ギルド戦争 正義の意味 3
「何だと?!ペンダートンの小僧が逃げ出しただと?!」
報告を受けて、ヨールドが怒鳴る。
「何をやっておるんだ、バカ共が!!」
ヨールドは報告を受けた時には、北バルタから連れてきていた貴族の女を抱いていた。
女の体中には、痛々しい暴力の跡が残っている。
腹立たしさもあって、ヨールドは女の背中に短剣を突き刺す。
「ぎゃあああっ!!」
女が叫んで息絶えると同時に、ヨールドも身震いする。
そして、女から離れると、部下の兵士に怒鳴る。
「良いか!絶対にこの敷地内から逃がすな!!」
そして、ガウンをまとって、血の臭いが立ちこめる寝室から足早に出る。
同様の悪趣味なお楽しみをしていたウタトは、ペットと化した少年を寝室に待たせたまま、装備を調えながら臨時の執務室にやってくる。
「お待たせしました総帥閣下」
ウタトが参上するや、ヨールドが怒鳴る。
「いったい、貴様の部下は何をやっておる!?」
いきなり怒鳴られて、ウタトも慌てる。
「申し訳ありません。しかし、屋敷の敷地から出る事は叶いません。今、この敷地を包囲しているのは約1万の兵士たちです。魔法使いも50名ほどいます。決して取り逃がしはしません」
「手ぬるい!!万が一にも逃げられて、北バルタの事を吹聴されては困る!それに、奴が病死するシナリオにも支障を来してしまうでは無いか!!」
言われて、ウタトには言葉が無い。
しかし、先に来ていた大統領補佐官、ミーンが口を挟む。
「いや。それならば、もう一つ別のシナリオを用意すれば良いのです。それと、うってつけの冒険者をすでに取り込んでおりますから、彼女たちを捕縛に向かわせましょう」
ミーンは首を小刻みに振りながらそう言うと、張り付いたようなにんまり笑顔をヨールドに向ける。
「冒険者?それは大丈夫なのか?」
ヨールドは、部外者である冒険者がカシムに接触する事を恐れている。
「問題ありません。要はペンダートンを発見すれば良いのです。隠れた物を発見するのは、冒険者の方が得意。後の生殺与奪はこちらの手にあります」
つまり、その冒険者共々、カシムを殺害するつもりのようだ。
「その冒険者は?」
ヨールドが尋ねる。
「彼女たちは、聖バルタ共和国の『自由』と『平等』の精神、そして、南バルタへの閣下の慈悲深い施しを見て、その理念に深く賛同している者たちで、幸いにも、この館の近くに滞在させています」
ミーンは、何かあったらその冒険者の手を借りるつもりで、近くに置いておいたようだ。
「彼女たちの冒険者パーティーは『正義の翼』です」
◇ ◇
通路は、本当に迷路のようになっていて、何度も分かれ道に行き当たったり、突き当たったりした。
正解の道がわからなければ、最悪ここでのたれ死にも有るのかも知れない。というのは大げさだが、結構複雑な作りにはなっている。追っ手から逃げる時間を稼ぐためだろう。
この館の主は、よほどの権力者か、やましいところがあったに違いない。
地下の迷路に迷っている間に時間は過ぎて、夜明けも近くなってきた頃だ。
風を感じる。草の匂いがする。
「外が近い」
呟いて、俺は足を速めた。
出口は唐突に現れた。
通路が曲がった瞬間、堀の壁面に出た。
突然すぎて、俺は勢い余って堀に落ちる。
「くうっ!!」
着地点を見ると、下は普通の地面だった。高さもそれほど無く、無事に着地する事が出来た。
俺はすぐに身を隠せる場所を探すと、茂みが沢山有ったので、その下に潜り込む。
それにしても、俺が落ちてきた隠し通路の出口は、外から見ても全くわからない。恐らく魔法道具が仕掛けられているのだろう。
そして、今いる場所は、館の裏側だ。
残念ながら敷地は出ていないようで、敷地の壁はまだ遠い。
その分、壁の外側を兵士たちが埋め尽くしているようだが、ここには、今は兵士の気配は無い。
だが、一応「無明」全開にして、周囲を詳細に探索する。
「シャイン・ディセッション!!!」
聞き覚えのある声と、聞き覚えのある技名だ!
俺はすぐさま竜牙剣を抜くと、無明で察知した気配の方に剣を構える。
光の刃が飛んできて、俺の隠れた茂みを切り裂く。
光の刃は、俺に当たる前に、竜牙剣に切断されて、俺の横を通り過ぎていった。
「ピレアか!?」
俺は驚く。
緊急クエストの時に、一緒に魔物と戦った、「正義の翼」のリーダー、ピレアの声と技に間違いない。
しかし、なぜピレアがここにいて、俺を攻撃してくるんだ?
「見下げ果てたよ、カシム!君が犯罪者になるとはね!」
声高にそう告げるのは、間違いなくピレアだった。
鎧の左側には羽のような装飾装甲が付いていて、マントにミニスカート。スカートの下には普通に長ズボンをはいている、独特なスタイル。
さっぱりした口調に、きっぱりした態度。
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