血海航路  世界会議 7

 そこで、グラーダ三世が再び発言する。


「耳聡い者なら、すでに知っていると思うが、モンスターは地獄の勢力である事が判明した。

 地獄の第三階層の魔物が、第六、第七階層の魔王によって改造された魔物、それが、地上に出現するモンスターの正体である。奴らは、長期的に、短期的に策略、計略を持って地上に現れる場合がある。特に昨今出没しているロード種が絡むと、その裏にどんな目的が隠されているのかも知れぬ。

 それ故に、モンスター討伐は積極的に行わなければならない。

 だが、それには軍では無く、冒険者たちこそが最も素早く対応できるのだ。

 そうでは無いか?マイネー大族長」

 言われて、マイネーが立ち上がって頷く。

「そうだ。軍じゃ間に合わねぇ。アスパニエサーも、冒険者に助けられた」

「そう言う事だ」

 グラーダ三世も頷き返すが、その内心では、カシムの活躍によるものだと知っているだけに腹立たしい。

 

「では、今後の会議は、大合同軍事演習の実施に向けて、各国の状況も踏まえて協議して行くものとするが・・・・・・考える時間が必要だろう。そうだな。次の会議は・・・・・・3日、いや5日やろう。9月6日に行うものとする。よろしいか?」

 グラーダ三世の提案を受けて、議長が決をとる。

「それと、今日の話は、事が大きすぎて、未だに理解及ばぬ者もいるかと思う。だから、特別に、今日の話を丁寧に解説した図説入りの本を用意している」

 そう言うと、グラーダ三世は、豪華な革装丁の本を手にして、パタパタ叩く。

「機密事項も書かれている、この特別な本、欲しかろう?」

 各国の代表者たちが生唾を飲み込む。世界の真理が書かれている本だ。学者なら、もっとほしがるだろう。

「そうだな。一冊100万ペルナーでどうかな?」

 法外な値段だが、すぐに数人の代表者が手を上げる。

「ハッハッハッ。すまぬ。冗談だ。無料で全員に進呈しよう。後で届けさせる。参考にして、6日の会議に臨んでいただきたい」

 グラーダ三世の言葉に、安堵したようなおかしいような笑いを皆が浮かべた。闘神王でも冗談を言うのだと、新たな驚きもあった。



 議長の言葉が有り、初日の会議は終了した。  



◇      ◇



「何だ、あの話は?人を馬鹿にしておるのか?!」

「事実なのでしょうか?あの、宇宙の話、聖魔大戦の話は?」

「そんなわけあるか?!狂王の狂言だ!もしくは妄言だ!」

「しかし、闘神王がそんなハッタリをする必要性がないではないですかな?」

「リザリエ様の発言だというのが真実ならば、疑うのは不敬ではあるが・・・・・・」

「・・・・・・だがなぁ、ただ信じるには、あまりにも規模が大きすぎて、逆に話が見えてこない。事実ならば、大軍事演習などしたところで、意味がないようにしか思えまい」

「読めん。相も変わらず、あの狂王の考えている事はさっぱり読めん」

 参加者は、それぞれ集まっては、口々に騒ぐが、結局は話の全体像すら掴めず、ただ薄ら寒い思いをするだけだった。




「とんでもねぇ内容だったぞ!オレ様の頭がおかしくなっちまったんじゃねぇかと思ったぜ!」

 与えられた王城の一室でマイネーがぼやく。

「本当だねぇ。しかし、こうして会場を後にすると、騙されてたとしか思えない話だよ」

 同席していた、マイネーの母であるノイン族長も呻く。

「いや。オレ様はカシムたちと一緒に行動していたから、地獄の魔王がとんでもない奴らだって事は聞かされていた。創世竜も第六階層から逃げるだけで必死だったてんだ。だけど、規模ってもんがあるだろうに・・・・・・」

 マイネーが頭を掻きむしる。

「あんたはそんなヤバい奴が出てくるって信じてるのかい?」

「・・・・・・オレ様には分からねぇ。ただ、カシムは何か知っていそうだった。ああ。こんな時にカシムの奴がいてくれりゃあ、何かヒントなり何なりもらえそうなのによぉ~」

 マイネーは、窓を開け放って、城壁で見えないがアール海の方を眺める。

「よくは分からないけど、あの子たちの成功が、今後の世界を左右するって事になっちまったんだね」

 ノイン族長がため息をつく。

「それはかわいそうだねぇ」

「だから、あいつらには俺が必要だって言ったんだよ!!」

 マイネーが母親に向かって怒鳴る。

「それはそれだ!あんた、あんな啖呵切っちまったんだから、『国』にするのは大丈夫なんだろうねぇ!!」

「それは、多分大丈夫だ。それこそカシムの知恵だ」

「じゃあ、演習の方も考えるんだよ!」

「くう・・・・・・」

 母親に言われて、マイネーがうな垂れる。


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