ギルド戦争 惨劇 8
カシムの影響か、白銀の騎士や歌う旅団、他の冒険者の活躍話はいつもするが、初期メンバー4人は、自分たちの冒険については仲間内でもほとんど話さない。
「でさ、あいつ1ヶ月しか命が無いから、とにかく創世竜には会いに行こうと旅を急ぎたかったはずなのに、オレに合わせたペースで旅してくれてさ。腹減ったって泣き言言ったら、狩りをして料理を作ってくれたんだ。すっげぇ苦いスープだったけどな」
ファーンが嬉しそうに笑う。
「でさ、オレ、その時、すっげえぇ顔に出ちゃったんだよね。だから、それを反省してて、苦いのにも慣れようと、今でも時々すっげぇ嫌いだけどコーヒー飲んでたりするの」
「ああ。それでいつも『にがっ』とか言ってるくせにコーヒー飲んでいたんだ。ファーンって本当に普段はバカよね。カシム君はそんな事気にしてないわよ」
リラが呆れたようにチラリとファーンを見る。
「うるせー!バカなのは分かってるし、カシムがそんな事はちっとも気にしてない事ぐらい知ってるんだよ!!」
リラが、冷たい目でファーンを見つめる。
「なんだ。わかってるんだ?」
「・・・・・・おう」
「じゃあ、さっさと立ちなさいよ!あなたのカシム君への信用がその程度なら、本当にあなたはライバルから脱落でいいのよね?」
「ちょ、ちょっと待てよ!オレは、あいつの相棒になったって事を話したかっただけで、好きとかそう言う事じゃなくって・・・・・・」
言いながら、ファーンが頭をひねる。
「よくわかんねーんだ。だから考えるのをやめちまった」
そう言いながら、ファーンが立ち上がる。
「でも負けるのはシャクだ!」
ファーンに笑顔が戻る。
「全くもう。これ以上敵に塩は送らないんだからね」
リラもようやく笑顔を向ける。
そして、2人で握手を交わす。
「悪かった、リラ。すっげぇ反省しているし、恩に着る」
「貸しはちゃんと返して貰うわよ」
「・・・・・・あの。なんかよく分からないけど、解決しちゃったんですか?」
エレナが、隣で呆然としているアールに小声で問いかける。
アールも戸惑いながら首を傾げるだけだった。
「おっし!じゃあ行こうか!」
ファーンが言う。
「え?どこに?待ってた方が良いんじゃないですか?」
エレナがファーンに尋ねる。
「いや。オレたちも川を下る」
「ええ?なんで?」
「カシムだからな。オレたちの助けがいる事にならないか心配だ」
ファーンの言葉に、リラも肩を竦める。
「確かに。2人で行かせたのは失敗だったかしら・・・・・・」
リラが首を傾げる。
「いや。ミルがいるから、最悪何とかなるだろう」
そう言うと、ファーンは山道を先頭切って下り出す。
次にリラが続く。
「さすがサブリーダーね。ちゃんと考えられるじゃない?」
「あったりめーだ!オレはあいつの唯一無二の相棒だからな!」
「なにもう!憎ったらしい事言うんだから!!」
言い合いながらも楽しそうにしている2人に、エレナが戸惑う。アールは、完全に困惑して心配そうに2人を見ている。
「しかしよ、こんなにケンカしたのも久しぶりだな!」
「あなたがいつも別行動しているからでしょ?!ミルとなんかはしょっちゅうなんだから」
「わりい、わりい。今度から観光にも一緒に行かせてくれ」
仲直りしたように見えても、リラはファーンの頬を治療しないし、ファーンも治療を頼んだりしない。多分お互いに納得し合っているのだろう。
「それと、エレナ!アール!」
急に振り返ったリラとファーンに、こそこそ付いてきていた2人の体がビクッとはねる。2人とも、怒ったリラの怖さを思い知ったようだ。
「あなたたちのカシム君への思いについての話、終わってないんですからね!!」
「は、はい!?」
エレナは思わず気を付けして、アールは即答する。
「に、兄様は私の生きる意味そのものです!!」
その即答ぶりに、リラとファーンが苦笑する。
「ちげぇねえ。確かに、強力なライバルだ」
「でしょ?」
◇ ◇
俺たちは、かなり川を下って走っていた。
さすがに俺も息が切れる。
ミルは相変わらずのペースで、全く疲れる様子も無く俺の少し前を走る。
あれで、俺より探索範囲が広いのだから、ハイエルフってのはやっぱりすごい。
川は蛇行しながらも、谷川から、流れの緩やかな幅の広い川になってきている。
両側は、まだ山の中なので、木々が生い茂っていて、見通しは悪い。
月視の背嚢は、水に沈まないし、中は決して濡れないので、川沿いに進めばどこかにあるはずだし、流れの速さと、時間の経過からいっても、そろそろ追いつきそうなものだが・・・・・・。
そう思っていたら、前方のミルが叫ぶ。
「お兄ちゃん!あったよ!!」
すぐに追いつくと、ミルが迷わず川に飛び込んで行くところだった。
かなり水温低いのに、さすがはハイエルフだ。ってか、鉤付きロープぐらいお前も持っているだろうに。
「ミル、大丈夫か?」
声を掛けた時は、リュックを手に、スイスイ楽しそうに泳いできていた。
「よくやったな、ミル」
手を貸してミルを引き上げつつ褒めると、ミルは嬉しそうに笑う。
確かに月視の背嚢だ。良かった。
俺はリュックに異常が無いか調べつつ、安堵のため息をつく。あの落ち込んだファーンの姿が胸を抉る。
俺はあいつを足手まといだなんて思った事は・・・・・・。まあ、最初は思っていたけど、それ以降は無い。
ファーンにはファーンの優れたところがあるし、俺にもかなりの弱点はある。それは他のメンバーにも言える事で、すごいところも沢山あるけど、必ず欠点がある。
でも、それは本当に欠点なのかというと違うと俺は思っている。
それが個性だし、苦手な事は周りがカバーできるし、良いところは更に伸ばしていけると思っている。
だから、誕生会で褒め合うのって、本当は良い機会だよなと思っている。
「あれ?お兄ちゃん?」
ミルが周囲の様子に、何か異常を察知したようだ。しきりにキョロキョロしている。
「どうした?」
俺も周囲を見回して、とんでもないミスを犯した事に気がつく。
「ここって、もう尾根を越えちゃってるよね?」
そうだ。リュックを探して川を下るのに夢中で気付かなかったが、俺たちは、とっくに尾根を越えて来てしまっていた。
「ってことは、ここは・・・・・・」
俺たちはバルタ共和国の、北バルタに侵入してしまっていたのだ。
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