血海航路  世界会議 4

「皆様方、遠路はるばる、よくぞ我が国にお集まりくださった。開会に先立って、まずは先日の騒動について、皆様方を不安にさせた事、お詫び申し上げる。この事については、後にグラーダ国王からご説明があるかと思う。

 さて、この世界会議だが、これはグラーダ条約に則って、各国が参加する義務を負うものである。目的については、グラーダ国王からの聖魔大戦に関する情報の開示がされるものと、期待している。

 各国のトップである皆様方ならご存じの事であろうが、我々の文明は、以前に少なくとも一度崩壊している。それが、聖魔戦争によっての事である。

 近年、モンスターの出現が増えており、ロード種の目撃も多数報告されるようになっている。

 これは200年前の聖魔戦争の時と似ている。この会議ではそれらの対応についても話されるものであろう。

 私としては、この世界会議が、各国一丸となって、この危機を乗り越えていくための、有意義な話し合いの場になる事を願っている」


 次に壇上に上がったのは、グラーダ三世だった。

 居並ぶ各国の代表者は、揃って息を飲む。これは、会議の内容を知らないアインザーク国王も同じだった。


「諸君。まずは先日の事件について話させて貰おう」

 グラーダ三世はそう切り出した。

「単純な話だが、世界会議をダシにして、地獄教徒の殲滅作戦を行った」

 会場がざわつく。

「面白いもので、この私を前にして、どこが2番目になるとか、大同盟でグラーダを倒すとか夢想しておる様だ。だが、その陰謀の手段として、地獄教を利用しようとした者がおる様だ。おかげで、世界中の地獄教徒がガイウスに集結した」

 グラーダ三世のこの言葉に、多くの参加者が肝を冷やす。

「なに。別に咎めておるわけではない。ただし、次、地獄教徒と手を組むようなら、その国は地獄勢力と見なして、地図上から消してやるから、ゆめ忘れぬ事だ。ハッハッハッ」

「な、なんの証拠があって言うのか?!」

 どこかの国の代表者が叫ぶが、グラーダ三世はジロリと見て笑う。

「別に貴国だとは言っておらんが?」

 思わず叫んだ者が、大量の冷や汗を掻いて座る。

「発言は自由だが、多少は頭を使った方が良い。この場は各国の代表者が集う場だ。自国の様な特権や横暴が通用する場ではない。無論私は例外だ」

 そう言って周囲を見回す。


「話を続けよう。

 世界会議をアインザークで開く事にしたのは、ここにラジェット派の本拠地があると睨んでいたからである。代々、アインザーク国王が短命なのと、魔物の出現頻度から考えても、地獄の魔物の影響を受けていたのだろう。

 それ故に、地獄教徒の殲滅作戦を、共に行った。アインザーク国軍の力だけでは手が足りぬとして、アインザーク国王からの要請を受けて、俺が出向き、グラーダ国軍も救援の形で参加していただけの事だ。これはグラーダ条約にも則った手段である。

 グラーダ軍や、アインザーク国王が手配した冒険者の活躍によって、諸君らには一人の犠牲も出ていない。

 これは国民より優先して、そなたらへの護衛に兵力を注いだためである。

 犠牲となったのは、アインザークの国民であり、その事で心を痛めているのはアインザーク国王だと思うが?

 なにか疑問や、異議がある者は挙手せよ」


「挙手お願いします」

 議長が仕事をする。だが、誰からも手は上がらない。最初にさんざん脅されたのだ。この件では下手に藪をつつかぬ方が良かろうと判断したのだ。

 唯一人手を上げたのは、アインザーク国王だった。

「アインザーク国王」

 議長が緊張した声で指名する。

「それで、グラーダ国王。地獄教は完全に消滅したのですか?」

「・・・・・・残念ながら」

 グラーダ三世が首を振る。だが、誰からも非難の声は上がらない。

「地獄教は、殲滅する事は不可能らしい。と言うのも、潜在的な地獄教信徒は世界中にいて、それを己自身でも自覚できていないようだ。

 もし、地獄教徒を消滅させるなら、やるべき事はエレス全土に、無数に空いている地獄の穴を全て閉じる事である」

「それは可能ですか?」

 挙手、指名の後に、ウィンダル国の特使が発言する。

「それこそ、近く起こるであろう、聖魔大戦に勝利する事が必須である」

 グラーダ三世の言葉に、会場がざわめく。

「その、聖魔大戦は、本当に起こるものなのですか?」

 バルタ国首相が発言する。

「起こる!時期までは分からんが、数年の内に起こる。出来れば、あと10年は欲しかったが、どうやらそうも言ってられないようだ」

「どうしてそれが分かるのですかな?」

 グレンネックの宰相が金切り声で叫ぶ。グレンネックでは貴族は高い声でしゃべるのが優雅とされている。

 グラーダ三世は、金切り声に眉をひそめつつ答える。

「我が権能によって、としか説明できぬな・・・・・・」

「以前話された、『エクナ預言書』ですか?」

 アカデミーの学生による研究結果の受賞式典でグラーダ三世が述べた言葉である。「グラーダに秘したる預言書有り」と。

 その言葉に、グラーダ三世は、小さく舌打ちする。あれは話しすぎだった。カシムをはめるために話を大きくしようとして、つい言ってしまった言葉だ。

「・・・・・・違う。エクナ預言書については、まだ公表すべき時期ではない。諸君らがこの会議で何を得るかによっては、公表する可能性もある。だが、今のままでは、諸君らには受け止める事が出来ない事が書かれている。

 よって、まずは諸君らに我らグラーダ国の三聖人と同じテーブルに着く事が出来るように、今日の会議の時間を、講演の時間とさせて貰う」

 そう言うと、グラーダ三世は、一度席に着く。

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