ギルド戦争  聖バルタ共和国 4

 檻に入れられたまま、俺は荷車の上で、この異常な行軍を眺めるほかなかった。

 荷車を引く人々は、鞭で打たれて、動けなくなると殺される。そして、荷車を引いてこなかった連行されているだけの誰かが交代要員として入る。

 そこには男女も年齢も関係ない。

 俺は何度ものどが裂けるほど叫び、奴らの行為を非難した。すると、猿轡をされて檻に布を掛けられてしまった。


 夜になると、行軍は町に入ったようだ。時間からすると、クブン関の北にある町、ヴェインだろう。

 そこで俺は、檻から出されて、町の牢に入れられる。

 その中で、縄から鉄製に鍵付きの手かせを付けられる。

 上着と、ブーツも取り上げられた。

「おい!取り上げるのは良いが、余計な事をしたりなくすなよ。俺の持ち物はハイエルフから貰った物や創世竜の物もある。俺以外が持ったら危険な代物だという事を覚えておけ」

 再び俺は脅す。

「わかっている。別に貴様の持ち物を盗もうとは思っていない。我々の安全のために、一応装備品を外させて貰っているだけだ」

 ウタトが牢の外から、ニヤニヤ笑って俺を見る。

「もう一つ忠告だ。俺には黒竜との契約で加護が掛けられている」

「ほほう。加護ねぇ。この様で加護と言われても、信憑性に欠ける気がするが?」

 鼻で笑って見下している。あいつらにとっては、創世竜は尊敬や畏敬の対象では無い。凶暴でコントロールがきかない大きなトカゲである。

「あいにくだが、俺と黒竜との誓約は、オレたち竜の団メンバーが、不当に自由を拘束されたら発動する。今の状況がそれだと思うんだが?」

 俺がそう言うと、さすがのウタトも一瞬焦りの表情が浮かぶ。畏れてはいないが、恐れてはいるようだ。

「・・・・・・それは誤解だ。貴様は軍の責任者に会いたいのだろう?だから、我々はその願いを叶えるために、貴様を安全に送り届けている最中だ。不当に自由を拘束している訳では無い」

 物は言い様だな。だが、俺も、どのような状況で黒竜との誓約が発動するのか全くわからない。

 こう言っちゃあ何だが、コッコは結構抜けているからな・・・・・・。そこが可愛いのだが。

「我々は貴様に暴行したか?拷問したか?食事も出しているし、荷車にも乗せている。この国家の緊急時に大変な待遇だ。貴様も飢えた国民の姿を見ただろう」

 ウタトがニヤニヤ笑いながら言う。

「国民が飢えているのはお前たちのせいだろうが!!運搬している食料を、なぜ与えない!人々になぜ水を与えない!お前たちは北バルタの住人を皆殺しにするつもりか?!」

 俺の言葉に、ウタトはさも悲しそうな顔をする。



「わがバルタ共和国は、国王の怠惰と、政治家の腐敗によって、他国より数段遅れた国になってしまった」

 ウタトが演説しだす。

「南バルタの人口は約800万人。一方で北バルタの人口は約500万人。北バルタは人口が少ないのに、国王を頂点としているのを良い事に、多数で決めた議会の意見に異を唱え、それが為に政策が決まらない。

 人々の生活が苦しくなるのは、国王がいるせいだ。バルタ国は自由で平等な共和国なのだ。なぜそこに国王などと言う物が必要なのか?!

 国王も、国王に与する民衆も、皆自由と、平等にとっては敵である。

 軍人にとって、敵である以上殲滅するのは必至。奴ら国王派は、もはや人間とは呼べぬ豚である。亜人である。

 それにだな。我々にとって正義とは、多数の幸福を守る事だ。800万人の多数を生かすために、500万の少数を犠牲にするのも、また正義なのだ」

 

 クソ!完全にいかれている。これが人間至上主義者だ。

 奴らは、人間種を絶対の上位種だと思っている。

 この場合の人間種とは、自分と同じ考えを持っている多数派の人間の事も指す。

 つまり、他種族はおろか、同じ人間種でも多数派以外の存在を認めないのだ。

 これほど極端な主張は珍しいが、人間至上主義者は、大なり小なり、このウタトと同じ思考に至る。

 地獄教徒より厄介な事は、奴らは自分たちこそが絶対に正しいと信じている事である。

 だから、異端を懲罰するのに心を痛める事は無い。


 そして、地獄教徒と違い、多数で、公で、法に則って人を殺せるようにするのである。過去にも、大量の虐殺や、残虐行為が人間至上主義者によって行われている。

 しかも、実行者は罰せられる事無く、生前は英雄としてもてはやされたりしていた歴史もある。

 こうした事はつい最近、グラーダ三世が特化人スピニアンや他種族にも人権を認めた事によって少なくなったが、かといって、根強く残ったこの思想は決して消えたりしない。


 また、どういうわけか、人間至上主義者は、創世竜やハイエルフでさえも下位種族と見なしているにもかかわらず、天界の神への信仰心がとても厚い。

 だから、神も人間至上主義者を擁護するそうだ。


 グラーダ三世は、これまで多くの暗殺を仕掛けられてきているが、その多くは人間至上主義者による物だった。

 奴らはグラーダ三世が人間種以外の人権を認めた事も、奴隷制度を廃止させた事も、神を道具のようにダンジョン作りや魔法開発のために働かせている事も気に入らない。

 神罰が当たって然るべき悪鬼だと認識している。



「ほんとに胸くそ悪いな、お前らは」

 俺が言うと、ウタトが牢の外から俺に向かって鍔を吐きかけた。

「口の利き方に気を付けろよ、小僧。ペンダートンだから助かるとか、甘い事を考えているんじゃ無いぞ?!」

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