魔都ガイウス  邪眼の魔女 3

「いたいた!おめぇら、待ってろって言ったのによぉ!」

 疲れ切っているところに、マイネーの声がする。

 見ると、マイネーが走ってくる。

「こらえ性のねぇ奴らだなぁ、ったく!!」

 やってくるなり、盛大にため息をつく。

「マイネー。来れたのか?」

「ああ。やっぱ会議が始まると、抜けるのは厳しそうだ。だから、無理矢理、今来た」

 ふんぞり返るが、マイネーの母親は大丈夫なのか?

「ところで、その様子だと、やっぱり上手く話がまとまらなかったようだな」 

 そう言うや、マイネーが俺たちが逃げ出してきた魔法道具屋にズカズカと歩いて行く。

「ほら。良いから来いよ」

 俺たちは顔を見合わせて、不承不承マイネーの後を追う。


 カラン、カラン。


 ベルが鳴り、俺たちは再び店内に入る。

「戻りが早いな。黄金色の菓子は用意が出来たのか?」

 店主が奥の部屋から出て来ながら言う。

「またそんな事言ってるのか?!」

 マイネーはそう言うなり、店主に歩み寄って、かなり手加減してだが、店主の頭を叩く。

「き、貴様!何をする!?」

 店主がすごい目でマイネーを睨む。

「『貴様』じゃない!オレ様だ!!」

 マイネーが腰をかがめて店主を睨み付ける。

「そんな見た目の奴はマイネーだと言う事ぐらいは分かる!馬鹿にするな!!」

 今にも戦いが始まりそうな雰囲気だが、大丈夫なのか、これ?

「そうじゃねぇだろうが!俺が色々教えたのに、何一つ分かってやがらねぇ!!」

「ちゃんとやっている!だが、こやつらが支払いを拒んだ!」

 マイネーが俺を睨む。俺はブンブン頭を振る。

「おい、マース。てめぇ、こいつらに何て言った?」

 マイネーが店主に詰め寄る。見てみれば、店主は相当背が低い。ミルより少し大きいくらいだ。

「貴様らの一番大切な物をよこせと言った」

 再びマイネーが店主の頭を叩く。

「何でそんな事を言いやがる?!」

 すると、店主の左肩のアーマーからクロヒョウが上半身を出してマイネーに攻撃を仕掛ける。俺たちは肩のアーマーからクロヒョウが出現した事に度肝を抜かす。


「一々叩くな!貴様が教えた事だぞ!」

「てめ!アイとギイを出すなよ!!それと、マース!オレ様がいつそんな事を教えた!」

「アイとギイを大人しくさせたかったら叩くな!それから『マース』と呼んで良いのはクララーだけだ!!」

 2人で言い合いをしているが、仲が良いのか?

「オレ様もマースって呼んで良いんだよ!!それより、何でそんな事言った?!」

「貴様が『お金が一番大事』って言ったんだろうが!?」

 店主の答えに、マイネーが頭を抱えてため息をつく。

「・・・・・・ああ。言ったな。だが、言い方がある。オレ様はちゃんと代金を請求しろと言ったんだ!」

「それがよく分からんから困っているのだ!馬鹿か、貴様は!?だから、代わりに黄金の菓子を3箱よこせと言ったんだ!」

「わかった。お前は馬鹿じゃ無い。オレ様が馬鹿なんだ。だから教えてくれ。その黄金の菓子ってのは何だ?」

 マイネーが呆れたように座り込む。

「そこの菓子屋で売っている、『すいーとぽてと』と言う菓子だ!」

 マイネーが立ち上がり、再び店主の頭を叩く。そして、素早く手を引っ込める。今度はクロヒョウは出てこない。

「だから、代金を請求するんだよ!お金な!」

 店主が頭を押さえて頬を膨らませる。


 

 俺たちは呆気にとられて見ている事しか出来なかった。

「ああ。悪いな。ちゃんと紹介するよ」

 マイネーが立ち上がる。店が小さいので、少しかがんで窮屈そうだ。

「こいつは、マダハルト・パイン。元歌う旅団のメンバーで、魔具師だ。5年ほど前から、ここで店を出しているが、見ての通り、客も近所の数件が希に利用する雑貨屋だ。こいつがこの様子何で、他に客は寄りつかねぇ」

「心外な。ちゃんと経営できている」

「それは後で確認する。覚悟しとけよ」

 マイネーがそう言うと、パインと呼ばれた店主が首を縮める。


 俺たちは店主に自己紹介をする。

「なるほど。マイネーの仲間か。覚えてはいないだろうが、努力しよう」

 変わった人なのは確かだし、扱いにくいのも納得した。

 だが、悪い人では無さそうだ。

「こいつはな、マイネーがトリスタン連邦の山の中で拾った、サイクロプスハーフだ」

「は?」

 俺たちは驚愕する。あまりにもあっさりと言われたが、それが事実なら重大な発見をした事になる。

「おい、マイネー。サイクロプスって、まだ生きてんのかよ?」

 ファーンの疑問はもっともだ。

 一般的には「サイクロプス」は絶滅した事になっている。

 

 「サイクロプス」とは、一つ目の巨人族で、創世竜と同じ創世記に誕生し、このエレスを作ったと言われる、創世の巨人族だ。

 だが、創世竜と違って、無知で、粗暴なため、サイクロプス同士で戦い、人の時代が始まる頃には絶滅した事になっている。

 だが、トリスタン連邦の北の山の奥地では、サイクロプスの目撃証言が有り、それらをまとめると、現在、3体は生存しているのではと、あくまでも都市伝説的に語られている。

 証言からは、25メートル、18メートル、3メートル程度の大きさの異なる個体がいるのではと言われている。

 

 サイクロプスは、創世竜と、一応は同族と言える存在なので、知能は猿以下でも、その肉体は強靱で、暴れると大災害を引き起こすとも言われる伝説上の怪物である。


 リラさんも、この噂は知っていたようだ。

「じゃあ、この方は、サイクロプスと人間の間に生まれた子どもと言う事?」

 リラが尋ねる。マイネーは肩をすくめる。

「子どもだったこいつをクララーが拾った所の先には、粗雑な小屋があって、白骨だけが転がっていた。かなり大柄の女だったようだ。オレ様たちは、サイクロプスに女性が攫われる事件について調べていたんだよ」

 マイネーがパインの頭を撫でる。パインは不快そうに眉根を寄せている。

「大抵の女はサイクロプスの相手をさせられたら体は持たない。だが、こいつの母親は体が大きかったし、強かった。だから、多分ドワーフだったんじゃねぇかと思っている」

「・・・・・・そうか。って、おい。今の話からすると、パインさんは何歳だ?」

 俺は気付いて驚く。

「クララーが適当に誕生日を作ったから、はっきりした事は言えないが、拾った時は、人間の3~4歳くらいの大きさだったから、今は13歳だな」

「成長した!」

 パインさんが胸を張るが、そうは見えない。いや、言われてみれば、そう見えてくる?

 何とも年齢が分からない人だ。1000歳と言われた方が納得いく気がする。

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