ギルド戦争 聖バルタ共和国 5
翌日。俺は再び檻に閉じ込められて護送される。
口枷をされて入るが、今日は布は掛けられていない。
食事はパン一個だけだ。
だが、俺は昨日から、奴らから与えられている物は、一口も口にしていない。
「毒なんか入ってないぞ」
食事を運んできた兵士が笑いながら言う。
そんな事は分かってる。毒なんて使わなくても殺す手段はいくらでもあるし、殺すつもりならわざわざ護送なんてしない。
ただ、奴らの食事は口にしたくないのだ。
なぁに。食事は30日くらいなら食べなくても生きていける。
そこまでではないが、「無明の行」で、俺は飢えも乾きも経験しているから、現状はそこまできつくない。
パンを足の指で掴んで、檻からそっと差し出す。
するとそれに気付いた荷車を引く人が、目の色を変えてパンをつかみ取り、口に入れる。そして、他の物も気付いて小さなパンを奪い合う。
クソ。こんな行為だけじゃ、彼らをちっとも救えない。逆に彼らを苦しめる事になってしまう。
護送中はトイレもいけず、垂れ流しするしか無い。
ただ、水は無いとダメだ。3日水を飲まないと、命に関わる。
翌日、朝から曇っていた空から雨が降る。
渇ききっていた民衆が、必死に口を開けて雨水を飲む。
俺も口を開けて雨水を飲み、檻に付いた水滴もなめて乾きを癒やした。
民衆は休憩になると、地面に出来た泥だらけの水たまりを飲み、中には水たまりで溺死する者までいた。
雨は恵みを与えてくれるだけでは無く、体温も奪っていく。 次々に人が倒れていく。
俺も体が冷えて堪らない。とにかく寒い。風が吹くと、それだけで一気に冷えて、歯の根が止まらなくなる。
低体温症による、意識の混濁が現れ始めた辺りで、俺たちはクブン関に到着した。
俺も、人々も、ひとまずは建物の中に入れてホッとする。
クブン関は、南からの攻めに対する防御要塞なので、北バルタ方面には、兵舎等の巨大な建物が多く有り、全員が建物の中で一息付けた。
逆に兵士たちは忙しそうに、これまで民衆が運んでいた荷車を、自分たちが乗ってきていた馬に繋ぐ。
「おい!何で馬に繋いでいるんだ?」
檻の中から作業している兵士に声を掛ける。
「南バルタからは、我々が荷を運ぶからだ」
兵士が答える。と言うか、答えてくれるんだ・・・・・・。「うるさい」「黙れ」とか言われるかと思った。
「じゃあ、あの人たちは、もう解放されるのか?」
床にへたり込んでいる民衆を見ながら俺が問いかけると、兵士は首を傾げる。
「知らん。だが、これで用は終わった訳だからそうかも知れんな」
「解放するなら、もっと丁寧に扱ってやれば良かっただろう?!」
俺が言うと、兵士は呆れた表情で俺を見る。
「あいつらは国王派だぞ?豚と同じだ。なぜ丁寧に扱う?」
何を言っているんだ?ついでに言うと、豚だって丁寧に扱わなけりゃいけないのを知らないのか?
兵士の末端まで人間至上主義者か・・・・・・。とんでもない組織を作り上げたな。トップは何者だ?
翌日から、更に丸2日掛けて、多分クルセイユの都に着いた。
猿轡に、檻全体も目隠し、更に幌付きの荷馬車に乗せられていて、外の様子など全く見えないが、車輪がガラガラと石畳の上を走りだしたので、それと知れた。
また、異様な事に、兵士の列が通ると、周囲からは歓声が上がる事だ。
北バルタの惨状を知っているのか、知っていないのか、都の民衆から、この兵士たちは支持を受けている様だ。
クルセイユの都のとある館に俺は運ばれたらしい。大きな扉をくぐったところで、頭から被された布を取られる。
そのまま、地下に連行されて、地下牢に入れられる。
牢に入れられる前に、全身に水をぶっかけられる。
この2日間は食べ物も、飲み物も出されていないためか、その後、食事が運ばれてくる。
今度はパンだけでは無く、肉やスープもあった。だが、俺はここでも食事を拒んだ。
「おい。食事はいいから、服とブーツだけでも返してくれ。俺はグラーダ育ちだ。寒くて堪らん」
食事を運んできた兵士に言うと、牢を見張る上官に目配せする。
その上官が頷いたので、兵士は食事を床に置いて牢から出て、階段を上がり、大きな箱を持って降りてくる。
箱には鍵が付いていて、見張りの上官が、持っている鍵を外し、中から俺の上着とブーツと靴下を出して、兵士に渡す。
あの大きな箱の中に、俺の装備品も入っている訳か。
やはり、エルフの大森林の不気味なイメージから、誰も管理したがっていないようだ。以前までの俺であれば、兵士たち同様、そんな物には近寄りたくないと思うだろう。
兵士が服を持って牢に入ると、上官が牢に鍵を掛ける。
それから、兵士が手かせを外してくれたので、俺は上着を着て、靴下、ブーツを身につける。
残念ながら、ドラゴンのブローチは外されているので、マントは使えない。勿論、ポーチも回収できていない。
「助かったよ。ありがとう」
俺は兵士と上官に礼を言うと、大人しく手を後ろに回して、再び鍵で拘束される。
「食事はいいのか?」
礼を言われて気を良くしたのか、兵士が囁きかける。
「毒は入ってないぞ」
「ああ。親切だな。だけど結構だ。飢えた人たちを見たんだ。とても食欲は湧かない」
俺が答えると、その兵士は少し目を伏せる。
全員が全員、罪の意識を感じていない訳では無い。それでも、命令に従わなければならなくなるのが、軍の罪深さだ。
「わかった。では食事は下げさせて貰う」
そう言うと、食事の乗ったトレーを持って、牢から出て行った。
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