ギルド戦争  正義の意味 1

 さて、俺の処刑は明日か。

 随分と丁寧にストーリーを用意してくれたじゃないか・・・・・・。 無理があろうが無かろうが、自分たちの描いた通りに物事が進むと思ってるな。

 だから想像力が足りないんだよ。


「なあ、あんたらは今の話を聞いて、やはり同じ意見なのか?」

 牢の見張りは、さっき食事を運んできた兵士と、その上官だ。

 2人ともゆだんなく槍を手に俺を監視している。

 だが、俺の問いかけに、上官の兵士が表情を歪ませる。

「500万人を皆殺しにする事に賛同しているのか?女や子どももいるのにだ。あんたらにも家族はいるだろう?」

 俺が言葉を重ねると、上官の兵士がついに言葉を発する。

「俺の家族は南バルタにいる」

 その言葉に俺はカッとなる。

「自分の家族さえ無事なら、他はどうなっても良いのか?!」

「良い訳がない!!だが逆らえない!俺は末端の一兵士だし、逆らえば家族も北バルタに送られてしまう」

 ・・・・・・脅されているのか。

「でも、兵士の中にも北バルタ出身の者も少なくないだろう?」

 全ての兵士が南バルタ出身な訳では無いだろう。北バルタ出身の兵士なら、命がけで抵抗するはずだ。

「北バルタ出身の兵士たちは、すでにほとんどが粛正されている。生きているのは、第一軍団と共に姿を消した奴らだ」

 そう言えば言っていたな。第一軍団の大将軍が離反したと。北バルタに潜伏しているそうだが・・・・・・。


 続けて俺は、もう1人の兵士に目を向ける。

 すると、目を泳がせつつ小さな声で告白する。

「私は、ただ恐ろしくて何も出来なかった・・・・・・」

 上官が先に告白したので、自らも告白する気になったのだろう。

「逆らっても、不服従でも、失敗しても、多分殺されてしまう。私の同期も何人も殺された」


 これだよ。

 何が「自由」と「平等」だ?

 何が選ばれて大統領になっただ?

 軍事力で人を脅して支配して、一方ではいい顔をする。

 それに北バルタから略奪した物がなくなった後の事を考えているのか?ただばらまいて、一時の人気を取ってどうする。

 あのヨールドが独裁者になろうとしているのは見え見えだ。

 独裁権力を手に入れた後は、民衆が気付いた時には、重い税金を課せられて、現状より更に酷い事になるに違いない。

 歴史を勉強しろ!

 これまでの歴史でも、ヨールドのような奴はいた。

 民衆の支持を受けて代表者となり、そこから自己の権力を増大させ、軍事なり、民衆の支持なりを背景に、絶対君主や皇帝になり、その後悪逆を尽くす奴だ。


 

 共和制が悪い訳では無い。王政も、良い面、悪い面がある。要はそれを用いる人と、その為の法整備なんだ。

 王政ならば、国王となる人物を、血統の中から選ぶとしても、まずそれに見合う能力に育て上げねばならないし、幼い時から、奢らない人格の育成が大切だ。

 共和制であるならば、選択するのは国民という事になるから、国民全員が政治について語れるように教育する事が大切だ。

 それが、バランス良く上手く出来ないからこそ、名君の出現も、偉大な政治家の出現も希なんだ。


 

 まあ、それは良い。それよりも、今は現状をどうするかだ。

 俺は後ろ手に枷をはめられていて、牢に押し込められている。

 監視は2人。


「なあ。俺を出してはくれないか?そうすれば、現状を何とか出来ると思うんだ」

 俺は提案してみる。だが、2人ともそれには首を縦に振らない。

「それは出来ない。任務に失敗すれば、俺だけじゃ無い。家族にまで累が及ぶ」

 それはそうだ。気の毒ではある。だが仕方が無い。

「じゃあ、あんたらは俺の敵になったと言う事で良いんだよな?」

 最終確認だ。

「元より」

 兵士の答えに、俺は小さく呟く。

「・・・・・・そうか。残念だ」

 


 俺はため息を付くと、その場に座り込んだ。

 寒がる俺の為にブーツを差し入れてくれてありがとう。だが、考古学者のブーツを甘く見るなよ。

 俺のブーツには針金が仕込まれている。縫い目の間に忍ばせている針金だ。

 それを手探りで抜くと、指先の感覚で手かせの鍵穴に差し込み、軽くひねる。

 それだけでこんな鍵は簡単に開けられる。

 考古学者の基礎的なスキルだ。

 嘘だ。

 世界中の考古学者さん、ごめんなさい。誤解を与えるような事を言ってしまいました。

 ともかく、俺は考古学者とか、軽戦士とか、ましてや騎士とかよりも、何だか盗賊としてのスキルばかり多く持っている気がする。一応、祖父に教わったんだけどな。


 手かせが外れている事を隠したまま、俺は立って牢の入り口に近づくと、おもむろに自由になった手で牢の鍵穴に針金を突っ込む。

 驚く2人が反応する前に鍵を外す。

 槍が突き込まれたが、その穂先を掴んで引き寄せて、兵士を鉄柵に激突させると、柵の間から手を出して、首を折る。


 その上官の兵士が警笛を吹こうとした時には、牢から飛び出して、手刀でのどを一突きし、後ろに回り込んで首を絞め落とす。

「悪く思うなよ。これはもう戦争だ」

 多少の同情心はあったが、これは彼ら自身が選択した事だ。他者の命を多数犠牲にする事に荷担したのは間違いないのだから。

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