血海航路  海賊の島 3

「あ・・・・・・。にい様?」

 夕方になってから、アールが目を覚ました。

 俺もついさっき目覚めたばかりだった。

「あ、あの・・・・・・これは?」

 アールは俺と裸で密着している事に気付いて頬を赤らめる。

「ご、ごめん。体を温めるために、服を脱がせた」

 動揺しつつ、俺は平静な振りをして言った。

「あの・・・・・・。いえ。ありがとうございます。兄様が助けてくれたんですね?」

 アールは真っ赤になって、もごもごと言う。俺も顔が熱くなる。

「ふ、服も乾いただろうから、そろそろ服を着ても大丈夫じゃないかな?」

 俺もアールもマントの中で身じろぎをする。手のやり場に困ってしまう。

 いちいち女の子の体は柔らかくって困る。

「あ、汗が・・・・・・」

 アールは自ら大量の汗をかいていた事に気付いて、更に真っ赤になる。

「ほら。海に落ちたから、塩で体がベタベタなだけだよ。そうだ。この水筒で体を洗うと良いよ。この水筒は水がなくならないから、髪も洗えるしな」

 とはいえ、タオルは小さいのが一枚しかない。その小さなタオルも差し出す。

 アールはこくりと頷くと、水筒とタオルを受け取り、置いてあった自分の服を手に取る。そして、俺の方を向く。

「に、兄様。見られていると恥ずかしいです・・・・・・」

 真っ赤になって言うので、俺は慌てて後ろを向いた。

 アールの体温が俺から離れていく。

 ガサガサ音がして、アールが洞穴から出ていったのが分かった。

「ふうう~~~。かなりヤバかった」

 見せたがりなミルに慣れていたので、こんな反応をされると、かえって意識してしまう。アールには悪いが、アールの兄としての意識は俺にはないんだ。1人の女の子としてしか見れていない。

 しばらくすると、服を着たアールが洞穴に戻ってくる。

「ありがとうございます」

 俺に水筒とタオルを渡し、モジモジ恥ずかしそうにする。新鮮だ。

「じゃあ、今度は俺が体流してくるよ」

 そう言って、上着を手に取り外に出る。

 木立の中に入って、全裸まつぱになり、頭から水筒の水をかぶる。

 かなり気持ちいい。ほてった体も心も快適に冷やしてくれた。

 ただ、タオルは濡れてるからな~。

 と言うわけで、万能マントで体を拭く。すごいな、このマント。吸水性も抜群じゃないか。で、速乾性。良い物を作って貰った。


 それから、また洞穴に戻ると、2人で食事にした。

 アールもすっかり元気を回復しているようで良かった。



 そして、夜になった。

 俺たちはマントにフードをかぶって洞穴から外に出る。

 今はマントは隠密モードだ。周囲の景色に溶け込む外色に変化している。知っていてさえ、少し離れると、アールの姿を見失う。


 俺たちがやらなければいけない事は3つ。

 まずは、この島の事を知る事。

 次に、人質の解放。

 そして、船を手に入れる事だ。

 

 方法としては、海賊に見つからないように行動しながら、船のありかや人質の居る場所を探す。

 そして、人質を解放して、船を奪う。

 人質の中には、商船の水夫も多くいるだろうから、船を動かして貰えば良い。

 そして、島を脱出する。

 

 言うは易しだが、実際は難しい任務だ。

 そもそも、海賊の人数が分からない。施設の規模や、魔法使いの数も分からない。魔神が荷担しているとなると、さらに難易度は上がる。

 

 別に海賊を殲滅するのが目的ではないので、出来るだけ密かに行動しなければいけない。


 洞穴から出ると、すぐに数人が砂浜まで行った痕跡を発見した。

 多分俺たちが寝ている間に、砂浜に様子を見に行ったのだろう。ちゃんと痕跡を消しておいて良かった。

 なので、今度は逆に、戻っていく痕跡をたどれば、海賊たちの住処にたどり着ける事になる。

 アールは「隠密」のスキルを持っているので、俺以上に隠れる事は得意だから心配いらないな。

 海賊たちは、雑に草を踏み荒らしたり、木の枝を折って進むので、追跡する事は容易い。

 丘を登ると、見張り台がある。下から見ても分からないように出来ているが、見張りはたったの1人だけだった。

 この見張りが機能してしまうと、これからの俺たちの行動にとって、大きな障害となる。


 俺は周囲を「無明」で確認した後、アールを待機させて、見張り台に上がる。

 そして、暇そうに海を眺めてあくびをしていた男の背後に忍び寄ると、素早く組み付いて、首をひねる。

 男は一瞬の驚愕はあったが、痛みを感じる事もなくこの世とおさらばした。

 やはり、気分が良い物ではないな。

 俺は男を担いで見張り台を降りると、男の亡骸を草むらに隠した。

 

 見張り台からは道が続いているので、痕跡を追う必要も無い。

 丘の稜線に沿って道は続き、やがて下り坂となる。

 そこからは、海賊たちの町の様子が一望できた。


 丘の下に小さな湾が有り、湾の入り口はかなり高い堤が築かれていて、海側からは湾の存在も、町の存在も分からないようになっている。

 町の規模は小さく、丘の下に、海に張り出すように建物が並んでいる。

 陸にも建物は有り、道は狭く、区画整理もされていないので、かなりゴチャゴチャと入り組んでいる。

 町に接する丘には、いくつかの穴が掘られていて、どうも丘の内部にも住居や施設がありそうだ。

 

 湾には、3隻の中型船と、ボートや小舟が沢山係留されている。俺たちが奪うとしたら、中型船で、追跡を逃れるためには、他の船は燃やしてしまった方が良さそうだ。

 そして、やはり水夫の助けは絶対に必要だな。


 俺は丘の上から、海賊の町をよく観察する。

 どこに人質を監禁してるだろうか?

 ・・・・・・やはり丘をくりぬいた地下施設だろうな。

 しかし、入り口は見えるだけでもいくつもある。どれだ?

 俺が悩んでいると、アールが一カ所の入り口を指さす。

 なるほど。見張りが立っている入り口だな。・・・・・・しかし、見張りなら、もう一カ所立っているところがある。

「くさいから」 

 アールが小声で教えてくれた。俺にはここから匂いは分からないが、人質が捕らわれている場所は、多分トイレなど無いから、糞尿垂れ流しだろう。かなりの悪臭なはずだ。

 と言う事は、もう一つの見張りのいる洞穴には、略奪品や武器などがあると見て良いだろう。

 まずは人質解放が最優先だ。人質解放は、そのまま俺たちの戦力拡大につながる。

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