ギルド戦争 惨劇 3
人々は殺される。
集められ、自らが埋められる穴を掘らされ、殺されて、明日殺される者たちによって、死体を埋められる。
強制移送される人たちは、着の身着のままだ。
裸足や寝間着の者もいる。
兵士に強姦されたまま、裸の女性もいる。
その上で、食べ物も、飲み物もほぼ与えられずに、軍のペースで歩かされる。
遅れればむち打たれるし、逆らえば殺される。
ただただ絶望があるばかりだった。
北バルタの人口は、約500万人。
9月17日に始まったクーデターからたった一ヶ月で、実に20万人の民衆が殺されていた。
一方で、南バルタは物資が市場に流れて、人々はにわかに活気づいている。
臨時政府がインフラ整備にも力を入れだし、これまで住人が不満だった賃金問題にも、ある程度の方針を示してくれたので、それまでの酷い生活に比べると、人々はかなり改善されたと喜んでいる。
餓死者の数も減り、職にも就けるようになる。
その為、臨時政府を歓迎し、軍に志願する若者も増えている。
また、冒険者ギルドへの資金提供も増え、冒険者を集めるために、依頼報酬を高く設定している。それにつられて、近隣国から、冒険者が集まって、各地のモンスター退治に精を出している。
北バルタは、壊滅的な疫病被害で封鎖されているが、噂では、近くにアカデミーに医療研究者への応援要請をする事に決定したらしい。
これも、臨時政府だから取り得た、素早い対応だと評価を得ている。
そして、10月15日。
臨時政府は、国民の支持を得たとして、議会が決定して新国家「聖バルタ共和国」の樹立を宣言した。
その理念は、「自由と平等」。
その理念に涙し、自分たちの困窮を救った軍の総帥、ヨードル・グハーグを、「聖バルタ共和国」の総裁として、歓呼の礼で迎えたのである。
◇ ◇
聖バルタ共和国樹立の報は、衝撃を持って世界を駆け巡った。
アインザークから帰国したばかりのグラーダ三世の元にも、直ちにメッセンジャー魔導師によって知らされた。
「むう・・・・・・。世界会議のタイミングで革命を起こしおったか」
国のトップが揃って自国を離れるのだから、ある程度の変事があるとは思っていたが、ここまで大きな異変は、グラーダ三世も想定していなかった。
これが、南北のバルタの総意で決定された事ならば良いのだが、少なくとも国王が不在のタイミングという事は、北バルタが賛同しているという事はあり得ない。
しかも、聞くところによれば、北バルタのみで疫病が大流行していて、今は完全に封鎖しているという。
これは怪しいどころでは無い。
「ギルバート!!バルタ国王と首相は、もう国に発ったか?!」
グラーダ三世が、大声を上げる。
大陸東側の代表たちは、陸路でそれぞれに帰国していったが、西側の代表たちは、海路を使うので、一度グラーダを経由してから、再び海路でグレンネックに入る。
そうする事で海賊被害に遭う事無く、安全に旅が出来るのだ。
ついでに、グラーダ三世と同じ日に出港すれば、鬼に金棒である。
多くの国が、同日に出港して、グラーダに到着する。
それから数日はグラーダで過ごしてから帰国する。
トリスタン連邦の首相のように、大慌てで乗り継いで出発する代表者もいるにはいたが。
だが、確かバルタ国の国王も、首相も、普段は政敵同士なのだが、こういう時は歩調を合わせて、のんびりとグラーダで過ごしていた。
その内に、疫病や、臨時政府の噂を耳にして、より帰国に消極的になったが、いよいよ出発を迫られる状況となっていた。
「はい。一昨日に船で出港しました」
ギルバートは答える。
グラーダ三世は執務室侍官に命令する。
「至急航空部隊を飛ばしてバルタ国の船をグラーダに戻させろ!!」
執務室侍官は、「はっ!」と短く返事をすると、急いで執務室を後にする。
「動きますか?」
冷たい眼で、ギルバートがグラーダ三世に尋ねる。
何が起こったのか、ギルバートも推測が出来ている。
「今は動けん。バルタ国王と首相が俺に、軍の出動を要請せねばな」
特権があるにもかかわらず、グラーダ三世はグラーダ条約を守ろうとする姿勢を崩さない。
「では、私は初動が遅くならないように準備を始めましょう」
そう言うと、ギルバートは宰相の執務室に向かう。
ギルバートは、一位への軍出動準備の要請と、兵站の手配等を素早く計画して手続きを行う。
更に、冒険者ギルドのギルド長を呼び寄せる。
北バルタへの調査を依頼するためである。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます