いて、俺に従う。血の気が無く、今にも倒れてしまいそうだ。
俺は、縛り上げて猿ぐつわを咬ましたヨールドを、左肩に担ぐ。
そして、すぐに部屋を出る。
下の階の警備に力を入れている為、3階までになると、配置されている兵は少ないので、まだ異常に気付かれていないが、巡回があれば、すぐに気付かれる。
右手に竜牙剣を持ったまま、俺は廊下を進む。
最奥の部屋にまでは、無事に辿り着けた。
しかし、そこで巡回に見つかる。
「おい!貴様!!」
兵士が3人駈け寄ってくる。
俺は急いでドアを開けると、女性を先に中に入れる。
そして、肩に担いだヨールドを床に落とすと、その胸に足を乗せて、のど元には剣を突きつける。
「ここにいるのはヨールド総帥閣下だ!!こいつの命が惜しければ、それ以上近付くな!!」
兵士たちの足が止まる。
床に落とされたヨールドも、その衝撃で意識を取り戻したが、思っても見なかった我が身の状況に、目を白黒させている。
「まず、俺が要求するのは、ここに大統領補佐官とやらを連れてこい!ウルトもだ!!」
フードを用心深く被り直しながら、室内の女性の様子を窺う。かなり具合が悪そうだ。
「急げよ!!」
俺が剣を少し進めると、兵士の内2人が慌てて走り去る。
足元の、それこそブタみたいな男は、真っ青になり脂汗をかいている。
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