血海航路  海賊の島 5

 俺は彼女たちの縄を解いて、ずだ袋の服を身につけるまで、外で待機する。

 女性たちは、桶の水をかぶって、男たちに汚された体を洗ってから、小屋から出て来た。

「他の2人はここで待っていてください」

 そう言われると、余計に不安になった様だが、かといって、洞穴に入るのも嫌なようだ。

 ここで戦力を分けるような事はしたくなかったが、止むを得ない。

「アール。彼女たちと見張りを頼めるか?」

 俺が言うと、アールは俺の身を案じるようだったが、頷く。

「死体を片づけて隠れていてくれ」

 そう言い残すと、俺は案内を名乗り出てくれた女性と洞穴に入っていった。




 彼女の名はジョゼ・バールセン。

 商売の関係で船に乗り、海賊に捕らわれたそうだ。

 

 海賊たちにとっての人質は、質と、数に分けられる。

 貴族はその貴族の血縁者に多額の身代金を要求できるので、ある程度、良い待遇で軟禁する。無論、身分によっては、その差は大きい。

 庶民は数を集めて、国に身代金を要求する。

 数でしかないので、その待遇は悲惨そのものである。

 ジョゼも庶民なので、攫われてから、もう何度も男たちの相手をさせられているそうだ。

 国に帰れば夫もいれば子どももいる。愛する家族がいるのに、海賊共の相手をさせられてのだ。それは辛かっただろう。

 庶民の人質は、解放されるのに、1年~5年はかかる事もあり、海賊の子どもを身ごもるなんて事はざらだし、怪我や病気で死んだり、自ら命を絶つ者も少なくない。

 また、虐待されたり、海賊のおもちゃとして殺されたりする場合もある。

 港まで行くと、多分何人もの死体が、これ見よがしにぶら下げられている事だろう。



 少し進むと、早速地下牢が見えた。中には、うつろな表情をした女性たちがいて、不安げに俺たちを見ている。

「まず水夫から助ける。でなきゃ、女性たちを守り切れない」

 事前にそう言い含めていたので、ジョゼは気丈にも、牢の女性に目をくれずに、洞穴の奥に足を進める。


 牢は続いていて、若い女性の次が、年寄りや子どもの人質。その奥が男たちの牢である。

 削岩作業中に固い岩盤に当たったのだろう。洞穴が右に曲がる。すると、そこに、男たちが監禁されている牢があった。だが、その牢の前には、1人の男が立っていた。



「なんだ?貴様は?」

 男が俺を見て問う。

 だが、それは俺の方が聞きたい。

 あの男、得も言われぬ雰囲気がある。

「ジョゼさん。下がって・・・・・・」

 ジョゼさんを下がらせて、剣の柄に手を伸ばして身構える。


「海賊共では無さそうだが、脱走者か?」

 そう言う男は、黒い鎧を身につけた、黒髪の美男子だ。だが、その目が氷のような冷たい輝きを放っている。

 まるで人を虫の様にしか思っていないであろう目だ。

「・・・・・・魔神、か?」

 俺の言葉に、男が笑う。

「私を知らぬとは、貴様は侵入者か!面白い」

 魔神がいる事は知っていた。だが、なぜ地下牢に?

「なぜこんなところに魔神がいる?」

 俺が問うと、呆れたように男がため息をつく。

「貴様は阿呆か?私は魔神だ。魔神は人間共の恐怖や不安、苦痛を喰らうのだ。であれば、ここ程心地の良い場所など無いだろう」

 確かにそうだ。恐らく匂いも魔神の力で気にならないのだろう。

「それで貴様は、ここで新しく私の餌になりに来たと言う訳だな」

 可笑しそうに笑いながら、魔神が剣を抜いた。

 俺も竜牙剣を抜き放つ。


「私の名は、エムン。魔神王ウラノス様の第一等騎士だ」

 魔神が名乗った。

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