ギルド戦争  惨劇 7

 リラとエレナがファーンたちの元に戻ると、ファーンが座り込んで泣いていた。

「ファーン・・・・・・」

 リラが声を掛けるが、ファーンがあまりにも小さく落ち込んでいるので、掛ける言葉がそれ以上見つからない。

 側に付いていたアールも、すっかり困ってオロオロしている。

「あわわわわ!ファーンさん!大丈夫ですよ!きっとすぐに見つかりますよ!!」

 エレナが必至でフォローしようとするが、ファーンは泣き止まない。

「リラ、みんな。本当にすまねぇ・・・・・・」

 ファーンは声を詰まらせながら言う。

「オレ、オレさ。ちょっと調子に乗ってた・・・・・・。カシムやみんなの役に立っていると思って、色々甘えてた・・・・・・」

「そ、そんな事、ないわよ」

 リラは言ったが、ファーンはブンブン首を振る。

「いや!そうなんだよ!!エレッサの時から、オレは自分に自信を持っちまって、他の事をサボってた。もっと出来る事もあったし、仲間のために色々考える事も出来たはずなんだ!でも、色々面倒くさくなって、すっかりやめて、冷めたフリして楽してた!!」

 リラにしてみれば意外だったが、確かに思い当たるところもある。

 ファーンは人間関係で色々立ち回る事が少なくなっていて、リラとしてはライバルが減ったと思っていたけど、どうもそうでは無かったようだ。

 料理も、キャンプでの作業も、いつも決まった事以外はしていない。

 戦闘では、戦わない事が当たり前で、腰のダガーを抜く素振りさえ見せなくなっている。

 町でも、カシムとギルドには行くけど、滅多に一緒の観光もしていない。

「ごめん、リラ、ミル。オレはうぬぼれてたんだ。カシムの事も、2人がどれだけ必死になっても、オレがちょっとその気を見せれば簡単に落とせると、上から目線でお前らを見ていたんだ!!オレは最低な大馬鹿野郎だ!!」

 ファーンが、自分の内心を大声で打ち明けた。

「だけど、オレはカシムを失望させちまった!!相棒なのに、その信頼を裏切っちまった!!あいつが何も無いオレの為に用意してくれた、たった1つの仕事さえ満足に出来なかった!!もう合わせる顔もねぇ!!」

 ファーンは天を仰いで大声で泣く。

 アールも、エレナも驚いている。ファーンの態度にもそうだが、その告白内容に驚いていた。

 仲間になってからは、こんなファーンの内心など想像もしていなかったのだ。


 パァーーーーン!


 高い音が鳴り響き、こだまする。

「リ、リラさん?」

 エレナが凍り付く。

 リラが泣き叫ぶファーンの頬を思いっきり平手で叩いていた。


 パーーーーン!

 パーーーーーン!!


 更に続けて2度叩く。

 ファーンは吹っ飛び、頬を真っ赤に腫れ上がらせて、鼻血も吹き出している。

「・・・・・・」

 ファーンは頬を抑えて、リラを見上げる。

「もう一発いる?」

 リラは逆行の中、ニッコリ笑いかける。

 背筋が凍り付く思いをしたファーンが、ブンブン首を振る。

「あら、残念。今度は風魔法をこめて殴ってやろうかと思ってたのに」

 リラがクスクス笑う。

 エレナも、アールでさえも思わず後ずさる。

「思い上がらないで、ファーン。あなた勝手に勝った気でいたようだけど、私がパンツを見せたら私の勝ちなの!」

「・・・・・・はぁ?」

「それとね!ミルが恥じらいを覚えたら、ミルの勝ちなの!」

「お、おい、リラ?」

「ついでに言うと、カシム君がドMなら、エレナの勝ちだし、シスコンならコッコちゃんの圧勝なの!普通の人ならお姫様の勝ちで、男の子が好きなら、ランダやレック君の勝ち!!」

「おい、リラってば!!」

 ファーンも他のメンバーも眼が点になっている。

「おまけに言っておくけどね!今一番の強敵はアール!あなたよ!!」

 リラはアールにビシッと指を突きつける。すでにファーンには眼を向けてさえいない。

 一方、急に矛先を向けられたアールは戸惑い、困惑する。

「え?私ですか?!」

「そう!あなたです!!」

「で、でも私と兄様は兄妹だから・・・・・・」

 アールは至極真面目に首を振る。

「そんなの関係ないの!!あなたの気持ちじゃないの!カシム君の気持ちなの!!カシム君が望めば、あなただって結婚できるんだから!!」

 リラが叫ぶ。


 誰も言葉を発せられなくなる中、怖ず怖ずとエレナが手を上げる。

「なに?」

 リラに睨まれて、「ヒィ」と叫びながらもエレナが疑問を口に出す。

「あ、あの・・・・・・。怒らないで欲しいんですけど、何で皆さんはカシムさんの事が好きなんですか?あの、リラさんはあたしと同じで、男性恐怖症でしたよね?」

 エレナの言葉に、リラの表情が急に和らぐ。

「カシム君は私が初めて好きになった人なの。一目惚れだったの。理由なんて無いわ」

 エレナの表情が「げぇ~」と言う顔になると、再びリラがきつい目をしてエレナを睨む。

「そう言うエレナだって、最初の頃よりカシム君を嫌いじゃ無くなったわよね?誕生会では、褒められてまんざらでも無さそうだったじゃない」

「うげ!?なんて事を言うんですか?!」

 エレナが慌てる。


「・・・・・・オレはさ」

 地面に座り込んだまま、ファーンが呟く。袖で鼻血を拭いたので、横に鼻血の跡が付いているし、両頬がパンパンに腫れ上がっている。

 リラのステイタス、力は205だ。風魔法が込められていたら、レベル3など、頭がねじ切れてしまう。

「はじめは探求者の目的のために、世間知らずなあいつを利用してやろうと思って近づいたんだよ。だけどさ。あいつ、すっげぇ良い奴で、素性も知れない役立たずなオレに、まず最初に心配した事が『オレは死なない事』だったんだ。あの時のあいつは、自分が呪いのせいで1ヶ月後に死ぬ事も知っていたし、創世竜との会合なんて、どだい無理だから、自分は死ぬつもりでいたってのによ」

 ファーンの言葉に、エレナとアールが驚く。

「に、兄様が?!」

「ええ~~~!何、その悲劇の主人公みたいな話?あたし聞いてないんですけど?!」

 ファーンが苦笑する。

「言ってねぇもん」

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