ギルド戦争 惨劇 5
野営キャンプで誕生会を終えた翌日には、最後の村オドに到着し、その翌日は山を目指して出発する。
ただし、馬は紫輪山を越えられないので、村に預けなければならない。
久しぶりの徒歩での旅になる。
目の前の山は標高1200メートルのフォーシー山。エレス公用語からすればなまっているが、「おじいちゃんの山」という意味で、腰が曲がったように、途中まで急峻な坂が続き、山頂付近になると、しばらくはなだらかな登りに変わるそうだ。
山の木々に付いている葉っぱが、枯れたような茶色になっていたり、赤や黄色に変化していて、景色としては美しい。
リラさんには「紅葉」は馴染みがあるようだが、俺は初めて見る。
「何だか、こんなに色んな色が混ざった山は初めて見ます」
俺も、エレナも山を見てため息を漏らす。
ミルもファーンも、色々旅をしているので、見た事があるようだ。アールは特に反応を見せずに、驚く俺を見て嬉しそうにしている。
「色づいた葉は、冬になると落ちてしまうんですよ」
リラさんの言葉に、俺は疑問に思う。
「そうすると、山の木は全て枯れちゃうんですか?」
「いいえ。一年中緑の葉が付いている木もありますし、全ての葉っぱが落ちた木も、ちゃんと生きています。春になれば、また木々に新しい葉が芽吹きます」
なるほど。でも、確かにそう言った植物はグラーダにもあるんだから、考えてみれば当たり前だ。
ただ、山全部となると、ちょっと規模が大きくて驚いてしまった。
初めて雪を見た時は、驚くよりも先に、殺人ウサギと戦っていたから、感動する暇が無かった。
俺も旅はしてきたつもりだったが、まだまだ世間知らずだな。
気温は下がってきていて、窮屈そうにしながら、エレナは暖かい上着と、ズボンをはいていた。一応、トリ獣人用の長ズボンなので、尾羽は出るようになっているが、ブーツは普通のブーツなので、足は獣化させないようにしないといけない。また、翼は出せないので、獣化する時は腹をまくらなければいけない。
それでもエレナには寒さは堪えるようだ。
上空を飛ぶ時は一部でも獣化していれば、特に寒さは感じないそうだが、だからといって、常時部分獣化とかしている訳にも行かない。
寒さに弱いという事は、エレナも初めて知ったようだ。
俺はまだそこまで寒さは感じない。むしろ心地よいくらいだし、多分山を登るとすぐに暑くなりそうだ。
フォーシー山を越えると、後は尾根伝いに進んでいけば、すぐに紫輪山が見えるらしいので、この彩り豊かな山道を上って行けば良い。
しばらくは山に向かってなだらかな蛇行する山道を登っていったが、ある地点から、急に上り坂がきつくなる。
足下も悪く、木の根が張り出していたり、岩がごろごろしていたり、ぬかるみがあったり。
一部は道が崩れたり、草や茂みに覆い隠されていたりした。
周囲には、生き物の気配も多く、大型の野獣と遭遇する可能性もある。
山を登っていくと、川が流れていた。川は東から西に流れていて、一応丸太の橋が架かっている。
幅の狭い川だが流れは早く、橋から水面までは4メートル以上有り、ちょっとした谷になっている。
「滑りやすそうだな」
丸太の上下を少し削っただけの一本橋で、滑ったところで、俺たちなら怪我もしないだろう。
・・・・・・いや。ファーンは怪我しそうだな。
そのファーンがあえぐ。
「ハア、ハア、ハア。おい!体力バカ共!オレはレベル3だぞ!!なめんなよ!!」
そうだったなぁ。汗びっしょりになってへばっている。
「分かった。ちょっと休憩にしよう」
俺が提案すると、ファーンがホッとしてへたり込む。
「おいおい。こっちにちょうど良い岩がある。そこで寝っ転がってろ」
川の近くに、張り出した大きな岩があった。そこはちょうど日が当たり心地よさそうだ。
「ただし、風があるから、タオルで体を拭いて、シャツを着替えろよ。あと、水を飲んで、砂糖か蜂蜜を少しなめろ」
「う、うるへー!お前はオレのかーちゃんか!?」
まあ、憎まれ口を叩けるなら大丈夫だ。
「エレナ。ファーンを見ていてやってくれ。俺たちは少し先に進む。後から飛んで合流してくれ」
「おお!その手があったか」
ファーンが喜ぶ。
俺もリラさんも、ちっとも疲れていないし、ミルに至っては、底なしの体力だ。肉体労働では疲れ知らずだ。
「は~い!ちゃんとファーンさんのお世話をするので、お任せを!!」
エレナが張り切る。
うん。ミル以外の女子の世話ならエレナに任せられるな。ミルはダメだぞ。悪い虫が付いたら困るからな。
急な坂を、2時間ほど登っていくと、木々が開けて、空が見える様になる。
ちょうどおじいちゃんの腰にたどり着いたようだ。後はなだらかな坂になる。
すると、前方から元気なファーンの声が聞こえる。
エレナに連れられて、楽して先に来ていたファーンだ。
ニコニコしてやがる。
「おーい!何だよお前ら、遅かったじゃ無いか!!」
へばって空飛んできた奴が言いおる。
「待たせたな、ファーン。その元気があるなら、紫輪山は自力で登れるな?」
言ってやった。
「ええ?いや。ほら。カシムたちも頑張ったよな!!」
「まあな」
そう言って、俺は水筒を出して水を飲む。リラさんも、ミルも自分のウエストポーチから水筒を出して飲む。
自然な感じで、俺はアールに水筒を渡す。
「ほら、アールも飲んでおけ」
「ああああ!!カシムさん、そうやって間接キッスを楽しむつもりなんだ!!変態!!」
「え?いや、違うって!!」
エレナの言葉に動揺する。アールも同じく動揺する。
「エ、エレナさん!私たちは兄妹だから、あまり気にしなくても・・・・・・」
そう言いつつも真っ赤だ。俺も多分真っ赤だ。
「いいえ!アールさんも女の子なんですから、もっと気を付けましょう!世の中には妹に欲情する変態もいるんです!そして、カシムさんはその変態のリーダーなんです!!」
おい。俺は変態のリーダーなのか?!
アールがまっすぐな眼で俺を見つめつつも、瞳を潤ませる。なぜ潤ませているのか分からないが、とても色っぽい表情だ!やめてくれ!!
ミルが今まで見た事が無いような顔をしているし、リラさんが青ざめている。1人冷静そうなのはファーンだけだ。
おいおい。たかが水筒1つで、なんでこんな大騒ぎになっちゃうの?
それにみんなには言ってないけど、アールとは口づけをしているんだ。あれは救命行為だからキスとしてはノーカウントだけど。
1ミリも、1ヘクトパスカルもやましい気持ちなんて無い!ヘクトパスカルってなんだ?
「ファーンさん!アールさんに水筒を出してあげてください!!あたしの水筒を貸してあげます!!」
おい!!てめぇ!!最初からそれが狙いか!!
俺とエレナの間で、バチバチと火花が散る。
「へいへい~」
アホらしそうにため息を付きながら、ファーンが腕を回す。そして、叫ぶ。
「あ、あれ?!無い!!」
慌ててファーンがマントをブローチに戻して背中を探る。
「あ・・・・・・」
異変に俺も気付く。
「無い!無い!オレのリュックが無い!!」
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