ギルド戦争  聖バルタ共和国 2

「それで、ペンダートンが何の用だ?現在北バルタは疫病流行のために完全封鎖中であるはずだが?!」

 男の問いに、俺は問いを重ねて帰す。

「失礼ながら将軍のお名前は?」

 男は、明らかに不快そうに鼻を鳴らしながら答える。

「私はバルタ共和国、第4軍団団長、ウタト・エイミール将軍である!さあ、名乗ったぞ?貴様の用を聞いてやるから、とっとと話せ!」

 いけ好かない奴だ。豪華な鎧に装飾の入った剣。馬上から人を見下ろして、さも当然と言うかのように振る舞う様。ペンダートンは、こんな男に見下される家じゃないぞ!


「ウタト将軍。確かに疫病とは聞いていますが、これはどういう事でしょうか?この荷を引く人たちは、バルタ国の民衆ではないですか?飢えているようにこそ見え、疫病にかかっているようには見えません。ましてや、疫病にかかっているのなら、荷を引かせるのもおかしな話!説明をお願いします!」

 俺が言うと、ウタトが、吐き捨てるように呟く。

「英雄気取りの若僧が・・・・・・」

 そして、部下に合図を送る。俺を取り囲む兵士たちなど、俺の敵では無い。無論、ウタトもだ。どう考えても魔神の方が強い。

 だが、彼らは下衆な笑いを浮かべて俺を見ている。

「まあ、確かに不審がられてもしょうがないでしょうなぁ。しかし、彼らは人では無い!」

「はあ?!」

 ウタトの発言に、俺は嫌な気配を感じる。

「奴らは国王派だ。国王派は世に邪悪と怠惰をもたらす悪である。怠惰な豚でしか無い!」

 

 俺に戦慄が走る。

 こいつら!「人間至上主義者」だ!!

 ある意味、地獄教徒よりも厄介な思想の連中だ。


 俺が腰の剣を抜くと、ウタトがニヤニヤ笑う。

「おいおい、英雄さん!抵抗しても良いが、そうすると、彼らがどうなるかな?」

 俺を取り囲む兵士の輪の中に、別の兵士たちが入ってくる。皆、強制的に働かせていた人たちを盾にして、その首に剣を突きつけている。

「ほら。君らが大好きな子どももちゃんといるからねぇ」

 ウタトが笑うと、まだ年端もいかない少年の首に突きつけた剣を、兵士が少し進める。

「ぎゃあ!」

 剣先が首に刺さり、血が流れる。

「逃げても良い。抵抗しても良い。君には選択の自由もあれば、命の価値の平等さも与えよう。豚と同じ価値だがね」

 ウタトが笑い、周囲の兵士たちも笑うが、俺には選択の余地は無かった。


「クソ。下衆が・・・・・・」

 俺は唸りながら剣を鞘に収めて、手を上げる。

「良し!では、この者を捕らえて檻に閉じ込めろ!!」

 ウタトが命令すると、兵士たちが俺を地面に押し倒す。

「ミル!!逃げろ!!仲間たちと合流するんだ!!ファーンに後を託す!!」

 叫んだ後、俺の口に何かがねじ込まれた。

「クソ!仲間が近くにいるようだ!!探せ!決して逃がすな!!」

 ウタトが命令するが、本気で逃げ隠れするハイエルフを見つける事などできっこない。

 それに、仲間が逃げたとなれば、ますます俺を殺す事は出来なくなる。

 俺は後ろに手を結ばれて、泥にまみれたまま鉄製の檻に閉じ込められた。誰かを閉じ込めるために運ばせていた用だが、察するに、貴族の娘でも捕らえようと思っていたんだろう。こうした檻が他にもあった。


 武器とポーチを取られてしまう。

「おい。預けるのは良いが、それ以上決して武器にもポーチにも触るなよ。もしそれを守れないようなら、グラーダ闘神王とエルフの大森林のハイエルフを敵に回す事になるぞ」

 俺は、武器とポーチを手にして喜ぶ兵士を睨み付ける。すると、兵士たちの顔から欲望の色が消えていった。特に、「エルフの大森林」という名称は効果があったようだ。

 これ以上は俺の所持品を触りたくないように、押しつけ合っていた。




◇     ◇

 



 ファーンたちは、空を移動せずに、走って山道を降りていったのは、意外にも簡単にリュックが見つかった時に、行き違いになってしまうのを避けるためだったが、結果的にその必要は無かった。

 ファーンが休憩した岩にたどり着いても、カシムもミルも戻っておらず、すぐにファーンは川沿いを下っていく決断をする。

 

 そして、しばらく進むと、川を遡って走ってくるミルを発見する。

「ミル!!」

 リラが声を掛けるが、ミルは必死な様子で速度を緩めずに走ってくる。

「みんな!急いで戻って!!みんなもバルタに入っちゃってる!!」

「ええ?!」

 ファーンが振り返ると、確かに山の尾根を越えていた。

 ミルは猛烈な速さでファーンたちとすれ違って走り去る。

 すぐにリラがファーンを、エレナがアールを連れて、川沿いを低空で飛び、ミルを追って再び上流へ向かう。

 そして、休憩した岩までたどり着いて、ようやく移動をやめる。


「おい、ミル!何があった?カシムはどうした?!」

 着地するや、ファーンがミルに問いかける。

 ミルは顔中泥だらけで、涙の後がはっきりしているし、至る所が擦り傷だらけだ。

 今にも泣き出しそうな様子だが、グッと唇を噛みしめている。

「ねえ、ミル。カシム君はどうしたの?」

 リラが尋ねると、ミルが川の下流を指さした。

 川下の大分先の木々の間に、兵士らしい姿が見えている。

 だが、兵士たちは、ファーンたちに気付いていながら、それ以上近づいて来ない。

「あれは?」

 ファーンが首を傾げ、ミルが答える。

「あれはバルタの兵隊だよ。あそこが国境だから、これ以上こっちに来られないの」

 ミルの言葉にファーンが頷く。

「ああ。グラーダ条約ね」

 国境を越えて他国に軍を送ってはならないという項目がある。

「で、なんで軍に追われてるんだ?オレたち旅券あるから、一応、不法入国って訳でも無いだろ?」

 グラーダ三世の裏書きがされた旅券は、カシム、ファーン、リラ、ミル、ランダの5人だけが持っているが、冒険者証が旅券代わりにもなる。

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