魔都ガイウス  邪眼の魔女 4

「で、ここからは内緒なんだが、どうやら、サイクロプスってのは、世界を創っただけあって、多分魔法道具を作る能力がある。ただ、奴らは知能が低いから、何も作れないだけだ。だが、マースは利口だ。な?」

「もちろんだ」

「だから、その能力を完璧に使う事が出来る。つまり、道具作りに関しては、多分創世竜と同等の力を持っている事になる」

 その言葉に、俺はドキドキしてきた。すごい発見じゃないか?!だが、これは確かに公表しない方がいいな。

「だから、今はこうして売れない魔法道具屋をやっているわけだ」

 なるほど。商売をしている事にしたら、それ以上騒いだり、変に勘ぐったりされないよな。



「って、わけだから、マース。こいつらの話を良く聞いて、装備なり道具なりを作ってやれ。あと、カシム。一応商売だから、代金は支払うんだぞ。料金はちょっとこいつの運営を確認してから決めるが、まあ、心配しないで済む程度だ」

 くう。兄貴は頼りになるなぁ。


「わかった。じゃあ、もう一度見せて貰おう。あと、赤いのを寄越せ」

 パインさんに指名されたファーンが、パインさんの前に膝を付く。

「あれ、なんか頭の中がヌルッとしてやなんだよなぁ~」

 ブツブツ文句を言う。何をしているのかは不明だが、パインさんに任せるしか無い。

 俺はドラゴンドロップをパインさんに渡す。

「なるほどな。次だ」

 次はリラさんが指名される。

 同じように、アール、ミルも順番が回ってくる。

 そして、俺の番になる。

 膝を付いて、姿勢を低くすると、パインさんが額の目の赤い膜を開く。そして、額を俺の額に近づける。

 見た目は怖いけど、綺麗な顔立ちをしているので、こんなに顔が近いとドキドキする。

 だが、次の瞬間、頭の中が赤くなり、生暖かい何かに撫でられて様な感覚を味わう。

 ファーンが言うように「ヌルッ」とした。


「もう良い。今から作る」

 そう言うと、奥の部屋に向かう。俺たちは顔を見合わせてからパインさんに尋ねる。

「あの・・・・・・。見ても良いですか?」

 普通は断られるはずだが、パインさんは全く気にしないように首だけで答える。

 これは貴重な物を見れそうだと、ワクワクしながら、奥の部屋について行った。

 

 パインさんは、イスに腰を下ろすと、目を閉じて、額の目の光沢のある膜を開く。

 額の目が赤く輝くと、ドラゴンドロップに光が集中して当たる。

 すると、ドラゴンドロップが歪んでのび、紐のようになってから、渦巻き状に額の目に吸い込まれていく。

 半分ほど吸い込んだら、残ったドラゴンドロップを机に置いて、右手を自分の額の目に当てる。

「ぬ!」

 力を入れると、吸い込まれた時のように、紐状の赤い渦巻きがニョロロ~~~ンと伸びて、空中で縮まり、すくうように広げたパインさんの両手にいくつかの塊になってガチャガチャと落ちてきた。

「まず、1つ出来たぞ」

 パインさんが差し出すので、出てきた物を受け取る。

 魔法道具って、こんなに簡単に、すぐに出来上がる物なのか?それともサイクロプスハーフだから出来る事なのか?

 俺はただ驚いて、その光景に魅入っていた。

 

 そして、手の中に渡された物を見る。

 何だ、これは?

「・・・・・・ブローチ?」

 俺の手には、同じデザインの8つのブローチがあった。

 デザインは、竜の横顔をあしらった形だ。

「次だ」

 同じ手順で、パインさんが、ニョロロ~ンと作り出したのは、アームガードと、クナイ3本と指輪にイヤリング。

「次だ」

 そう言うと、俺を指さす。

「その魔剣を寄越せ」

 そう言うので、ポーチから、ルドラに切断された魔剣トビトカゲを鞘ごと渡す。ってか、何でトビトカゲを持っている事を知っているんだ?

 すると、どうやっているのか、額の目で魔剣とドラゴンドロップを吸い込む。

 そして、鞘に収まったままの、トビトカゲに似た、別の剣が出てくる。

「最後だ」

 そして、半分くらいになったドラゴンドロップを吸い込んで、俺の手に落ちてきたのは、女性物のおパンツが3枚。

「な?!」

 俺も驚いたが、仲間も驚く。白、ピンク、水色。

「これは何だ?!誰が頼んだ?!」


 全員が首を振る。

「お前が頼んだぞ」

 パインさんが俺を指さす。仲間の視線が俺に突き刺さる。

「いや。ど、どうだろう・・・・・・」

 誤魔化そうとするが、ちょっとこれはまずい。

 俺には心当たりがあったからだ・・・・・・。


「おい!マース!お前、経営滅茶苦茶じゃねーか!!」

 一番奥の部屋からマイネーが怒鳴りながらやってきた。

「んん?何だ。もう終わったのか?!」

 マイネーが凍り付いている空気を物ともせずに言ってくる。

 この際救われた・・・・・・か?

「まあいい。とにかく、報酬をお菓子で要求するのはやめろ!お金を貰うんだ!『代金をいただきます』っていうんだよ!でもって、ちゃんと品物には値段を決めろ!」

 マイネーが怒鳴る。

「私にお金の事など分かる物か!」

 パインさんが吐き捨てるように言う。いや、それだと商売は出来ないぞ。

「幸い、家賃はあと3年分払っているな。となりの坊主はどうした?面倒見てくれなくなったのか?」

「ダンは坊主じゃ無い!成人して、軍に入った。お前がそう仕向けたんだろうが!」

 パインさんが頬を膨らませる。

「ああ。軍師志望だったな。そっか。まあ、それならそっちは期待できるが、市長はどうした?面倒見るように言ってあったろう?!」

 ちょっと分からない固有名詞とか出て来ている。

「市長はうるさいから無視している」

 パシン。

 またしても、マイネーがパインさんの頭を叩く。

「うるさくて良いんだよ。ちゃんと言う事を聞け!!」

「うう。うううううううううう~~~~」

 言われて、パインさんが泣き出した。こうして見ると子どもだよ!

「マ、マイネー。叩くのはかわいそうだ!やめてくれ!」

 俺がマイネーを止める。すると、マイネーもやり過ぎた事に気付いてばつが悪そうにする。

「ああ。マース。悪かった。勘弁してくれ。後でケーキ買いに行こう」

「すいーとぽてとが良い」

「分かった。箱ごと買ってやる」

 言われて、パインさんは涙を拭く。

「マイネー。13歳で、経営は無理だよ」

 俺が口を出す事じゃないと思うが、考えてみれば、9歳で店を開いたんだよな。そりゃ無理だ。

「いや。外堀は埋めたつもりだったんだ。それに、俺も定期的に様子を見に来ていたし、何より、クララーがちゃんと世話するって言ってたからな」

「クララー、2年も来ない・・・・・・」

「あんの馬鹿野郎がぁ!!!!!!」

 マイネーが激怒する。これは本気で腹を立てているぞ!!

「・・・・・・わかった。マース。誰かこの店に寄越すから、そいつと一緒に店をやってくれ」

 マイネーが疲れた様子でパインさんの頭を撫でる。撫でられたパインさんは、やはり不快そうに眉根を寄せる。

「ネルケーがいる」

 パインさんが呟く。

「ああ、隣のお嬢ちゃんな。だけど、あの子もお前と同い年だろ?学校とかまだあるだろうが」

「・・・・・・むう」

 パインさんは何も言い返せなくなったようだ。


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