血海航路  魔神 3

「エムンよ!ここに参れ!!」

 グレグルが叫ぶが、エムンは現れない。当然だ。

「どうした、エムン!」

「悪いね。あんたの部下は、俺が倒した」

 俺の言葉に、グレグルが目を剥く。

「おのれ、貴様ぁ!!」

 再びの衝撃!!

「ぐおおっ!!」

 俺はマントとアームガードで衝撃に耐えるが、またしても体は吹き飛ぶ。まだまだ重心の使い方が甘いから、こうも容易く吹き飛ばされる。

 建物の壁に背中をしたたか打ち付けて、俺は地面に落とされた。

 追い打ちを掛けるように、数人の海賊たちが、俺に武器で斬りかかる。

「くっ!!」

 避けて、払って、受け流しつつ、1人の腕を肩から切断する。

 前方に転がり、海賊の1人の片足を切断する。

 それだけで、海賊たちは怯んで俺に容易に近づけなくなる。

 これなら、命を奪わなくても、戦闘力を削いでいけば何とかなりそうだ。

 海賊たちは、モンスターのような戦闘狂じゃない。結局は自分の命が一番大事なんだ。

 ならば、海賊行為に支障が出るような手傷を負わせる程度で攻撃しよう。もっとも、俺にその余裕があればだ。

 なにせ!!


「うおお!!」

 今度は炎の鞭が見えないほどの速度で打ち出される。

 俺がギリギリ避けると、背後にいた足を切断された海賊に鞭が巻き付く。

 男は炎に巻かれて、建物の壁に突っ込み倒れる。建物も炎上する。

 あの魔神がいる限り、俺に余裕など無い。


「敵味方関係無しかよ・・・・・・」

 魔神は薄ら笑いを浮かべて、屋根の上から俺を見下ろしている。

 届かないと思って、余裕の表情を浮かべてるな。ならば。

 竜牙剣の投擲一閃。

 グレグルは、自分の前面に複数の魔法防御の魔方陣を展開する。魔神だけに、魔法詠唱は必要ない。

 だが、俺の竜牙剣は、その魔法防御陣を次々突破する。

 さすがに顔色を変えたグレグルは、ギリギリで竜牙剣を回避する。

 奴の装飾華美なショルダーアーマーの右側がはじけ飛んだ。そして、帰ってくる竜牙剣・・・・・・は回避された。クソ。油断しなかったか。

「なるほど・・・・・・。それが噂の竜の団か。カシム・ペンダートン。忌々しい白銀の騎士の孫・・・・・・」

 グレグルは赤い目を輝かす。

「フフン。・・・・・・行き掛かり上の事ならば、上にも言い訳も出来よう。貴様はこの私、グレグル男爵が殺す!!」

 グレグルの背後に金色の剣が無数に現れる。その数12本か!?その剣が宙を飛び、あらゆる方向から俺に向かって攻撃を仕掛けてくる。

 なるほど、こう来たか。

 俺はウエストポーチから剣鉈を取り出し、左手で構える。右手には竜牙剣だ。

 燃える家からは離れつつ、「無明」を周囲3メートルに限定して、極限まで精度を高める。

 無明の範囲に入った金色の剣を、俺は2つの武器で迎撃する。

 竜牙剣で払い、剣鉈で打ち上げる。身を沈めて躱し、竜牙剣でたたき落とす。そして、剣鉈で受け流す・・・・・・事が出来ず、剣鉈が砕け散った。

「ぐあ!!」

 剣鉈の破片も刺さったが、金色の剣が俺の左の上腕を貫く。

 それで攻撃が止まる訳ではない。どうやらあの剣は1本に付き、一回の攻撃しか出来ないようだ。たたき落とされた剣も、俺の左腕を貫いた剣も、攻撃が終わると消えてしまう。だが、剣はあと7本も残っている。

 

 全方位からの一斉攻撃だ。

 俺はとっさに竜牙剣で背後の壁を三角に切り裂き、壁に体当たりして家の中に逃げ込む。ここなら障害物が沢山あるから対処しやすい。

 俺を追って建物内に入ってきた剣は、俺が投げつけたテーブルに数本当たり、消滅し、他の剣も家具に当たったり、俺が打ち落として消す事が出来た。

 が、今度は天井が崩れる。

 上からの強烈な圧力で、俺を家ごと押しつぶしに掛かって来た。

 背中の骨が軋む。

「うおおおおお!!マジかよ!!」

 全圧力が掛かる前に、家の出入り口から飛び出した。

 そこに巨大な火球が無数に降り注ぐ。

 周囲の海賊に当たろうが、家に燃え移ろうがお構いなしだ。

 もう海賊たちも、俺に襲いかかってくる余裕もなく、出来るだけこの戦場から遠ざかろうと必死だ。押し合い、へし合い。仲間を踏み倒してまで逃げ惑っている。


「!!!???」

 火球の先に、子どもがいる!!

 思ったときには、体が動いていた。

 俺は火球の前に飛び出し、子どもを庇う。マントで炎は防げたが、固定化は間に合わず、衝撃をもろに受けてしまう。

 マントは炎に耐えるが、まるっきり熱さを感じない訳では無い。

「くう・・・・・・。逃げろ」

 俺はダメージに耐えながら子どもを逃がすが、その子どもは俺の頬を殴りつけて俺を睨む。

「死んじゃえ!!」

 それはそうだ。俺はこの子どもにとっては敵なんだ。

 それでもだ。

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