ギルド戦争  惨劇 4

 即日、ギルド長ゼンネルが、ギルバートの執務室を訪れる。

 グラーダ国のメルスィンにある冒険者ギルドの責任者は、ギルド長と呼ばれていて、世界中の冒険者ギルドの最高責任者という事になる。

 ゼンネルはエルフの女性で、年齢は不明だが、ギルバートが幼い頃からの知り合いである。

 だから、以前カシムがランクアップしないで欲しいと頼んだ時も、今回も、宰相としてでは無く、昔なじみの友人として声を掛けている。


「やあ、ギルヴィー。この私を呼びつけるなんてどうした事なんだい?君は知らないだろうけど、私も結構忙しい身分になってるんだよ?」

 宰相の執務室、その隣にある応接室に入るや、ゼンネルはそう言うと、ドッカとソファーに座る。遠慮も緊張もない。

「ゼンネル女史。あなたもおおよその事は分かっているんじゃ無いかな?」

 ギルバートは組んだ手に顎を乗せて、真剣な表情でゼンネルを見る。

「おや?この私に推理を披露しろと?ふん。それはなかなかずるいやり方だね。でも良いだろう。今日の今日で呼び出されたんだ。聖バルタ共和国に関する事だというのはすぐに分かる」

 ゼンネルは、ソファーから立ち上がって、室内を歩きながら話す。

「その実情を知りたい、と言うだけでは無さそうだ。なぜなら、南バルタは表面上平和に過ごしていて、グラーダ国が内政干渉する余地が無いからだ。問題は北バルタ。大変な疫病がはやっていて、死者の数も少なくないそうだ。国境は完全に封鎖されている」

 これは9月半ばからである。

「それが不審だと言うのだろう?私たちギルドの職員とも、一切連絡が取れておらず、ギルドでも北バルタの情勢は分かっていない。冒険者にクエストを発注してはいるが、なにせ疫病だ。北バルタに潜入する任務なんて受ける冒険者はいない」

「いない・・・・・・か」

 ギルバートが唸る。

「そうだよ、ギルヴィー。大方君の狙いは、冒険者に潜入して情報を探らせたいのだろう?だけど、疫病相手では、どんな冒険者だって腰が引ける。引き受けて北バルタに入ってくれる者なんていないんだよ。つまり、私はここまでただ無駄足覚悟で旧友の顔を見に来たという結末さ。これが私の推理だ」

 ゼンネルはそう言うと、ようやく歩くのをやめて、ソファーに座り直した。

 ギルバートは顔を上げる。

「いや。まんざら無駄では無い。その様子だと、遠巻きの監視はしているのだろう?希望者がいた時の侵入経路とかも探しているんじゃ無いのか?」

 ギルバートの言葉に、ゼンネルがニヤリと笑う。

「ご明察だ。さすがは賢政」

「よしてくれ。君が『出来ない』で済ませるほど、往生際がいい人では無いと知っているだけだ」

 言われてゼンネルは憮然とする。

「君こそ、私に声を掛けるだけで済む男じゃ無いだろう?」

 互いに、何かを含んだ笑みを浮かべて会談を終える。

 


 

 ギルバートは、その後もいくつかの政務をこなした後、グラーダ三世に報告と書類の束を渡すために、国王の執務室に足を運ぶ。

 そして、夕刻までグラーダ三世と政務をこなしていた。



 突然だった。白い光が室内を白に染め上げる。

 ギルバートはもちろんだが、グラーダ三世も驚き、急いで窓に駆け寄り外を見る。

 

 突然に、何の予兆も無く、グラーダ国王城リル・グラーディアの正門内に白い光の柱が出現していた。

 直径が20メートルほどのその柱は、果てが見えなくなる程空高くまで続いていて、夕刻の空に眩しく屹立していた。


 熱量は無く、破壊も起こさないが、明らかに異常な現象である。

 グラーダ三世も身構えて、執務室からその柱を見つめる。

 城を警護する兵士たちが、白い柱に集まって武器や盾を構えて、遠巻きにしている。


 この光の柱がなんなのか、ここにいる者で答えられる人物はいなかった。

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