ギルド戦争 聖バルタ共和国 3
ミルは唇を震わせながら、自分が目撃した事、カシムの言葉を伝えた。
「おい!それでお前はみすみすカシムを置いて逃げて来ちまったってのかよ?!」
ファーンがミルの肩を掴んで前後に揺らす。
「カシム君はどうなったの?!それも確認していないの?!」
リラもミルの行動を非難する。
だが、ミルは引きつりながらもニッコリ笑う。
「うん。だってお兄ちゃんは大丈夫だもん!!」
その言葉にファーンが怒鳴る。
「ミル!てめぇ、いつもその台詞だけで何とかなると思ってんじゃねぇぞ!!」
「そうよ!信じて何とかなるばかりじゃ無いのよ!最善の行動をした上で信じる事と、盲目的に信じて何もしない事は同じじゃ無いのよ!」
2人に詰め寄られる小さな少女だったは、目に涙を溜めるも、それでもニッコリ笑う。
「2人とも、よく聞いてよ。お兄ちゃんは絶対すぐに帰ってくるの!いなくなったりは絶対しないんだよ!今までもそうだったし、これからもそうなんだよ!絶対に、絶対にお兄ちゃんはみんなの所に帰ってくるんだよ!!」
強く主張するが、ファーンもリラも、ミルがなぜこうも楽観的な事を主張するのか理解できなかった。
2人が理解できたのは、3人が言い合っている後ろから震える声がした時だった。
「に、兄様は・・・・・・消えたりしないんですよね?」
アールの声だった。
その声に、2人はようやくミルの態度に納得して、自分たちの取り乱し様を恥じた。
「あ、ああ。そうだな。悪かった、ミル。お前の言う通り、カシムはすぐに帰って来るんだったな」
「そ、そうよね。カシム君だもの・・・・・・」
そして、2人は小さなミルの勇気と強さと思いやりに、畏敬の念すら覚えた。
本当は10歳にも満たない精神年齢の、弱い心の少女なのに・・・・・・。
本当は自分が一番辛くて泣き叫びたいのに・・・・・・。
それなのに、カシムがいなくなるのを、誰よりも恐怖に思って常に苦しんでいるアールの事を気遣って、平気なフリをして見せたのだ。
「クソ!マジでオレ、ダセェぜ!」
ファーンは、すでに腫れ上がっている自分の頬を殴る。
リラも、自分の頬をパンパンと叩く。
「ファーンに偉そうな事言えないわね。ミル、ごめんね」
2人が謝る。
「アールさん。あたしはカシムさんの事、あまり知りませんけど、いい人で、強い人だという事は確かです。だから、心配しないでも大丈夫ですよ」
エレナもエレナなりに、アールを気遣う。
それでも、アールは真っ青で、目の焦点も合わず、唇も震えている。
「アール!お兄ちゃんを信じて!ミルもお兄ちゃんを信じてる!だから、アールとミルとで、どっちがお兄ちゃんを信じているのかの勝負をしようよ!!」
ミルがアールの手をギュッと握って話しかけると、アールの焦点がようやくミルの目と合った。
「しょ、勝負、ですか?」
「そうだよ!勝った方が、お兄ちゃんと一緒にお風呂入れるの!!」
「え?お風呂に一緒に入るのは・・・・・・」
アールが真っ赤になって戸惑う。ミルのペースになって、少し平静を取り戻せた様だ。
「え?でも兄妹でお風呂入るのって、そんなにおかしい事じゃないでしょ?」
『それは、子どもの頃は、って話だ』
他の全員が思ったが、口には出さない。
「そ、そうなんでしょうか?」
戸惑いつつも、アールの「兄妹」に関する常識が揺らぐ。
「そうだよ!!だから、勝負!!」
ミルが強引に押し切る。
「わ、分かりました。勝負です」
いずれにせよ、ミルの判断と機転によって、パーティーは様々な危機的状況から脱する事が出来た。
「それで、カシムはオレに判断を託したんだな?!」
ファーンたちは、国境沿いで身動きが出来ない兵士たちを尻目に、フォーシー山を下山していた。
カシムがいない状況では、紫七輪山に向かう意味など無いからである。
「うん。お兄ちゃんはファーンを信頼しているし、ミルたちも同じだよ」
言われても、ファーンは喜ぶ事無く、真剣に考えを巡らせる。
ファーンの頬の晴れも、ミルの擦り傷も、リラによって治して貰っている。
リラも、ミルに取った態度を恥じて、ファーンの頬を自ら治したのだ。
「とにかく最寄りのギルドがある町、ウィネスに戻るぞ!」
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