血海航路  嵐 3

 海賊たちの武器は、ダガー、カトラス、手斧、弓、棒。厄介なのは網とか。

 中型船で、数は50人ほどは乗っているだろう。

「へへへ。えらく可愛い女が自分からやってきやがった」

 海賊たちが下卑た笑いをする。

 投擲一閃。

 竜牙剣は貫通力には特に特化している。その為、投擲時には、鍔の装飾も、貫通力を持つ切っ先となる。

 竜牙剣は海賊の胸を貫通し、その後ろの男ののど元を貫通。更にその後ろの男の左腕を切断する。そして、回転して戻って来ながら、更に2人の男を切り裂く。

「ぐああああ!」

「ぎゃああああ!」

 叫べたのは、即死しなかった奴だ。

 ミルは勿論だが、アールにも出来るだけ人を殺して欲しくは無い。であれば、騎士となるべく育てられてきた俺が、手を血で染めるべきだろう。

 海賊が悪党で、重犯罪者として、死罪が決定しているとは言っても、相手は人間だ。彼らなりに人生はあったのだろうし、家族がいるのかも知れない。

 だから、相手の命を奪う以上、俺はそれも背負って生きていく。それが騎士の道だ。

 

 俺は船の上を疾駆する。

 俺の竜牙剣に驚いて、動きが止まった海賊たちを次々切りつけていく。

 再び投擲一閃。

「剣を投げたら、奴は丸腰だ!たたみかけろ!!」

 怒鳴る声が聞こえた。あれがこの船の船長だな。

「おりゃあああ!」

「死ねぇぇ!!」

 海賊たちが四方から武器を手に迫ってくるが、あいにくと俺は丸腰じゃ無い。

 ウエストポーチからロングソードを出して、海賊たちの武器を打ち落とす。帰ってきた竜牙剣をキャッチして、すぐさま押し寄せる海賊を切り払う。

 竜牙剣は、敵の武器も易々と切り裂き、体を簡単に切断する。その切れ味は、火炎刀以上である。

 

 剣の振り、動き、足運び、全てに意識が行き渡る。頭も冴え、体が驚くほど軽く、力も溢れている。

 海賊の動きがゆっくりに見えて、全く危険を感じない。

 今まで感じた事が無い感覚だった。

 体の中に眠っていた力がはじけて、一気に溢れ出したような、圧倒的な万能感。

 海賊たちの中にも手練れはいるが、全く相手にならない。

 剣を一振りするだけで、数人の武器を弾き飛ばす。

 なめらかに技と技が繋がり、踊るように剣を振るう事が出来る。

 相手の力の流れる方向も手に取るように分かる。

 剣の先を、相手の剣に振れさせるだけで、相手を引っ張って放り投げる。投げられた相手は、自分の剣を握ったまま、呆然とした表情のまま数人の仲間にぶつかって倒れ込む。

 背後から網を投げかける男に対しては、横薙ぎ一閃で、網ごと胴体を切断する。

 海賊の放つ遅い矢など、俺には当たらない。

 高波によって激しく揺れる甲板も、全く問題にならない。


 何だ?この力は?

 今までの俺と何が変わったんだ?

 俺自身が驚く。

 強くなる明確な目的を持った。それだけで、ここまで自分が強くなれるとは思ってもみなかった。

 これが、祖父が俺の体に叩き込んでいた事の一部なのだ。

 そう。これでもまだ一部なはずだ。


 周囲の事もよく見えている。

 ミルは俺の言いつけ通り、戦闘はせずに、逃げたり、クナイで威嚇したりして、戦場を攪乱している。

 アールは2本の木の棒で戦っている。長さは40センチほどの棒だが、相手の武器を受け止めつつ、人体の弱点に素早く数発の攻撃をたたき込む。

 小さく早く動く戦い方だ。

 揺れる船上でも、その足取りに不安は無い。「闇の蝙蝠」では、船上戦闘の訓練もしてきたのだろうか?



 俺は時には相手の武器も利用しながら戦う。

 そして、手前の大男を袈裟斬りにすると、俺は飛び上がって、竜牙剣を投擲する。

 狙いあやまたず、海賊の船長の首をはね飛ばす。

 それを見た海賊の士気が目に見えて下がる。

「これ以上の戦闘を望むならば、俺が死を与えてやる!死にたくないならば、下に行け!!」

 俺は海賊たちに告げる。

 強くなった実感を得たし、竜牙剣の驚異的な威力も掴めた。

 だが、俺は無駄に命を奪いたいわけでは無い。

 今も、人の命を絶った事への苦痛を味わっている。

 どうか、海賊たちがあきらめてくれるように願いつつ、顔だけは不敵な表情を浮かべ、好戦的な光を目に宿す。

 

 その様子に、海賊たちは次々に武器を捨てて船の下に降りていった。

「よし。一丁上がりだ」

 俺は周囲を見回す。

 俺が殺した海賊は15人。アールは1人殺したが、後は気絶させている。「殺したらダメだ」と俺が言った事が響いているのだろう。

 ミルはクナイで援護してくれていた。もっとも、ミルの出番はこれからだ。


 俺は操舵輪のところに行き、船の舵を取る。

 海賊船の船足は速く、もう商船アホアザラシ号を追い抜いていた。

 そこで俺は舵を切って、アホアザラシ号の前を横切るコースを取る。帆の操作をアールに頼むが、なかなか力仕事なので、やはり上手くはいかない。

 それでも、コース取りは出来た。

 

 俺たちは船尾に集まり、アホアザラシ号の前を通過するタイミングで飛び移る。

 去り際に、ミルが海賊船に火遁の術を使う。

 火はたちまち海賊船に燃え広がり、弧を描いて、他の海賊船の方に向かって行く。

 火は船にとって最大の弱点である。

 船の下に行っていた海賊たちも、船に火が付いた事を知り、慌てて飛び出してくるが、もう遅い。

 船はもう1隻の海賊船を巻き込んで炎上する。

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