魔都ガイウス  邪眼の魔女 2

 奥の部屋には、この魔法道具屋の店主がいた。

 

 イスに座って、こっちを無言で見ている。

 髪は半分が黒で、半分が白。異様に顔色が青白く、アイラインを描いているのか、目の縁が赤黒い。

 唇は紫。

 鋭い目は、睨むだけで人を殺せるような威圧感がある。

 大きな肩アーマーに黒いマント。服も黒で、タイツのようなズボンをはいている。

 座っているので断定できないが、背は小さそうだが、その存在感が強すぎて、おかしな話だが、巨大にも見える。

 何より恐ろしいのが、額に赤い目がある。あれは入れ墨なのだろうか?だが、白目の無い赤だけの目は、つややかな光沢を帯びている。

 

 食堂で旅人が話していたように、年齢がまるで分からない。

 若いようにも見えるが、この雰囲気は、遥かに昔から生きてきたかのような、超越的な物がある。

 何よりも、とても冷たい雰囲気から、人間に好意的には思えない。


「何用だ?」

 店主が囁くように言う。不機嫌そのものと言った口調だ。

 かすれたような声も、恐ろしさに拍車を掛けている。


 俺たちが、昨日ワイのワイのと夢を膨らませていた話など、すっかり飛んでしまった。

「す、すみません。こ、ここが魔法道具屋と聞いて来たのですが・・・・・・」

 かすれそうになる声を、必死で絞り出す。

「そうだ。何か作るのか?」

 店主は、暗がりでイスに座ったまま、値踏みをするかのように俺たちを見る。そして、紫の唇の端をつり上げて、邪悪な笑みを浮かべる。目は1ミリも笑っていない。

「ド、ドラゴンドロップの加工は、出来ますか?」

 若干、ここに来た事を後悔しながらも、俺は切り出す。

「ドラゴンドロップだと?見せて見ろ」

 店主が言うので、俺はウエストポーチから、ドラゴンドロップを取り出す。卵大の、赤い宝石で、創世竜の白竜に貰ったものだ。

 店主は俺の手からドラゴンドロップを受け取ると、額の目の前に持って行く。

 すると、額の赤い光沢の膜が、パカッとまるで、まぶたのように開く。

 すると白目のある、赤い目が出現する。その赤い目が輝くと、またすぐに光沢のある膜が目を覆った。

 どうなっているんだ?

 そう思っていると、店主はドラゴンドロップを俺に返す。

「出来る」

 一言だけ返答する。

「そ、その・・・・・・。どんな事が出来ますか?」

 怖ず怖ずと俺が尋ねると、店主が平坦な口調で答える。

「何でも出来る」

 それを聞いたファーンが、いきなりしゃべり出す。

「じゃあ、ぱっと現れて、ぱっと消えるマントとか、濡れないマントとか、すげぇマントとかって作れますか?」

 ちょっと、落ち着け。何言ってるかさっぱり伝わっていないぞ。明らかに不機嫌そうな顔をしてるじゃ無いか。

「あの・・・・・・すみません」

 俺が言うと、不機嫌そうな店主が、ファーンを指で呼ぶ。

 ファーンは口を押さえつつも、あきらめて店主の前に膝を付く。

「貴様はうるさいからな」

 そう言うと、再び額の目を開いて、ファーンを見る。

「うわぁああ!!?」

 ファーンが衝撃を受けたように尻餅をつく。

「ファーン!!」

 俺はファーンを抱え起こす。

「何を?!」

 俺が店主に抗議しようとするが、店主は再び、凍り付くような笑みを浮かべる。

「貴様の望む姿がわかった。作る事は出来る。人数分か?」

 ええ?出来るのか?昨日話していた夢の様なマントが?

「・・・・・・あの。それで、頼むとしたら、値段はいくらになるんですか?」

 それは大切な質問だ。「寿命」などと言われると困るだろう。

「寿命だったら、ミルのを上げれば良いよ。いっぱいあるんだもん」

 ミルが俺に囁くが、これは却下だ。しかし、最近のミルは可愛いな。


 店主は首を傾ける。

「値段だと?私がそんな物気にとめると思うのか?くだらん」

 店主が「クックック」と笑うと、口の端を歪ませる。俺は思わずゾッとする。

「貴様らの、もっとも大切な物を差し出せ。そうすれば、望んだものを作ってやろう!」

 くっ!とんでもない取引を持ちかけてきた。

「・・・・・・それには応じられない」

 俺はきっぱりと答える。噂は本当だったのだ。

 なぜ、マイネーはこんな所を紹介したんだ?本当にこの店主は元歌う旅団のメンバーだったのか?

 ここでもめたとしても、あのマイネーが認める実力者だ。俺たちでは束になっても勝てないだろう。

「それは残念だ。では、代わりに・・・・・・そうだな。私は今、黄金色の菓子をいたく気に入っている。それを、うむ・・・・・・。3箱ほど持ってきてもらえれば良いだろう」

 今度は黄金の入った箱3つか。かなりの金額だ。即決は出来ないな。

「・・・・・・すまない。出直してもいいか?」

 俺は提案する。ダメだと言われる気がしていたが、店主はあっさりと俺たちを解放してくれた。

「いいだろう。だが、私の好みが変わらぬうちに来ると良い」

 再び、あの邪悪な笑みを浮かべた。




 俺たちは、たっぷり冷や汗を掻いて、店から逃げ出した。

「怖かった~~~~!!」

 ミルが俺にしがみつく。アールは無反応だが、リラさんも、ファーンも、かなり青ざめている。

「カシム。お前よく言った。マジで助かったぜ!!」

 ファーンが俺を褒める。そうだな、褒めて貰おう。俺も我ながら頑張ったと思う。

 ほのぼのとしたこの街の中に、なんであんな化け物が店を構えているのか、不思議でならない。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る