ギルド戦争  正義の意味 6

「取り敢えず隠れよう」

 逃げ場がないので、隠し通路の出口を探すが、外からだと全く分からないので、無明で探る。

 軽く飛び上がれば充分手が届きそうだ。

 俺が、先に通路に入って、中から手を伸ばし、次々正義の翼メンバーを引き上げていく。

 そして、少し先に進んだ辺りで腰を降ろす。

 すぐにリイが、俺の腕の傷を治してくれた。

 

 ピレアとの戦いに、リンクさんとリイが消極的で助かった。リンクさんは攻撃系魔法使いだからな。


「一応言っておくが、俺は伝染病で死んだ事にして殺すつもりだったようだ。多分そのシナリオはまだ生きている。だから、俺を発見した事がヨールドに知られたら、君たちも口封じの為に殺される。その為に屋敷を1万以上の軍隊で包囲している」

 俺が告げると、みんな驚いた表情をしている。

「ピレア。信じるかどうかは君に任せるが、ヨールドは自分が絶対権力を手に入れる為に、北バルタを焦土と化すつもりだ。そして、その事を『悪』だと思っていない。奴にとって、いや、人間至上主義者にとっては、自分の中の『正義』を否定する奴は全て『悪』なんだ。お前の『正義』は奴ら人間至上主義者と同じ物なのか?」

 「人間至上主義」の言葉に、リンクさんとリメルさんが嫌悪感を露わにする。一方で、ピレアは初耳らしく、キョトンとしていたが、強い視線で俺を見てきっぱり告げる。

「違う!ボクの『正義』は、みんなの笑顔の中にある!!」

「『みんな』とは?人間だけか?エルフやドワーフ、特化人スピニアンもか?」

「ボクはハーフエルフだ!『みんな』と言えば『みんな』だ!ボクの姉は特別なエルフだった!そして、魔神と恋をしていた。だから、魔神だってボクの中の『みんな』だ!」

 俺は頷く。

「俺は『正義』じゃない。冒険者で騎士だ。だから、敵なら殺す事も辞さない。・・・・・・俺は俺の戦いをする。ピレアたちはピレアたちの『正義』の為に、今、何をするべきなのか考えてくれ」

 俺は、迷路の奥に進みながら声を掛ける。

「よく見て、考えて、悩んで、聞いて。そして、決断したらすぐに行動するんだ」

 そう言い残すと、俺はマントを展開して闇に溶け込む。

「カシム君、消えちゃった・・・・・・」

 アリシアの呆然とした声が聞こえた。




 偉そうな事を言ったが、俺に残された手はあまりない。 

 だから、俺は一般的には「悪」となる。


 俺の通ってきた隠し通路の入り口は、すでに見つかっているだろう。だから、出口に来るまでに見つけていた他の入り口に向かう。

 ここでも、「無明の行」で培ったダンジョンマッピングのスキルが役に立つ。通った道は、完璧に立体でイメージできる。目をつぶって走っても問題ない位だ。


 すぐに目的の場所にたどり着いた。

 道は行き止まりになっているが、ここの壁際の床だけ、他の場所より、ほこりの貯まり具合が少ないので、過去に隠し扉が作動した証拠だ。


 ポーチの中の考古学者セットのハケで、周囲の壁に積もったほこりや砂を払う。

 ・・・・・・あった。

 石壁に、よく見なければ分からない目印の付いた、石のブロック。

 竜騎士探索行が始まって、始めてハケが役立った!!

 そのブロックを押す前に、無明で外の気配を探る。流石に壁が分厚く、正確には分からない。無明も、もっと訓練しないといけないな。

 ともあれ、外側には人はいなさそうだ。どこに繋がっているのかは分からないが、とにかく石を押してみよう。



 ゴゴゴゴゴ。


 小さいが低い音がして、行き止まりの壁が動いた。

 

 隠し通路をくぐると、どこかの寝室だ。暖炉が有り、窓もある。暖炉の上には石造りの動物の人形がいくつか並んでいるが、リスの人形だけが不自然に傾いていた。

 俺がリスの人形を直すと、壁が動いて戻り、大きな姿見として、違和感なく部屋の一部となる。

 俺が向かうべき場所は、屋外ではない。

 マントとフードの力を借りて、この館を探索する必要があるのだ。





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