ギルド戦争 惨劇 1
翌10月12日に、俺たちはみんなで念写館に行って、沢山念写をして貰った。午前中一杯使って楽しみ、全員分のアルバムに加工して貰った。
アルバムはかさ張るけど、ファーンのリュック、「月視の背嚢」があるから問題ない。
このファーンのリュックは、俺やリラさん、ミルのウエストポーチよりも、更に沢山の物が収納できるので、食料からテントから、着替えから、ほとんどのパーティーの荷物が入っている。
今でこそ、ファーンは俺たちのパーティーにとって、重要な戦力になっているが、仲間になったばかりの頃は、戦わないし、飯も作れないし、パーティーに貢献する事が出来ない奴だった。だが、このリュックのおかげで、荷物運び《ポーター》の役割を担う事が出来るようになったと、涙を流して喜んでいた。
今は、その観察眼を生かして、俺たちの戦いを助けてくれている。
俺にしても一目置いている大切な相棒だ。
勿論他の仲間たちも、みんな大切な仲間である。
今行動を共にしていないマイネーやランダも、役目を終えたら、一緒に旅をしてくれるだろ。
他にも多くの人たちと知り合ったな。
中には、辛い別れをした人もいたが・・・・・・。
今、こうして念写を撮った事で、それらの記憶と共に、俺の中にずっと生き続けてくれると思いたい。
昨日作ったロケットにも、仲間との念写を入れて貰っている。
念写館から、近くの食堂に場所を移して、テーブルに着くや、みんな嬉しそうに、念写のアルバムを見ている。
「昨日のカシムの奴、司書に念写しようって言われてよぉ」
「うふふふ。それは
ファーンとリラさんが楽しそうに話している。
完全に作戦勝ちだな。あの一件が、ただの笑い話になっている。
ミルまで、その話をニコニコ聞いている。
ん?ミル・・・・・・。
「・・・・・・あれ?そう言えば、明日はミルの誕生日だったよな?」
俺が思い出して言う。
10月13日がミルの誕生日だ。
「うん!!そうだよ!!」
ミルが嬉しそうに言う。
「・・・・・・じゃあ、また『アレ』・・・・・・やるのか?」
俺が呻くと、エレナが大きな声を上げる。
「ええ~!ミルちゃん、明日が誕生日なんですか~~~?しらなかったです!・・・・・・で、『アレ』って?」
「ああ。ウチの恒例でな。誕生日はみんなに褒めて貰うんだ!なかなかいいぜ」
ファーンが「ヒヒヒ」と笑うが、お前が言い出しっぺだ。
俺の誕生日は、八光の里から帰還する日で、馬車の中でみんなに褒められた。途中からけなされていた気がするが、アレはかなり恥ずかしかった。
でも、ミルはすごく楽しみにしているみたいだから、やらない訳にはいかないよな・・・・・・。
「じゃあ、明日もこの町に宿泊して、明後日出発しようか」
俺が提案する。
「そんなにのんびりして良いんですか?」
「あたしはキャンプも好きだよ!!」
リラさんがそう言って、ミルも同意する。
「ま、町で過ごすのも良いけど、野外で仲間たちだけってのも中々おつだよな」
ファーンまでそう言うので、俺は少し考えてから言う。
「わかった。じゃあ、明日の夜だ。適当なところでキャンプして、そこでパーティーをしよう」
そう言ったところで、エレナが言う。
「はいは~~い!それなら重大発表ですが、あたしの誕生日は昨日だったんですよ!!ミルちゃんと2日違い!!運命を感じま~~~す!!」
マジか?!
みんなが驚く。
リラさんがすごく悲痛な表情を浮かべている。リラさんの誕生日は3月なので、まだまだ先だ。
「お前、そう言う事は早く言えよな?」
俺が言うと、エレナがジロリと睨む。
「女の子のプライバシーを侵害しないでもらえますか?!それに、獣人って、誕生日は結構きつい戦いをする習慣がありますから、あまり嬉しくは無いんですよ。2対1の戦いとか、3対1の戦いとか」
特別な日に特別な試練か。獣人らしくて、結構嫌だ。
「じゃあ、エレナも明日一緒に誕生日やろうよ!!」
ミルが屈託無くそう言う。偉いな~。普通なら子どもは、自分の誕生日は自分だけの特別な日にしたがるのに、他の奴も一緒に祝ってあげたがるなんて・・・・・・。お前は褒めるところが多くて全く困らないな。
「良いんですか?わ~~~~い!!」
お前はちょっとは遠慮しろ。同じ日じゃ無くて、今日にするとかでも良いだろうに。
「ん?そういえば・・・・・・」
俺がアールを振り向きかけた時、俺を含める全員が凍り付く。
やっちまった。
アールに誕生日を聞くのは有りなのか?
みんなにも、昨日のアールの暴走についてはこっそり話してあるし、アール自身も、ボンヤリとだが、俺を攻撃した事は覚えているらしい。
しばらくの沈黙。
だが、こうなったら、俺が話を振るしか無い。
「アールは、誕生日はいつなんだ?」
努力して平静を務める。
すると、アールの眉間にしわが寄ったので、全員が腰を浮かしかける。
「わかりません。無いのかも知れません」
普通の感じで返事を返してきた。俺は心の中で大きなため息を付く。
「た、誕生日が無い事は無いんだ。無いなら誕生日を作るのはどうだ?」
俺が勢いで提案する。自分で言っていて、どこかおかしい。
だが、アールは小さく頷く。
「兄様。作ってくれますか?」
この子は俺が提案すれば、全部肯定してくれそうだな。
だが、こうなったら、俺も真剣に考えなきゃいけないな。
エレスは1ヶ月33日で、12ヶ月で1年だ。1月が初春で1年が始まる。
ふむむ。天候、吉日、行事、様々な事に考えを巡らせる。
「良し!『1月23日』はどうだ?『1・2・3』と並んでいてカッコいい!!」
俺がそう言うと、ファーンがすかさず、「お前は時々バカだ・・・・・・」と言いかけるが、ファーン以外の全員が「良いですね!」「いいねぇ!」と肯定する。
あのエレナでさえも、「それはカッコいいです!アールさんにピッタリです!」と高評価だった。
「え?うそだろ?この感覚のずれってオレだけなの?」
ファーンはショックを受けてうな垂れる。
「兄様。誕生日をありがとうございます」
アールが丁寧に、嬉しそうにお辞儀する。うーん。可愛いな。
「兄様。誕生日も、一緒に過ごしてくれますか?」
今度は不安そうな表情だ。相変わらず、今すぐにも俺が消えてしまうのではという不安に苛まれているようだ。
「もちろんだ」
そう答えつつも、俺自身も明日にはどうなるか分からない身ではある。ただ、希望としては、アールの誕生日を共に過ごしたいと願っている。
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