ギルド戦争 正義の意味 2
俺は上官の男の腰から、鍵束を取って、テーブルの上の木箱の鍵を探す。
何度か試して、鍵が開き、俺は装備品を取り戻す事が出来た。針金で鍵を外した方が遥かに早かった気がする・・・・・・。
装備品を装着しながら、ポーチから携帯食と水を取り出して、飢えと渇きを満たす。
そして、竜牙剣を抜き放ち、静かに階段を上がろうとした時である。
ピイイイイイイイイイイ!!
背後からけたたましい警笛が鳴る。
振り返ると、上官だった男が、倒れたまま笛を吹き鳴らしていた。
俺はすかさず首元に膝をたたき込んで、確実に首の骨を折る。
話を聞いたせいで、無意識に手心を加えてしまった。それだけに、余計苦痛を与えてしまった事になる。
それよりも、警笛は確実に他の兵士にも聞かれたはずだ。
相変わらず俺は甘いな。
俺が急いで階段を駆け上がったところで、すでに十数人の兵士たちが集まっていた。更にその奥からも次々やってくる。
「脱走だ!!囚人が脱走したぞ!」
「出口を固めろ!決して館から外に出すな!!」
誰が囚人だ?!
そう思いつつ、兵士に向かって剣を構える。
兵士たちは遠巻きに取り囲んで槍を突きつけてくる。他の兵士が集まるのと、館を包囲網で囲むまでの時間を稼ぐようだな。あとは、誰が最初に突きかかるか、互いに牽制し合っているお見合い状態なのだろう。時間が掛かればそれだけ脱出が難しくなる。
「ヒュッ!!」
鋭い呼気と共に、俺は目の前の兵士に斬りかかる。槍の穂先を剣の腹でたたき落としてからの胴一閃だ。
鎧ごと兵士を両断する。
「ぐはっっっ??!!」
切られた兵士は、何が起こったのか理解できないまま、床に倒れ伏す。
「ヒュウッ!!」
続けて、その隣の兵士を袈裟斬りにする。
「ぬあああっっ!!」
これも鎧ごと綺麗に切断する。
「な、なんて奴だ!?」
その攻撃に、兵士たちが怯み、誰も俺に攻撃して来ない。
その間に俺は一気に包囲を駆け抜けて、兵士の来ない通路に飛び込んで行った。
牢からは脱出したが、俺はこの屋敷の規模を知らない。
当然間取りなんて分かるはずも無いし、敷地の広さも知らない。
ついでに言うと、クルセイユの都自体の地理にも不案内だ。
逃げるとなると不利になる。
取り敢えず、窓があったら突き破って外に出よう。そこから先の事は、またその時に考えれば良い。
窓の無い廊下を走ると、角からまたしても兵士が飛び出してくる。
俺に向かって矢が放たれるが、それを躱して兵士に接近する。
そして、武器を弓から持ち変える前に3人の兵士を切り倒す。腕を切り、足を切る。戦闘に参加できない様に傷つける。
そして、兵士が出て来た方に角を曲がった。
そこは巨大なホールだった。
「うお!?これはまずい!」
俺は慌てて来た道を駆け戻る。
ホールには大量の兵士たちが詰めかけて来ていた。
幸いにも俺には気付かれなかったが、数人の兵士がこっちに向かって来るようだ。
しかし、この館、城と言っても良い位に大きい建物だぞ。となると、敷地も広いに違いない。
前からも兵士の気配がする。
俺は、通路の脇にある扉に手を伸ばすが、鍵が掛かっている。
こうなれば秘技鍵開けだ。
秒で鍵を開けて、室内に滑り込み、中から鍵を掛ける。
倒した兵士の死体が転がっているので、通路の脇の部屋はしらみつぶしに調べられるだろうから、ここに隠れていても無駄だ。
「さて、どうしよう」
そうして、改めて室内を見回す。
窓が無いので真っ暗だ。俺はポーチからカンテラを取り出して、灯りを点けた。まあ、窓があったところで、今は真夜中だけどな。
部屋はどうやらかなり豪華な書斎のようだ。個人用の書斎らしく、大きなテーブルに、革の豪華なイスが一揃え有り、壁には天井までの本棚があり、本がビッシリ並んでいる。
どの本も、貴重な革装丁の本だ。
無明を全開にすると、通路の両側から、兵士がジワリジワリと近づいてきている。人数は30名以上だな。
「あれだな。こういう部屋を見ると、さも有りそうだよな・・・・・・」
俺は、しばらく本棚に並ぶ本を眺める。
「パターンからいくと、これかな?」
そう言いながら、一冊の本を引っ張り出すと、強い抵抗感があり、「コトッ」と音がする。それがスイッチになっていて、本棚が壁の中に引き込まれる。
三冊シリーズの本が有り、真ん中の一冊だけ、上下が逆さまになっていたから、それが隠し通路へのスイッチだとわかった。
「安直だな・・・・・・」
本来は、素早く発見できた事を喜ぶべき場面なのに、俺はこうした謎解きが簡単すぎて、逆に興ざめに感じてしまった。
壁に引き込まれた本棚の下には、地下に通じる階段が隠されていた。
俺は本棚の本を戻すと、すぐに階段を降りる。
階段を降りきった辺りで、本棚がスライドして、元の位置に戻った。
「取り敢えず時間は稼げそうだ。・・・・・・しかし、この通路はどこにつながっているんだ?」
通路を照らすと、道は1つでは無い。
階段を降りた時点で、左右に分かれている。
ダンジョンのように石組みで作られた地下通路は、細く、すぐに角が有り先が見通せない。
現在地と、間取りがわかれば、コンパスを使って脱出路の見当も付きそうなのだが、このままでは全くの勘で進む事になりそうだ。
俺は静かに、注意を払いつつ、ゆっくりと地面に手を付いて、床石に顔を近づける。
そのまましばらく静止して、俺が動いた事によって起こった空気の流れが納まるのを待つ。
そして、対流が納まったら、床に息を吹きかけた。
ブワッと埃が舞い上がる。
俺はカンテラの明かりで、埃が舞う様を眺める。
俺の吹き出した息と、カンテラの熱で起こる空気の流れから外れた埃の動きに注目する。
すると、微かにだが、片方の道に向かって埃が流れたような気がした。
「何も判断材料が無いよりはマシだな」
そう呟いて、埃が流れた方へ歩き出した。
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