ギルド戦争  アール・ジェイ・ジェイン 7

 そこにようやく救援が駆けつける。冒険者たちである。

 いくつかのパーティーがやってきて、全滅したオークに驚く。

「これ、あんたたちがやったのか?」

 そう言われたが、それどころじゃ無い。

「それより回復を頼む!急いで!!」

 俺の叫びに、回復魔法使いが急いで駆け寄り、アールに魔法をかける。

 俺はアールの口を押し開けて、ちぎれた舌を傷口にあてがった。

 少しすると、出血は止まり、舌も、何とかくっつく。

 後で、リラさんに「ケアミ」を掛けて貰えば、完全に元に戻るだろう。

「ふう~~~」

 俺はようやく安堵のため息を付いた。

「助かった。ありがとう」

 俺が礼を言うと、若い男の回復魔法使いは頷く。

「何とか俺の手に負えて良かったよ」

「それで、このオークたちは?」

 再び男が尋ねてきたので、ようやく俺は答える事が出来た。

「出現したのは24体。全部俺たち2人で倒した」

「どこから出現したんだ?」

 男の問いには、どう答えたら良いものやら。

 俺は地獄の穴が突然開いたという事は理解できるが・・・・・・どうかな。

「さあ。いきなりとしか言えない」

 嘘ではないし、そう答えておいた。

「ギルドには俺が報告に行く。仲間を助けてくれた礼だ。こいつらの耳とか削いで、ギルドで報酬を受け取って貰って構わない」

 俺が答えて、フラフラするアールに肩を貸して立ち上がると、冒険者たちは驚く。

「いいのか?」

 モンスターに掛けられた賞金は9月半ばから高くなった。オークだと、右耳1つで銀貨2枚にもなる。

「もちろんだ。助かった」

 そう言うと、未だに戸惑う冒険者たちを尻目に歩き去った。




「アール。帰ろう」

 俺が言うと、まだ上手くしゃべれないアールが、真っ赤になりながら囁く。

「にいたま。あたひ、おひっこ・・・・・・。はじゅかひいえふ」

 ああ。失禁していたな。

「大丈夫だよ。俺たち血まみれだからバレやしない。まずは宿に戻ろう」

 そう言うが、アールは真っ赤になってうつむく。

 デリカシーが無かったな。でも、着替えもないし、仕方が無いよな。

 上手く歩けないアールを背負って、俺たちは宿に戻っていった。





 アールを連れ帰り、風呂に入れて(勿論1人で入ってもらったぞ)、俺も続けて風呂に入り、血で汚れた服を洗う。

 それが済んだら、俺は装備をしっかり調えてギルドに向かう。

 アールには休んでいて欲しかったが、1人になるのは不安だというので、結局付いて来た。

 

 そして、受付で、オーク出現と討伐の報告をすると、驚きの声とため息が周囲から出る。

「すげぇな。あんたら。一応話は耳を持ってきた冒険者に聞いたけど、本当だったのか」

 同時に。

「しかし、ついにここも町中にまでモンスターが出現するようになっちまったか・・・・・・」

 周囲のため息の原因はこれだ。

 ここ最近はこうした事が珍しくない。だから、皆、町にいても不安なのだ。

 「暗黒時代の到来」を予見させられてしまう。


 すると、受付の奥から、女性たちの一団が走ってくる。

「きゃあああああっ!!」

 黄色い声で、女性たちの先頭にトリリアさんがいる。

 やってきたのは司書様と、一般事務の女性職員の様だ。

「カシムさん!!早速のご活躍、感動しました!!」

 女性陣は、受付の大男を蹴り飛ばすと、カウンターの上に乗らんばかりに身を乗り出してくる。

「私とも念写して下さい!!」

「握手してください!!」

「サインください!!」

 口々に言ってくる。

 それを押しのけて、トリリアさんが顔を寄せてくる。

「良かったら、今夜お食事でもどうですか?」

 うひゃああ!!これは・・・・・・。

 思わず生唾を飲み込んでしまう。

「こらあああああ!!お前ら、仕事中だ!!!」

 支部長が堪らず飛び出してきて、女性たちを怒鳴りつけた。

 他にも室長も部長も徒党を組んで、手強い女性陣を追い払う。

 女性たちは、かなりブーブー文句を言いながら引き上げていった。

「いやあ。大変お見苦しいところをお見せしてしまい、申し訳ありませんでした」

 支部長が、汗をふきふき俺に言う。

 いや。せっかくだから、もう少し今の良い気分を味わいたかったんだけど・・・・・・・。だって、次があるとは思えないから。

 俺が無言でいる事を、何と勘違いしたのか、支部長が言葉を続ける。

「で、竜の団様、今回は報奨金や貢献度はどうされますか?」

 俺たちが受け取り拒否をしているのは、ギルドでは有名らしい。

「いや、いらないよ。トリリアさんたちをあまり叱らないであげてください」

 そう言うと、報告も終えた事だし、ちょっと後ろ髪を引かれつつもギルドを後にした。




◇     ◇




 夕食前になってファーンがようやく宿に戻ってきた頃には、全員が揃っていた。

 リラさんによって、アールの舌も治して貰ったので、今は普通にしゃべれるようになっている。

 なので、俺たちは宿の一室に集まって談笑していた。


 すると、ファーンは俺を見るなり険しい顔をして指を突きつける。

「おい!リラ、ミル!こいつギルドでなぁ!!」

 早速チクりに来やがった。

「その事で今、みんなと話してたんだよ!」

 俺はファーンの言葉を切って、笑顔で話し出す。

「あ、ん?!」

 出鼻をくじかれて、ファーンが戸惑う。

「見てくれ、これ!司書と一緒に念写を撮った事で思いついてな。アールと2人で念写を撮りに行ったんだ!!」

 そう言って俺は大きめのロケットのフタをあけて、アールと俺が移っている念写を見せる。

「ふ、ふーん。それで何だよ!?」

 まだ眉間にしわ寄せながら、ファーンが唸る。

「だから、明日は、みんなで念写を撮りに行こうかって話していたんだ。絶対に大切な宝物になるぜ!!」

「そうよ、ファーン!!私もなんで今までそうしなかったのかと思っちゃった!!」

 リラさんはずっと嬉しそうだ。最初に司書様との念写を見せた時は、怖い顔をしていたのに、今はニコニコだ。

 ミルもそうで、明日が楽しみで仕方が無さそうだ。

 無論、エレナも、ウヒウヒ、よだれを出して喜んでいる。

「個別にツーショットでも撮りましょうね~~~~!!」

 

 ククク。ファーンよ。

 お前に戦術を教えたのは俺だ。

 そして、女性陣にもまれて、俺も多少は成長しているのだ。

 こういう事は人伝ひとづてに知らされるよりも、本人が、いかにも気にしていない態度で自分から言い出せば怒られない。 

 更に、それをダシにして、自分たちのメリットにつなげるナイスな提案をすれば、最初の問題など、無かったも同然になるのだ。

 これはアールの手柄でもある。

 ほら、ファーン。

 お前も俺を糾弾できなくなっただけでは無く、ちょっと楽しそうな表情になってきた。


「俺もファーンとの念写撮りたいしな!!」

 邪気の無さそうな表情で俺が言ってやった。

「・・・・・・しょ、しょうがねぇなぁ~」

 ファーンもニコニコして話に加わってきた。

 良し!ミッションコンプリートだ!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る