血海航路 魔神 4
「しぶといぞ!!アークフレイム!!」
魔神が魔法名を唱える。
詠唱は不要だが、魔法名を唱えた方が、魔法の威力は上がるらしい。つまりは本気の攻撃が始まった。
極太の炎の槍が俺に迫る。今度は周囲には人はいない。横っ飛びに躱すと、更にもう一本炎の槍が飛んでくる。
今度は後ろに逃げ惑う人たちがいる。その中には女性や老人もいる。
これは誘い込まれた。さっき子どもを庇った事で、俺の甘さを見抜かれた。
「やり方がえげつない!!」
マントを前面に展開して、その中で剣とアームガードで防御の態勢を取り、正面から炎の槍を受け止める。
「ぐううううう!!」
足に、へその下、丹田に力を込める。足の裏から根が生えて、地中深くに根を広げるイメージだ。
マントを通しても凄まじい熱さを感じる。衝撃も凄まじく、太い丸太を叩き付けられたような強烈な一撃だ。
だが、それも今度は立ったまま耐える事が出来た。
炎で何も見えないが、「無明」でグレグルの位置を把握すると、竜牙剣を投擲する。手応え有りだ。
炎を振り払うように、マントを展開すると、腹に穴を開けたグレグルが、「信じられない」と言ったような驚愕の表情を浮かべていた。
回転して戻ってくる竜牙剣を受け止めると、俺は再び屋根に飛び乗る。
「貴様!よくもやってくれたな!!」
赤い目に怒りの炎を上げて、グレグルが俺を睨む。
せっかくの攻撃だったが、グレグルはすぐに回復魔法を使い、腹の傷を塞ぐ。
狙いが甘く、即死させられなかったのだから仕方が無い。
「グレグルよ!海賊は味方なんだろ?!巻き込むな!!」
俺が言うと、グレグルは驚いた表情をしてから大笑いする。
「ワッハッハッハッハッ!何と愚かな質問か?!海賊共が味方だと?馬鹿を言うな!!私は魔神だぞ!人間共の恐怖こそが我が食事だ!見てみろ!どいつもこいつも、私を畏れて逃げ惑っている。苦痛と憎悪、恐怖に怨嗟。どれも私には心地良い!!ここで何人死のうと、私にとっては関係ない!!」
くそう。魔神の中には、元々は神だった者もいると言うから、多少は話や道理が分かる奴もいるのかと思っていたが、ほとんど地獄教徒と変わらない考え方をしてやがる。だから、聖魔戦争でも地獄勢力の味方をしたんだな。
それなら、聖魔大戦の前に、こいつら魔神を、1人でも多く倒しておいた方が良いんじゃないか?そう思えてしまう。
いずれにせよ、今は目の前のこの魔神を倒さなければ、逃げる事は不可能だ。
屋根から屋根へと飛び移りながら、俺は港方面に向かって移動する。グレグルも、一定の距離を取りながら追ってくる。
時々魔法も仕掛けてくるが、躱したり、マントによって防いだりする。
このマントは、固定化出来たり、破壊されないし、炎にも強い。しかし、貫通攻撃や衝撃を、緩和は出来ても防げない。
マントで受ける限り、ダメージは受けてしまう事になる。
そして、グレグルの魔法攻撃は一々強力だ。
風魔法!!衝撃波だ!!
無明が無ければ、見えない攻撃なので喰らってしまうが、大きく跳躍して避ける。
屋根から転げ落ちて、再び地面に降り立つ。受け身は取れた。
衝撃波の先にあった建物が粉々に粉砕される。
風の刃!!巨大だ!!前の家や、逃げ惑う海賊を切断しながら俺に迫る。
まだ立ち上がれないまま、竜牙剣を構えて、風の刃を切断するが、切断された刃が、俺の両頬から、両耳を切り裂いていく。
「いってぇ!!」
叫びつつも、転がって建物の後ろに転がり込む。
同じように建物の後ろに隠れた海賊と目が合ったが、この海賊は、完全に戦意を喪失しているため、驚きつつも卑屈な笑みを浮かべる。
ああ。もう!!
仕方が無いので、俺が建物の裏から飛び出す。
すかさず氷の矢が一斉に俺に向かって飛んでくる。
息つく暇も無い。剣で叩き落とすか、避ける。
俺は矢を避けながら跳躍して、再び建物の屋根に乗る。
相手が高所から見下ろしている状況は不利だ。
それでも氷の矢の攻撃は続く。
アームガードで受けたら、アームガードを通して、とんでもない冷気が俺の腕まで伝わる。
冷気なのに、腕が焼けるような熱さを感じた。
それらの痛みに、歯を食いしばって耐える。
だが、あの魔神、距離を取る戦い方が目立っている。となると、あいつは接近戦は苦手なのではと思う。背中の大剣は見せかけだけで、接近戦も得意だと思わせる小道具なのかも知れない。
ならば。
俺は次の建物に飛び移るフリをして切り返し、「圧蹴」で一気にグレグルに詰めかかる。ただ、足場が屋根なので、屋根を蹴破っての圧蹴となり、速度は半分ほどだ。
俺は間合いに入るや、竜牙剣を横薙ぎに振ろうとする。
が、それを見てグレグルが笑う。
刹那、目にもとまらない早さで、大剣が振り下ろされる。
とっさに竜牙剣を両手で支えて受けるが、屋根を突き破って、建物の中にたたき落とされてしまう。
「ぐはっっ!!」
左腕にはひび、肋骨が数本折れたな。
体内にもダメージはある。
だが、すぐに立たなければ。
「残念だったな」
天井の穴から、グレグルが飛び降りてくる。
俺は転がってから立ち上がり、剣を構えるが、頭も打って、焦点が合わない。透明になっているが、フードをかぶっていなかったら、この程度では済まなかっただろう。
「私は魔法よりも、剣の方が得意なんだ」
クソ。これが爵位持ちの魔神の力か・・・・・・。
「さあ、踊ろう!」
グレグルは、喜々として大剣を振るってくる。
俺はまだはっきり見えない視力はあきらめて、無明の気配だけで剣を受け止める。
両手で剣を握り、必死に耐える。何て力だ。この剣が竜牙剣じゃなかったら、へし折られていただろう。
「その剣、なかなかの名剣だな。私の剣が刃こぼれをしている。貴様を倒したら、その剣、もらい受けよう!!」
グレグルが笑って大剣を大きく一閃する。
ガシャアアアア!!
「ぐうううううっっ!!」
吹き飛ばされた俺は、壁を突き破って外へ転がり出る。
背骨が軋む。左の肩が抜けたようだ。
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