ギルド戦争  正義の意味 7

「・・・・・・さあ。ボクらも行こうか」

 カシムが去ってしばらくしてから、ピレアが立ち上がった。

「行くって・・・・・・どうするの?」

 リンクが尋ねる。

「うん。そうだね。まずはちょっと誤魔化さなきゃだから、ボクとリンクで大統領補佐官に会いに行こうか」

「え?じゃあ、私たちは?」

「リメルはアリシアにおんぶされて、玄関先で寝てて。リイもリメルの側にいて」

「ああ。私、損な役割な気がする」

 リメルが額を押さえる。

「寝てて良いんだから楽じゃん。あたしは重い物持ってなきゃなんだからさ」

 アリシアがケラケラ笑う。

「重いって、失礼ね!!」

 リメルが小声で怒鳴るので、ピレアたちもクスクス笑う。




 ピレアとリンクは、玄関から館に入り、右往左往する兵士を捕まえて、大統領補佐官の部屋に案内される。

「おお。正義の翼のお嬢様たちではないですか?賊は発見できましたかな?」

 ミーンが揉み手をしながら、小刻みに首を動かしながら問いかける。

「いやあ!全然駄目でした!ごめんなさい!」

 悪びれずに頭を掻くピレアに、ミーンの動きが止まる。

「は?」

「いや。だって言われたの夜だったでしょ?ボクたちも寝る前だったんだよ。だから、物探しが得意なリメルが、もうベロベロに酔っ払っちゃってて・・・・・・。大統領の役に立ちたかったから、無理して連れてきたけど、さっぱりだったんです!」

「本当にごめんなさいねぇ。今は仲間の背中の上でおねんねなの。今度埋め合わせさせて貰うからぁ」

 リンクが色気たっぷりな口調と仕草でミーンを見てウインクする。

 ミーンはリンクのかなり露出された胸元を見つめて唾を飲み込む。


「あ、ああ。まあ、そうでしょうとも。確かに私どもも、かなり急なお願いをしてしまい、そちらの都合も考えずに申し訳なかったですな」

 ミーンが取り繕うように、咳払いをしてから言う。

「いやいや!大統領の役に立てないままじゃ、ボクら正義の翼の名折れだよ!明日になったらリメルの酔いも覚めるから、改めて賊退治をさせてくれるかな?」

 ピレアが、熱い口調でミーンに詰め寄る。

「ええ。またお願いしますよ。何、心配いりません。館は完全に包囲されていますから、賊も逃げられません。魔法部隊が、館を囲むように追跡アラームを仕掛けているから、地下通路があっても逃れられません」


 追跡アラームは、網に掛かると、魔法使いに位置が分かるようになる魔法だ。多分この場合は、個人を特定されているので、髪の毛か、何か身に付けていた物でも取られているのだろう。

「じゃあ、今日はお休みなさい!!明日、また来ますね!!」

 ピレアが元気に言うと、リンクが意味ありげな流し目をミーンに送りながら退室する。

 退室するリンクを熱い目で追いながら、扉が閉まると、ミーンは服の襟を開いてから酒を飲む。



 館の玄関に戻ると、ピレアたちは何食わぬ顔で館の門に向かい、門から堂々と出て行った。


 そして、宿に戻ると、順番に風呂に入り、布団に入って寝た。その間。普通のおしゃべりをしていたし、リメルはずっと酔った振りをしていた。



 だが、朝になると、ピレアの姿がいつの間にかいなくなっていた。

「ピレアは?」

「まだ寝てるよ!昨日は遅かったから、いつもよりもねぼすけなんだよ!リメルは?」

「二日酔いが酷くってまだ寝てるわ」

「2人とも困ったね。じゃあ、ミーンさんの所に行くのは昼過ぎになっちゃうね」

 リンクとアリシアは、何事も無かったかのように会話をして朝食を食べている。


 ピレアは、その頃、数千キロ離れた、グラーダ国の工業都市ザメルにいた。どうやってかは不明だが、確かにそこにいて、小さな鍛冶工房の前に立っていた。

 鍛冶工房の屋号は「ムンク」である。

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